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第8話『私たちはみんなでスターレインなんだ』

桃花さんの後にも何人か引退する人が居て、そして新しく入ってくる人も居て、私たちは多くの出会いと別れを繰り返しながら日々を送っていた。


そして、私が高校生となる頃には国内でも有数のアイドルグループとなっていた。


でも、時々思うのだ。


本当にこれで正しかったのだろうか、と。


何かを得る為に失っていくのは本当に私の願った未来だったのかと。


でも、そんな迷って悩んでいた私の前に、あの時星空の下で出会ったものと同じ光が差し込もうとしていた。


何気なく付けたテレビから流れてきた映像。


そこにはあの時から随分と成長した立花君が映っていた。


『多くの期待を集めて、今バッターボックスに立ちますのは立花君! 山海高校エース、山崎君の球を……捉えた! 大きい! これは、入ったー!! 本年度五本目のホームランです!』


暑い日差しにも負けず、あの時と何も変わらない笑顔を浮かべながらチームメイトであろう人たちと話す立花君を見て、ジワリと胸の奥から湧き上がってくる気持ちがあった。


そしてそのままジッとテレビを見続ける。


結局その試合は立花君たちのチームが勝ったらしいのだが、詳しい事は分からず、私は家に帰ってから立花君について調べる事にするのだった。


そこで分かったのは、立花君が私の思っている以上に凄い人だったという事だ。


小学校の時からずっと野球をやっていて、大野君と一緒に頑張っていたらしい。


私は大野君と話した思い出があまり無いからよく覚えていないけれど、何となく大人しい子だった様な覚えがある。


でも試合の映像を見る限り、そんな雰囲気は感じなくて、むしろ荒々しい姿がそこには映っていた。


大人しいとは言っても、他人とは話さないだけなんだなと納得する。


そして立花君の事を調べて高校の事も知った。知ってしまった。


彼は中学校で全中? という試合を三年間勝ち続けて、野球の上手い人が集まる学校に行ける筈だったんだけど、それを断って、野球では無名の高校に進学したのだという。


その理由は謎だとされていたけれど、私にはその理由が何となく分かった。


だって、その学校は彼の家から余裕をもって通えるくらい近いからだ。


自宅から通える。


ならば、綾ちゃんという妹さんが居る以上、立花君があんなに溺愛していた妹さんを蔑ろにする事なんて考えられなかったのだ。


でも、だからこそ、何も捨てずに戦い続けている立花君を見て、私は自分が情けなく思えた。


手から零れ落ちてしまうものを諦めて、仕方がなかったと自分に言い訳をして、いったい何をやっているんだろうか。私は!


大切なものならば、護らなきゃいけない。


零れ落ちてしまうのなら、掴め! 拾い上げろ!


諦める理由なんて何もないんだ。


私は立花君にまた大きな勇気を貰った事に感謝しながら、私の日常へと戻っていった。


そして今まで以上に、スターレインの仲間に意識を向けて、共に日々を過ごした。


誰か一人欠けても駄目だ。


私たちはみんなでスターレインなんだと。


そういう気持ちを胸に秘めて、私は歩き続けた。


「リーダーってさ。好きな人居るの?」


「好きな人?」


「そう。もしくはタイプでも良いんだけど」


「美月ってさ、いつもいきなり突っ込んでいくよね。前世はマグロか何かだったの?」


「は? いや、普通に人間でしょ。この全身を覆う様な徳の高さ。見てみ。ん?」


「ドヤってる所悪いんだけど、残念ながら私にはその徳が見えないわ」


「はぁ!? 目ェ悪いんじゃないの? 由香里。病院行った方が良いわよ」


「そうはならんじゃろ」


「ま。由香里はいいや。で? どうなの? リーダー。スキャンダルの予定とか無いの?」


「おいおい。スキャンダル期待すんな」


「だって、スキャンダルでも起こさないとリーダーに勝てないんだもん!」


「だもんじゃないよ。人気投票でスターレイン崩壊させてどうすんだ!」


「まぁ、それはそうなんだよね。いや、だったら、こう……寿退社的な方向で行けんか?」


「行ける訳ねぇだろ! 今の状態でそれやったらもう事件なんだよ!」


「そらそうか。仕方ない。別の作戦を考えるか」


「頼むから穏便な方向で行ってくれよ? 時々アンタが怖いよ私は」


「ハハハ! 照れる」


「褒めてねーよ」


楽しそうに話す美月ちゃんと由香里を見ながら、私は先ほど言われた言葉を考えていた。


好きな人。好きな人だ。


勿論ただ単純にその言葉の意味を考えればお父さんやお母さん。お祖父ちゃんやお祖母ちゃん。それに立花君や綾ちゃん。スターレインの仲間や一緒に仕事したアイドルの人。ファンの人。事務所の人。考えだせばキリがない程に居る。


でも、美月ちゃんが言っていたのはそういう事じゃないのだろう。


なら、私はどういう人が好きなのだろうか。と考える。


考えるけれど、やはり答えは出なかった。


「あ。そうだ。リーダー。今度私と百合営業やろうよ」


「アンタ。懲りもせずにまたやるつもり? 何か意味無かったって言ってたじゃん」


「いや、よくよく考えたら、ひかりだけじゃなくて、リーダーにもやれば上手い事二人の票が取れんかなと思ってさ」


「どうせ失敗するんだから、止めた方が良いと思うけどね。……それに」


「それに?」


「沙也加にはひかりが居るから」


「あー。ひかりも百合営業やってんだっけ。被るとメンドクサイかー」


「いや、あれは営業ってか。まぁ、いいや。私は何が起きても知らないからね。やるなら勝手にやりな。ただ、トラブルをこっちに持ってくんなよー」


「任せなさいよ。トラブルだけ由香里に押し付けるわ」


「それを止めろって言ってんだよなぁ!? こんの、承認欲求お化けが!」


「照れる」


「褒めてねーってんだろ」


「由香里。諦めなって。美月はもう駄目だから」


「駄目ってどういう意味よー」


「そりゃそのまんまの意味でしょ」


「アイドルは目立ってナンボでしょ? 私はアイドルとして真っ当に活動してるだけよ」


「そりゃそうかもしれないけどさ。ウチらはそこまで人気投票を気にしてないよ。ま、確かに人気が集まったら嬉しいけどね」


「そうなの? なんで?」


「みんな美月ちゃんと同じ夢を見てるからだよぉー」


「同じ夢? それって、道に迷ったり、立ち止まってしまった人の希望になりたい。って奴?」


「そうだよぉ。だから私たちは、一人一人じゃなくて、みんなでスターレインなの。ふふっ。素敵でしょー?」


「ふむ。まぁそうね。その考えは悪くないよ。ただ、まぁ、それはそれとして、私は誰よりも輝きたいけどね!」


「う~ん」


「諦めな。ひかり。美月はこういう奴だし。それに沙也加の邪魔してる訳じゃないでしょ?」


「それもそうだね。どうせ、美月ちゃんじゃ私や沙也加ちゃんには勝てないし。うん。良いと思うよぉ。好きにすれば」


「何おう! 次の人気投票では見てなさいよ!? その余裕顔崩してやるわ! やっぱり百合営業やるわよ! リーダー!」


「百合……って、前に美月ちゃんがやってた奴?」


「そうそう」


「じゃ駄目ー」


「アンタ。さっき好きにすればいいって言ったでしょ」


「でも駄目ぇー。それだけは、駄目。私ならいいけど、沙也加ちゃんだけは駄目」


「……はいはい。分かったわよ。じゃあ別の手段考えるかぁ」


「ふふ。そうして下さーい」


「んー。ならどうするかな。由香里。私と百合営業やる?」


「やらんわ!! 少しは懲りろ!!」


呆れた様に美月ちゃんと話をする由香里は酷く楽しそうで、新しく入ってきた美月ちゃんも楽しそうだった。


ずっと、ずっとこういう時間が続いていけばいいのにと願ってしまう。


それが難しい事だって分かっているけれど、それでも、と私は願ってしまうのだ。


でも、きっと時が進めばまた誰かと出会って、別れていくのだろう。


スターレインだって永遠じゃない。


それは分かってる。


私たちがアイドルとして求められているのだって永遠じゃない。


でも、だからこそ、今しかない一瞬を大切にしていかなければいけないと。


私は強く思うのだった。

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