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第10話『どんな子でもさ。楽しくやれるよ。きっと!』

あの日から、光を見失った日からずっと、私は暗闇の中でもがき続けていた。


恐怖に抗い続けた。


そして、その行動に何か意味があったのか分からないけれど、彼は長い眠りから目を覚ました。


唐突にライブの最中に聞こえてしまったその言葉に動揺し、動けなくなってしまった私だけれど、ひかりも、他のみんなも、上手く助けてくれて大惨事だけは回避できた様な形だ。


特に美月には感謝の言葉もない。


彼女が居なければ私たちのライブはもっと酷い事になっていただろうから。


「本当にありがとう。美月」


「いや、そんな真面目に言われても困るよリーダー」


「お。なんだコイツ照れてるぞ!」


「美月は素直じゃないからなぁ! 正面から礼とか言われるのが無理なんだろ」


「意外な弱点があるのね」


「えぇーい! やかましい! 別に、リーダーの為にやった訳じゃないよ! あの場面で行けば合法的にセンターに立てるって思ったからやっただけだから! 勘違いしないでよね!」


「あ、それは申し訳ない」


何だ、助けてくれたと思っていたけど、違ったのか。


私は寂しくなり、そのまましょんぼりとしてしまった。


しかし、そんな私に美月ちゃんはオロオロと動揺し、訳も分からず言葉を並び立てる。


「いや、そういう訳じゃなくて、助けたかったというか、そうでもなくて、だぁー! もう! リーダー! 加藤沙耶香!!」


「は、はい!」


「私は貴女を超えてトップアイドルになるんだから、その頂上に居るリーダーが腑抜けてたら、勝った時に嬉しくないじゃない! だから、精々私に抜かれるまでは、一番上で輝いてて」


「はい。分かりました」


「それだけ!!」


頬を朱色に染めながら顔を逸らす美月が何だか可愛くて、四歳差もあるせいか妹の様に思えてしまう。


とても愛おしい。


美月も、みんなも。


これからもずっと一緒に居たい。そう思える仲間だ。


「美月! 大好きだよ!」


「は?」


「おい! ひかり。マジになるな。沙也加のは多分そういう意味じゃない!」


「ちょっと美月ちゃん? 向こうでお話しませんかぁ?」


「ヤバイヤバイ! マジでヤバいって、沙也加! 突然爆弾投げ込むな!」


「ほぇ?」


「だー! この何も分かってない顔! 腹立つ! けど、格好いい!!」


「いや、待って由香里。沙也加が格好いいのは分かるけど、このたまに出てくる可愛さが最高だと思わない?」


「今はそんな話してないんだよ!」


「ちょっと待って。沙也加が格好いいのか可愛いかは重大な問題でしょ。話すべきだわ」


「そうじゃないって言ってるだろ。今はひかりを止める方が大事だっての!」


ドタバタと。


てんやわんやと。


私たちの日常は騒がしいけれど、その日々は笑顔に満ちている。


ゆっくりと時間は進んでいって、私たちもゆっくりと大人になっていく。


でも、この時しかない日常を歩んでいきたいと思う。




【しかし。スターレインも人気になったなぁ】


【これも全部加藤沙也加のお陰って訳】


【古宮ひかりが加入してから明らかにファンの数増えてるんだよなぁ。純粋にファンの数で競ったら絶対に古宮ひかりに勝てんだろ。加藤沙也加】


【はいはい。分かった分かった。すごいすごい】


【古宮ひかりオタクって心底キモイ奴が多いよな。まさに信者って感じ】


【はぁ? どこがキモイのか論理的に説明してみろよ】


【そういう所だろ】


【今お前が実演してるじゃん。はい論破】


【何も論理的じゃねぇって言ってんだろ!】


【荒らしは相手にすんなってのに。しかし実際どうなるもんかと思ったけど、立花含み、どうにかなって良かったぜ】


【それはそう。立花は目を覚ますし、サヤは元気になるし。良い事しかないね。未来は明るい】


【なんでアイドル用の掲示板で高校球児の話してんのか、本当に意味不明で笑うんだけど】


【しょうがないだろ。サヤが立花光佑のファンなんだから】


【俺も野球まったく興味無かったけど立花光佑の試合だけは見てたしな】


【なんか実際そういう奴結構居そうだよな。スターレインオタクに限らずさ】


【確かに。アイドルとか芸能人でも立花光佑とか大野晄弘の応援してるって公言してる奴結構いるもんな】


【切っ掛けはどうであれ、立花に魅せられてファンになる奴が増えるのは良い事だと思うがな。その分露出も増えるだろうし】


【でもまぁ、今回はそのお陰で結構な人間が事故った訳だけど】


【立花も事故ったし、ファンも事故ったし。気持ちが通じ合えたな】


【流石に不謹慎】


【言うて生きてるし、目も覚ましたし、良いだろ】


【これで立花が事故の後遺症で野球辞めますとかになったら、どうすんねん】


【そこまでの重症ならそもそも球場になんか来ないだろ】


【まぁ当日も暑かったしな。ちょっとばっかし熱中症とかで長く眠ってただけだろ】


【今だからこそ、こんな楽観的な話が出来るけど、ホンの一月前を考えると、よくもまぁふざけられるもんだと思うわ】


【そら一か月前は生死の境に居たからね】


【今は復活したし。今年の甲子園は残念だったけど、来年に期待だな】


【古谷だけじゃ、やっぱり打点力が足りねぇんだよな】


【佐々木が全試合0点で抑えれば良いだろ。去年の大野みたいにさ】


【流石に一年にそこまで求めるのは】


【去年は大野も一年だったんですけど】


【おじさんは時間の進み方がよく分かってないから。去年が一年前だという事に気づかない】


【ヤバすぎだろ】


【そろそろ掲示板のタイトル思い出そうか。逸れてんだよ。ここは立花の話する場所でも、野球の話する場所でもねぇ】


【巣に帰れ。巣に】


【スターレインと言えば、そろそろ定例の人気投票だぞ。誰に入れるか決めたか?】


【そらおめぇ、投票チケット爆買いからスタートですわぞ】


【今度こそ由香里一位、由香里一位、由香里一位】


【どうせ上位二人に勝てないのによくやるわ】


【飯塚美月くらいには勝ちたいというのが由香里オタの共通認識】


【勝手に共通認識にするな。狙うのは一位だけに決まってんだろ】


【いつかの前山が突如二位に躍り出た時の様に、石油王を召喚すればいけるだろ】


【なお、石油王の調整により一位は加藤沙耶香になった模様】


【どんだけ頑張っても庶民の財布じゃ勝たせるのは不可能だからな。向こうの財力は億単位だぞ】


【てか前山はなんで石油王に気に入られたんや】


【なんか元々どっかの令嬢だったんじゃなかったか? それで、なんかのパーティーで石油王と話したとかなんとか】


【意味不明な所から票を引っ張って来るな卑怯だぞ】


【等と朝岡由香里オタクが申しております】


【あぁ、あの時も四位だったんだっけか】


【思えばあの時が初めて三位からの陥落だったんだなって】


【最初期二位だった事を考えると、朝岡ってずっと落ち続けてるんだな】


【いや、順位だけで見ると落ちてるけど、票数はずっと上がってるからね。上位がもっとエグイだけで】


【加藤沙耶香はしょうがない。アレが一位から落ちる事はないよ。だって、周りのメンバーもそれを望んでるしな。自分の推しが自分よりも加藤沙耶香が一位であり続ける事を望んでるんだぞ。そら票入れるわ】


【確かに。思えば、推しと加藤沙耶香にほぼ同数入れてるわ】


【これ、ワンチャン。加藤沙耶香に入れなくても首位は余裕だろうし、その余力を推しに回した方が良くないか?】


【ありはありだけど、相当組織的に動かないと、最悪加藤沙耶香が首位から落ちて、地獄絵図だぞ】


【推しの悲しい顔が視たい人にはオススメ】


【最悪の人類出てきたじゃん】


【やっぱり、愉悦の民は滅ぼさないと……】




そして、立花君が起きた日から一年の月日が流れた。


「あ、そういえばさ。知ってる?」


「何が?」


「今度スターレインに新人が入ってくるらしいよ。夢なんとかって子。なんか地方の番組で有名になった子なんだって」


「そうなんだ。今度はどんな子かな。楽しみだね」


「そこまで沙也加様が楽しみだと仰るなら、来た時には盛大に歓迎会を開かないとね」


「うん。そうだね。でもいつ頃来るとか聞いたの? 準備するなら早い方が良いと思うけど」


「あー。そこまでは聞いてないや。なんか社長とかが話してるのチラっと聞いただけだからさ。だからもしかしたら入ってこないかもしれない」


「そうなんだ。でも、どんな子でもさ。楽しくやれるよ。きっと!」


私は満面の笑みでそう言うのだった。

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