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第1話『貴方が……立花君?』

男の子は格好いい物が好き。


女の子は可愛い物が好き。


じゃあ、私は?




「やっぱり、沙也加はこういう服が似合うわね!」


お母さんと一緒に服屋に行って、私が買って貰えるのは男の子みたいな格好いい服だ。


女の子らしい可愛い服を着る機会は今のところあまりない。


「母さん。こっちのスカートも良いんじゃないか? 沙也加もこういう服、着てみたいだろ?」


「ちょっとアナタ! 勝手な事しないで。女だから女らしい服っていうのはもう時代遅れなのよ。これからは性別に囚われず、似合う服を着るべきなの」


「似合うのも大切かもしれないけど。着たい服を着るのも大事だろ?」


「分かった様な事言ってるけど、服なんてロクに分からないでしょ? もし変な服着て、沙也加が虐められたらどうするつもり? 責任とれるの!?」


「それは……」


「ほら、何も言えないじゃない。分かったら黙っててよ。私は沙也加の為にやってるんだから」


お父さんは申し訳なさそうに、私を見ながら何も言わず下がっていった。


私もお母さんの言葉に何も言う事が出来ず、ただ言われるままに、私に似合うという服を新しく買い、家に帰った。




そして、翌日学校で新しく買っていった服を着ていったのだが、まぁ確かに好評だった。


友達はキャアキャアと騒いでいたし、喜んでいた。


お陰で口下手な私でも、何とかクラスでやっていけている。お母さんは正しいのだ。


まぁ、男の子には相変わらず男みたいだとからかわれるけど、女の子の友達が守ってくれるし、私は多分このままで良い。


だから、きっと私のこの胸の奥にある思いは、間違っているのだと思う。


モヤモヤとした気持ちなんて、全部消しちゃわないと。


「でもホント格好いいよね! 加藤さんなら立花君と並んでても絵になりそう!」


「立花君?」


「そう! 隣のクラスの男の子なんだけど! もうほんっとうに、格好いいの!」


「そうなんだ」


「えー。でも加藤さんと並んでたら、なんかイケナイ感じー」


「その禁断な感じが良いんじゃない!」


「アハハ」


友達の話はよく分からない事が多いけど、とりあえず笑って済ませる。


正直私は頭があまり良くは無いし。難しい話は得意じゃないのだ。


人と会話するのだって得意じゃないし。


なら、何が得意かって言われたら、まぁ運動くらいだろうか。


後、歌も……? こっちはよく分からないけど、よく上手いねって言われるから、多分得意だ。


でも料理とか、裁縫とかも得意じゃないし、本当に女の子の才能が無いんだなと何だか悲しくなる。


「おーい加藤! サッカーしようぜ!」


「あ、あぁ。うん!」


だからか。実は女の子と話をしているよりも、男の子と運動をしている方が好きだ。


何も考えなくて良いし。体を動かしているのは楽しい。


私はどこか不満そうな女の子の友達に一言謝罪してから、男の子の友達と一緒に校庭に向かった。


しかし、どうやらいつも使っている場所には既に先約が居る様だった。




「おい! なんで二組の奴らが居るんだよ! ここは一組が使ってたんだぞ!」


「知らねぇよ! 今日は俺らが先に来てたんだから俺らのモンだよ」


「誰が決めたんだよ! そんなの!」


そして校庭の真ん中で、私を含めた五年二組の男の子たちと、既にサッカーボールで遊んでいた五年一組の男の子が言い争いを始める。


私は、今日はサッカー出来ないのか。と残念に思いながらも、なら何をやろうかなと広い校庭を見まわしていた。


しかし、一組の代表と二組の代表の言い争いに、介入した人の声に思わず私はそちらに振り返った。


「じゃあこうしようよ。僕達二組チームと。佐藤君たち一組チームで戦うっていうのは、どう? 勝った方が今日使う権利を貰えるんだ」


「ほー。こっちは良いぜ? 何せこっちには加藤が居るからな!」


「ハッ。誰だか知らねぇが。こっちには立花が居るんだぞ!」


「かかって来いよ!」


「上等だ!」


あれよあれよという間に、サッカー対決をする事が決まり、私たちはそれぞれのチームに別れて、作戦会議を行う。


絶対に負けられないと佐藤君は息を荒くしているが、私も気持ちとしては多分同じだ。


勝負と言われると、負けられないという気持ちが強く生まれる。胸の奥が熱くなる様な感覚があった。


「え!? 立花君と、加藤さんがサッカーで戦うんだって!」


「えぇー!? どっちを応援すれば良いの!?」


そして、どこから聞きつけたのか、いつもより多くの観客を集めながら、私たちの戦いは始まった。


とは言っても、互いにサッカーが凄い上手いという訳でもない。


互いのチームは一進一退の攻防という様な形になっていた。


しかし、いつまでもその状態が続く事を互いのチームの代表は良しとせず、その声はほぼ同時に掛けられた。


「行け! 加藤!!」


「やっちまえ! 立花!」


その瞬間、私はボールを受け止め地面に落とす彼の元へ向かい、初めてこんなにも近い場所で、立花君と向き合う事となった。


手を伸ばせば、すぐに届く。そんな場所で、立花君がジッと私を見ている。


ビックリするくらい整った顔立ちで、何処か優しい目をした人と。


「貴方が……立花君?」


「うん。そうだよ。僕は立花光佑。よろしくね。えっと、加藤さん。だよね?」


「……うん。加藤沙也加。よろしく」


「改めて、よろしく。じゃあ期待されているみたいだし。勝負しようか」


ごく自然にそう言いながら、私を抜き去って、ゴールへ走ろうとしている立花君を見て、私はふと何か小さな違和感を感じていた。


それは言葉にすれば難しいものなのだけれど、それでも私の中にチクリと刺さって残る。


しかし、その隙があまりにも致命的だった。


立花君は一瞬の隙に私の横をアッサリと抜き去って、そのまま駆けてゆく。


そして、そのままゴールを決めてしまった。


「いよっしゃー!! 流石立花!!」


「だぁー!? 何やってんだ。加藤!!」


「あ、ごめん。ごめん。ちょっと考え事してた」


「今は! サッカーに! 集中しろ!!」


「分かってるよ。ごめんね」


私は胸の奥に感じていた燻りを気にしない様にしながら、佐藤君からボールを受け取り、走る。


そして立ちふさがる様に私の前に現れた立花君に向かって、そのまま速度を落とさずに走り、自分の体でボールを隠しながら踵で蹴り上げて、立花君の頭を超えさせた。


何が起きたのか分からず立ち尽くしていた立花君だったけど、すぐに背後から迫ってくる気配がする。


しかし追いつかれるよりも早く私はゴールに向かってシュートした。


立花君の様に力強いシュートは決められないけど、曲がる球で、ボールに反応したキーパーの反対側へとゴールを決めるのだった。


「ぃやりー!! 流石加藤だ! 俺たちの英雄だ!」


「なんだアレ!」


「すげぇー! プロかよ!」


「きゃぁぁああああ!! 格好いい!!」


喜ぶ男の子の友達と女の子の友達に手を振りながら、私は面白そうな人を見つけたとばかりに私を見る立花君に視線を返すのだった。


結局この日の戦いは互いに同点となり、決着はつかないまま休み時間が終わりとなった。


そして勝負はまた明日という事になり、私は高揚した気持ちのまま教室に戻るのだった。


いつまでも、早く、落ち着くことのない鼓動を抱えながら。

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