14 決着
「イヴ!」
ローラが叫ぶと、イヴはローラを見て静かに微笑んだ。そこにいるのはエルヴィンではなく、間違いなくイヴだった。
「もう一度イヴの体にエルヴィン殿下を!イヴを抑えてください!」
クローの言葉にイヴの兄たちが慌ててイヴを抑えつけようとする。だが、突然イヴの兄たちは弾き飛ばされた。
「させねぇよ」
フェインが魔法でイヴの兄たちを弾き飛ばしたのだ。そのまま拘束魔法をかけて動けなくする。
さらに、ヴェルデがイヴに防御魔法をかけて攻撃されないようにした。
「形勢逆転だな、クロー」
ヴェルデが厳しい顔つきでクローを睨みつけると、クローは悔しそうに唇を噛んだ。だが、すぐに不敵な笑みを浮かべる。
「ふっ、ははは、これで勝ったつもりですか?憑依する体がなければ、俺がなればいい」
そう言って、クローは片手を自分の胸に当てると、クローの胸元に魔法陣が浮かび上がる。
「そうはさせない」
突然、どこからともなく声がして、クローの近くに魔法陣が浮かび上がり、そこにはクレイがいた。
「師匠!やっと、やっと会いに来てくれたんですね!」
クローはクレイを見て目を輝かせる。だが、クレイの表情は厳しかった。
「こんなことになるならお前を野放しにするべきではなかった」
「師匠、俺は蘇りの魔法を完成させたんです!今度は自分の体を使ってまた必ず成功させます!だから」
「それはダメだと言っただろう」
クレイがそう言って片手をイヴから出た黒いモヤに向けると、黒いモヤにバチッと電流が走り、稲妻の鎖が拘束する。
「師匠!何をするんですか!」
「お前を追放した時、魔法を取り上げるのはあまりにも可哀想だと思った。だが、やはりあの時に取り上げるべきだったな」
クレイはそう言ってクローの額に片手をかざすと、クローの胸元の魔法陣が消える。そして、クレイの額も輝きだした。
「師匠、何を……!」
「お前は禁忌を犯した。その罪はきちんと償わなければいけない。そして、お前はもう二度と魔法を使うことはできない」
クレイの言葉に、クローは両目を大きく見開いた。
「師匠……どうして!師匠!やだ!俺から魔法を奪わないで!師匠!」
クローが涙を浮かべて懇願するが、クレイは感情の籠らない瞳でクローを見つめている。そして、クローの額に浮かび上がった魔法陣が黄金に輝くと、クローの体から光が四方八方へ飛び散った。
「あ、ああ、俺の、魔力が……」
クローは呆然としながら宙を見つめている。そんなクローを、クレイは魔法で拘束した。
「……!イヴ!」
始終を見届けていたローラはハッと我にかえり、イヴの元へ駆け寄る。イヴは体を起こしているがまだ立ち上がれる様子ではない。それでも、イヴはローラを見て微笑んだ。
「何とか、大丈夫だ」
「よかった……」
ローラが安堵の表情を浮かべると、ヴェルデとフェインもイヴとローラのそばへ駆け寄った。
「怪我を治そう」
ヴェルデがそう言うと、イヴの首元が一瞬輝き、剣でつけられた切り傷が消えた。
「それにしてもよく自力でエルヴィンを追い出したな」
フェインが感心したように言うと、イヴは苦笑した。
「自分でもよくわかってないんだ。ただただ無我夢中で、ローラ嬢を助けなければと思ったらああなってた」
フッと微笑むイヴを見て、ローラは涙を浮かべる。
「ありがとう、イヴ。あなたのおかげよ」
「そんなことない。ローラこそ、俺を助けようとしてくれただろ」
「どうして……どうしてだ……エルヴィン殿下がイヴの体から抜けなければこんなことには……」
ぶつぶつとクローが一人で呟いている。そんなクローへクレイは冷ややかな視線を向けた。
「体となる本体の同意も得ないまま生きてる人間に憑依させれば、本体の魂がそれを拒絶する。拒絶が強ければ強いほど弾き飛ばされるのは当たり前のことだ。そんなこともわからないまま禁忌に手を出したのか、愚か者」
クレイの怒りに満ちた言葉に、クローはいつの間にか涙を流し、嗚咽を漏らす。
「そういえば師匠、よくここがわかりましたね」
ヴェルデの言葉に、クレイは眉を下げて微笑んだ。




