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安心に包まれて

 ヴェルデは気持ちを正直に伝えると、ローラの手を優しく握る。


「でも、今一番不安なのはローラ、君なんだよね。俺はローラを絶対に幸せにするし守ると決めた。そうローラにも言った。それなのに、自分のことしか考えていなかった。こんなんじゃダメだよな。本当に、ごめん」


 ローラの手を自分の額に当て、ヴェルデは俯く。本当は今すぐにでもローラを抱きしめたい。でも、今の自分にはその資格がない気がして、手に触れることが精一杯だった。


「ヴェルデ様のこと、そんなに不安にさせてしまってたんですね。私の方こそダメダメです。私はヴェルデ様と一緒になると決めた時、ヴェルデ様にはいつだって笑っていてほしい、幸せでいてほしいと思ったんです。それなのに、こうしてまた不安にさせてしまっている」


 ローラの言葉に、ヴェルデが顔を上げるとローラの美しい瞳にぶつかる。その瞳はただ美しいだけではない強さを秘めた美しさだった。


「確かにイヴと話をしていて、もしエルヴィン殿下もイヴのようだったならと思いました。でも、そんなのイヴにも失礼です。彼はエルヴィン殿下ではない、末裔であっても別人なのですから」


 一瞬瞼を閉じて、すぐにローラはまたしっかりとヴェルデを見つめた。


「それに、私が今大切で大好きで愛しているのはヴェルデ様です。イヴがエルヴィン殿下に瓜二つでどんなに心の優しい良い人であっても、私は彼に惹かれることはありません。私の心にいるのはヴェルデ様、あなただけです。だから、不安になんてならないでください。私を、信じて」


 ローラは空いているもう片方の手でヴェルデの片手を引き寄せ、両手でヴェルデの両手を包み込む。そして優しく微笑んだ。そしてそれを見たヴェルデの心臓は大きく大きく跳ね上がる。


「ローラ……」


 名前を呟いて、いつの間にかヴェルデはローラを抱きしめていた。優しく、傷つかないように、大切なものを包み込むように抱きしめている。


「俺も、俺の心にいるのもローラだけだ。エルヴィン殿下の亡霊に取り憑かれていたのは俺だけだったんだな。本当に馬鹿だよ。ああ、ローラ、愛してる。心の底から愛してるよ」


 ぎゅっと抱きしめる力が強まるが、ローラを苦しめるような強さではない。ヴェルデの温もりに包まれて、ローラはヴェルデの腕の中で幸せそうに微笑んでいる。


「私も、愛しています」


 ローラの言葉を聞いてヴェルデは体を少し離し、ローラの顔を覗き込む。そして、静かに優しく口付けた。




 ローラがふと目を覚ますと、目の前には美しい寝顔のヴェルデがいた。お互いに思いを伝え合いキスをした後、そのままヴェルデはローラをベッドへ運びとことん愛し尽くした。


 結婚してから体を交えたことは幾度もあるが、ヴェルデはいつも優しくローラを抱く。その度にローラはヴェルデの愛を感じ、自分が自分でなくなってしまうような、まるで溶けてしまいそうなほどの快感を覚え、そのまま力尽きて寝てしまうのだ。


 今回も同じようにいつの間にか気を失って寝てしまったが、いつも以上にヴェルデは優しく、かつ激しくローラへの愛おしさを全力でぶつけてきた。もう無理だといくら言ってもヴェルデが止まることはなく、ひたすらに愛を注がれて体も頭も心も全てが蕩けておかしくなりそうだった。


 ヴェルデの美しい寝顔を見つめながらローラは静かにため息をつく。自分はこんなに愛されていいのだろうか、愛されるほどの人間だろうかと戸惑ってしまう。


(でもそんなこと言ったらきっと怒られてしまうわね。まだわからないのか、もっとわからせないとダメなのかと言われてしまいそう)


 そんな風に思いながら苦笑していると、ヴェルデの瞼が少し動いて、静かに開いた。少し寝ぼけたように瞼をゆっくりと瞬かせていたが次第に意識がはっきりしてきたのだろう、アクアマリン色の綺麗な瞳がキラキラと輝きながらこちらを見つめている。


「……起きていたのか?」

「ついさっき目が覚めたばかりです」

「体、大丈夫?」


 ヴェルデは目が覚めたばかりだが、無理をさせすぎたということを自覚しているのですぐにローラの体の心配をした。


「大丈夫です」

「よかった。無理をさせてごめん。愛が溢れてしまって止まれなかった」


 そう言ってヴェルデはローラを抱きしめた。お互いに何も身につけていない状態なのでヴェルデの体温がダイレクトに伝わってくる。その肌の感触と温もりにローラはまた体の奥が疼くのを感じつつも、ヴェルデを優しく抱きしめ返した。


(なんだか、結婚式の次の日の朝を思い出す)


「嬉しかったのでいいんです、気にしないでください」


 そう言ってヴェルデの胸元にすり、と顔を寄せると、ヴェルデは嬉しそうにぎゅっとローラを抱きしめ、困ったようにため息をついた。


「ローラは煽るのがうまいね。今すぐにでもまた抱きたいところだけど、これ以上は無理をさせたくないから我慢する」


 そう言ってヴェルデはローラの額にキスを落とす。そしてローラの髪の毛を優しく撫でながらヴェルデはローラを見つめた。


「ローラ、どんなことがあっても君を守ると誓うよ。君を狙う人間はローラに近寄らせないし指一本触れさせない。どんな手を使っても守り抜いてみせる。だから安心して」


 ヴェルデのいつにも増した真剣な表情と声にローラは胸が高鳴る。今まで何度も聞いた言葉ではあるけれど、より一層力強く、ヴェルデの思いが感じられてヴェルデから目が離せない。


「ありがとうございます。でも、どうか無茶はしないでくださいね。私のせいでヴェルデ様に何かあるのは絶対に嫌ですから」


 そう言ってローラはヴェルデに抱きつく。ヴェルデのことは絶対に失いたくない、ローラに取ってヴェルデはそれほどまでに大きな存在になっている。

 百年の眠りから目覚めさせてくれた人、そして絶望を受け止め自分の居場所を作ってくれた人だからなのはもちろんだが、今は何よりもヴェルデのことを心の底から愛しているからだ。


「大丈夫、ローラに心配はかけない。俺はこの国の筆頭魔術師なんだから誰にも負けないよ」


 そう言ってヴェルデはローラを力強く抱きしめ返した。


「夜明けまではまだ時間がありそうだ。もう少し寝よう」


 ヴェルデに言われて、ローラは大きな安心感に包まれて微笑みながら瞳を閉じる。あんなに怖かった夜が、今ではすっかり嘘のようだ。そして腕の中にいるそんなローラを見つめながら、ヴェルデもまた嬉しそうに微笑みながら瞳を閉じた。



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