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3 エルヴィン殿下の末裔

 ローラとヴェルデが出店市でエルヴィン殿下らしき人物と出会ってから三日が経った。今、応接室でローラとヴェルデ、そしてフェインの三人の目の前に、エルヴィン殿下と思わしき人物が座っている。ヴェルデとフェインが男の素性を割り出し、接触して屋敷へ迎え入れたのだ。


「わざわざお越しいただいて申し訳ありません」

「いや、ローラ姫のためにも本当はもう二度と接触したくなかったが……あんたたちがどうしてもと言うから仕方がないよ」


 エルヴィン殿下の顔をしたその男は、やや困ったような顔で微笑んだ。その顔を見て、ローラはやはり胸が苦しくなる。


「あなたの素性は一通り調べました。あなたはエルヴィン殿下の末裔にあたる人物なのですね」


 ヴェルデがそう言うとエルヴィン殿下と瓜二つのその男は、ローラを見つめてから静かに息を吐く。そして、ゆっくりと口を開いた。


「ああ。俺の名前はイヴだ。ここから海を隔てた向こうにあるギルジェ国から、兄貴二人と一緒に行商で来ている」


 先日あった時にも思ったが、声までそっくりでローラは息を呑む。こんなにも似ているのに、エルヴィンの末裔とはいえ全くの別人なのだ。


「それで、先日あなたは兄貴たちがローラのことを狙っている、と言っていました。それは一体どういう意味でしょうか」


 ローラの膝の上にあるローラの手をぎゅっと握り締め、ヴェルデはイヴに聞いた。いつもの優しい顔ではなく、真剣で今にも食ってかかりそうな勢いさえああるのだが、それを何とか必死に堪えているのが伝わってくる。

 ヴェルデの隣に座っていたフェインも、イヴの顔をじっと見つめていた。


「説明した通り、俺たち兄弟はエルヴィン殿下の末裔にあたる。エルヴィン殿下は当時ティアール国で斬首されたそうだが、エルヴィン殿下と結婚し子供を産んだイライザとその子供であるユンは、ギルジェ国に追放されたんだ」


 ティアール国とギルジェ国は当時敵対していた。敵対している国に放り投げると言うことは、のたれ死ねと言っているようなものだ。実際、イライザたちの生活はかなり苦しかったようだ。言葉にできないようなことにも手を染め、イライザは何とかユンを育て上げたらしい。


 そして、イライザは息子のユンにこう言い聞かせていたそうだ。


「こうなったのも全てあのローラという女のせいよ。そもそもあの女さえいなければ私は今頃王妃としていられるはずだった。お前だって本当は王位継承があるはずなのに。あの女、死ねばよかったものをただ眠り続けるだなんて、忌々しい。いい?この血筋を絶やすことなく、あの女がもしも目覚めるようなことがあれば絶対に殺しなさい。お前ができなくても、お前の子供、それがダメならまたその子供……未来永劫、絶対にあの女を生かしてはならないわ。もしあの女が目覚めることなくそのまま死ぬのならば、それを見届けなさい。あの女の死があってこそ、私たちは報われるのよ」


 そうして、イライザの呪いのような遺言は、ユンを通して末裔にまでずっと受け継がれてきた。


 イヴの話を聞いて、ヴェルデは怒りを隠せなかった。何がローラのせいだ、ローラはむしろ被害者なのに、勝手に恨んで勝手に死を求めるなど許せない。エルヴィン殿下とイライザのせいでローラは百年も眠り続けることになったのだ。しかも、エルヴィン殿下に命を狙われていたと知ってたからこそ死を受け入れようとしていたにも関わらず、だ。

 ローラの当時の絶望、そして目覚めてからの絶望は計り知れない。ヴェルデがどんなにローラのそばに居ようとも、受け止めようとしていても、本当の意味でその絶望を受け止め切れているのか、ヴェルデ自身でさえ不安になるほどなのにだ。

 

 ヴェルデは怒りに満ちた顔でイヴを見つめるが、イヴはその瞳を見ても動じない。むしろ、淡々とそれを受け止めている様子さえある。フェインはイヴの様子に不思議なものを感じていた。


「ということは、あんたもローラ様を狙っていなきゃおかしいだろ。それなのに、どうして逃そうとしたんだ?」



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