1 予期せぬ出会い
一度完結させましたが、番外編として後日談を掲載です。最後までお付き合いいただけると嬉しいです。
ローラがヴェルデの元で生活するようになって一年が経った。その間に、二人は婚約を経て結婚。結婚式はサイレーン国で行われ、ティアール国第一王子のメイナードも出席し祝福した。
「結婚したのですから、そろそろ様をつけるのはやめませんか?」
式が終わって数週間後。ローラがヴェルデに言う。ヴェルデは相変わらずローラのことをローラ様、と呼ぶのだ。
「それを言うならローラ様だって俺のことを様をつけて呼ぶじゃないですか。俺にやめろと言うならローラ様もやめてくれないと」
「そ、それは……私の方が年下ですし、まずはヴェルデ様が先にやめてくださればと」
「そしたら、ローラ様もそのうちやめてくれますか?」
ヴェルデの問いに、ローラはためらいがちに頷いた。
「わかりました。それじゃ、これからは様をつけずに呼びますね。よろしく、ローラ」
少し意地悪そうに微笑みながら、ローラと鼻先が触れるほどの距離でヴェルデが言う。
(ず、ずるい!そんな言い方するなんて……それに、いざ呼ばれるとドキドキしてしまうわ)
ローラは自分の提案に、ほんの少しだけ後悔をした。
そうして、平穏な生活を送っていたとある日。
ヴェルデとローラは街へ買い物にやって来ていた。サイレーン国には年に数回、他国から複数の行商がやってきて珍しい品物を販売しており、この日は二人でそれを見に来ていたのだ。
「すごいですね、こんなにも珍しい品が沢山……!」
ローラは目を輝かせてあちこちに視線を動かす。そんなローラを見て、ヴェルデは嬉しそうに言った。
「サイレーン国には無い果物や野菜、書籍や宝石や織物などいろいろなものがある。好きなだけ見て回っていいよ」
ローラに様をつけず、敬語ではなくフランクに話すことに慣れ始めたヴェルデだが、ローラはそのことにまだ少しこそばゆさを感じていた。
(夫婦になったのだから当たり前のことなのだけれど、やっぱりまだ恥ずかしいわ……自分から望んだことなのに。でも、ヴェルデ様だって頑張ってくださったのだから、私も早く慣れないと)
そんなことを思いながら歩いていると、ふとローラの目に珍しい織物が飛び込む。そこには色とりどりの織物があり、複雑な刺繍の施された衣服も多数置かれていた。
「いらっしゃい」
フードを深く被った店主が、ローラに声をかけた。
「とても綺麗な織物ですね」
フワッと微笑みながら言うローラを、フードから店主がチラリとみる。フードから少し覗く瞳はルビーのように赤い。その目と合い、ローラは心臓が跳ね上がる。
「っ!……エルヴィン殿下?」
ローラの発した言葉はか細い。だが、その一言は店主の耳にも、そして隣にいたヴェルデにも聞こえていた。
「あんた、まさか……ローラ姫?」
フードを片手でおろし、驚愕の眼差しでローラを見つめる店主。そして、そんな店主を見てローラはついに息を呑んだ。
「どう、して……」
ローラの異変に気づいたヴェルデが、ローラの前に立ち視界を遮る。ヴェルデは店主を睨みつけた。
 




