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23 手紙

「百年も眠っていた!?」


 クレイの屋敷から戻ったローラとヴェルデは、仕事場に来ていたフェインにローラの過去について説明をしていた。ローラがヴェルデの元に来た当初は誰にも話さないつもりだったが、ヴェルデと昔からの仲であるフェインになら話しても問題ないだろうということになったのだ。


「突拍子もなさすぎて、信じていただけないかもしれませんが」


 控えめに、苦笑しながら言うローラを見て、フェインは真剣な顔になった。


「……いや、信じるよ。ヴェルデが連れてきた時点で何かあるんだろうとは思っていたし、クレイ様が関わっていたならなおさらだ。それにあんたもヴェルデも嘘をつくような人間じゃないからな。それにしても、いいのか?俺にそんな大事なことを打ち明けて。本当は秘密にするつもりだったんだろ」

「いいんです。ヴェルデ様と古くからの付き合いであるフェイン様は信頼のおける方ですし、フェイン様には知っていてほしいと思ったので」


 ふわっと優しく微笑んで言うローラを見て、フェインは一瞬固まり、思わず顔を赤らめて照れてしまう。それを見たヴェルデは少しだけムッとしたが、そんな自分に気づいてすぐに苦笑した。


「俺も、フェインには知っていてほしいと思ったんだ。……それにしてもフェインにまで焼きもちをやくなんて俺もどうかしてるな」

「?どうかしたか」


 小声すぎて聞こえなかった最後の言葉にフェインが首をかしげると、ヴェルデは何でもないよと笑った。







 クレイの屋敷から帰ってきて三日後。王城から手紙が届いた。


「来週、ティアール国から来賓を招いて懇親会を開くそうです。それに、俺とローラ様も出席してほしいと書いてあります」

「私も、ですか?」


 サイレーン国の筆頭魔術師であるヴェルデが呼ばれるのはわかる。だが、そもそもティアール国を抜け出しヴェルデとサイレーン国にやってきたローラまで呼ばれるのは不思議だ。


「俺の婚約者として参加してほしいそうです。俺も、今までこういう席に一人で参加しているといろいろと面倒だったので、婚約者として一緒に来ていただけるとありがたいことではあります。……ですが、ローラ様は大丈夫ですか?」


 国として招くのであれば、訪れるのは恐らくティアール国の第一王子であるメイナードとその側近たち、メイナードが来れない場合は第二王子とその側近たちあたりだろう。とにかく王家の人間がやって来るのは間違いない。その場合、ローラの素性を知っている人間が来るはずだ。メイナードであれば事情を知っているので問題ない。だが、違う人間の場合、何かしらやっかいなことが起こりそうな予感がする。ヴェルデとしてはローラを連れて行くのは心配だ。


 それにローラとしても不安が大きい。メイナードの側妃となることを拒み、ヴェルデの婚約者としてサイレーン国へやってきたのだ。ティアール国を捨てた人間だと思われてもおかしくない。どうしたものかと悩んでいると、ヴェルデが手紙の続きを黙って読みながら静かにため息をついた。


「どうやら拒否権はないようですね、メイナード殿下がいらっしゃるのでぜひローラ様を連れてこいと書かれています」

「そう、ですか。わかりました。メイナード殿下がいらっしゃるのであれば、行かざるを得ませんね」


 メイナードが来るのであればまだ安心できる。ローラは覚悟を決めたようにうなずき静かに微笑むと、ヴェルデはローラの両手を優しく握って言った。


「大丈夫です、どんなことがあっても、俺があなたを守ります」


 出会ってから何度も聞いた言葉だ。最初は戸惑い、複雑な思いで聞いていたが、今は違う。ヴェルデのこの言葉が、ローラの中にゆっくりとしみこんで広がっていく。そして暖かい安心感をくれるのだ。


 ヴェルデを見つめ、嬉しそうに微笑むと、ヴェルデは少し顔を赤らめて一緒に微笑んだ。そして、ふと何かに気づいて口を開く。


「そうだ、懇親会と書かれていましたがつまりは舞踏会です。ローラ様にドレスを新調しなければいけませんね。いつもローラ様は美しいですが、着飾ったローラ様もさぞかし美しいでしょう!今から楽しみですね」


 目を輝かせて嬉しそうにヴェルデは言った。





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