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11 距離の詰め方

 ローラがヴェルデと共にサイレーン国へやってきて一ヶ月が経った。


「やはり師匠の魔法が何らかの形で関わっていることには違いないようですね」


 ローラにかけられていた魔法を詳しく解明するため、ヴェルデは仕事場の一室でローラをくまなく調べていた。ローラを調べるためとはいえ、ヴェルデからのスキンシップが日に日に強くなっている気がして、ローラはその度にドキドキしてしまう。


(エルヴィン様とは手も繋いだことがなかったからヴェルデ様にあちこち触られるのはいつまで経っても慣れないわ。魔法の解明のためなのだから、ドキドキする必要もないし、ヴェルデ様だって他意はないってわかっているのに……)


 見た目が異常に美しすぎる目の前の男に、手を握られたり腰に手を回されたり、顔を覗き込まれたりするのは心臓に悪すぎる。早く慣れなければ、とローラは静かにため息をついていた。


「ローラ様、お疲れですか?少し休憩しましょう」

「あっ、いえ、そんなことは……。あの、前にもおっしゃっていましたが、ヴェルデ様のお師匠様の魔法が関わっているというのは、一体どういうことなのでしょうか?」


 まさかエルヴィンに攻撃魔法をかけたのがヴェルデの師匠なのだろうか。だが、そんなことがあればヴェルデがこんなにも落ち着いているわけがない。


「まだ予想の域を出ないのですが、おそらくエルヴィン様に向けられた攻撃魔法からローラ様を守ったのが師匠の魔法だと思われます」


 ヴェルデの言葉に、ローラは驚いて両目を大きく見開いた。現代に生きるヴェルデの師匠が、なぜ百年も前のローラを守ったというのだろう?あり得ないことなのではないのだろうか?


「でもなぜ師匠がローラ様を守るようなことが起こったのか、それは本人に聞いてみないとわかりません。ですので、本人に直接会って聞こうと思っているのですが、師匠は隠居しているにも関わらず忙しい身なのでなかなか会うのが難しいのです。そろそろ返事が来てもいい頃なのですが……」


 そうヴェルデが言うと、窓から一羽の美しい鳥が入ってきた。艶々とした青色のその鳥は、キラキラと光を放っている。


「おや、ちょうどいいタイミングで返事が来ましたね」


 ヴェルデが嬉しそうにそう言うと、その鳥は輝きを増し、突然姿が無くなり映像が映し出された。そこには一人の男性が映っている。あまり鮮明ではないのでよく見えないが、その男性を見た時、ローラはなぜか懐かしさを覚えた。


『やあ、ヴェルデ。久しいね。もらった手紙の内容はわかったよ。明後日なら時間を取れそうだ。一日家にこもっているから遊びにくるといい』


 男性が言い終わると、映像は光と共に消えていった。


「今のが師匠です。よかった、ようやく会いに行けますね。これでローラ様の百年の眠りの謎も解けるかもしれません」


 嬉しそうにローラの両手をとって笑うヴェルデ。だが、ローラは少し戸惑っていた。


(もし、眠りの魔法の解明が終わってしまったら、私はヴェルデ様のそばにいる必要がなくなってしまうのではないかしら……私がここにいる理由が、なくなる?)


 ほんの少しの不安がローラの中に湧き上がる。


「ローラ様?どうかしましたか?」

「えっ、あ、きゃあっ」


 ヴェルデの顔が急に目の前に現れて、ローラは驚いて思わず後退りしてしまう。そしてそのまま足がもつれ、ローラは後ろに倒れそうになった。だが、ヴェルデが片腕を腰に回してローラを引き寄せ、ローラを腕の中に抱え込んだ。


「ローラ様、大丈夫ですか?驚かせてしまってすみません」


 腕の中に抱え込んだまま顔だけをローラに向け、覗き込むヴェルデ。


(ちちちちち近い近い近い!近すぎます!)


 一気に顔が赤くなるローラを見て、ヴェルデは少し嬉しそうに微笑んだ。


「おい、ヴェルデ、畑の薬草の収穫が終わったぞ……って、邪魔だったか」


 急に部屋に入ってきたフェインは、二人を見て一瞬眉を顰め、すぐに部屋から出ようとする。


「ああああの!大丈夫です!フェイン様、畑仕事でお疲れでしょう?今、お茶をお持ちしますので!」


 慌ててヴェルデから離れると、ローラはそう言ってそそくさと部屋を出ていく。そんなローラをヴェルデは少し物足りなそうに眺め、そんなヴェルデをフェインは真顔で見つめていた。


「部屋に入ってくるときはノックしろと言ってただろ」

「悪い、今ままでの癖でつい」

「今はローラ様もいるんだ、少し気にしてくれよ」

「邪魔されたら困るし、か?」


 フェインがふん、と鼻を鳴らしながらそう言うと、ヴェエルでは苦笑する。


「まぁ、今のはハプニングみたいなものだけど、そうだな。あのままもっと距離を詰めるのも悪くなかったかもしれない」


 ヴェルデの返事に思わず渋い顔をするフェインを見て、ヴェルデはやれやれとため息をついた。







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