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苦手な方はご注意ください。

短編集

現代ダンジョン攻略は自己責任で

作者: よぎそーと

「自己責任だ」

 にべもなく言い放つ。

 聞いた者達はその言葉を嘲笑う。

「まあまあ、そう言わずに────」

 たしなめようとした者は、次の瞬間吹き飛んだ。

 体が宙に舞い、壁に叩きつけられる。

 衝撃に何も言えなくなった。



 現代日本にダンジョンがあらわれて数年。

 迷宮からあらわれる怪物相手に、恐慌状態に陥ったのも既に昔の話。

 迷宮に挑むようになった者達によって怪物の出現は大きく減った。

 外に出た怪物も多くが駆逐されている。

 このおかげで日常生活を脅かす危機は大きく減少している。

 完全に怪物の脅威が消えたわけではないにしてもだ。



 とはいえ、完全に消え去ったわけではない。

 ダンジョンからは時折だが怪物が抜けだしてくる。

 外に出た怪物も、野に潜んでいる。

 これらがたまに人里に出て暴れる。



 弱小の怪物なら良い。

 だが、暴れる怪物は人に簡単に対処出来る簡単なものではない。

 ダンジョンから出て来るものは、内部に居る探索者を退けて出て来たものだ。

 ダンジョンの外で生き残ってるのは、軍隊を撃退して生き残ってる者達だ。

 それこそ暴風や濁流、地震のような対抗できないほど大きな暴威だ。

 並の人間に抵抗出来るわけがない。



 例外は探索者だ。

 ダンジョンに挑み、怪物と渡り合う者達。

 その過程でレベルを上げ、人を超える能力を手に入れた者達。

 このゲームのような要素が現実に存在し。

 これを上げて能力の段階を上げて人間を超えた者達。

 それが探索者である。



 当然の流れとして、探索者に外に出た怪物の退治が求められた。

 そして、にべもなく断られ続けている。

 それが今現在の状況だ。

 そんな探索者がもたらす言葉が冒頭のものになる。

「自己責任だ」



 自己責任。

 他人に全てを押しつける魔法の言葉である。

 この言葉で探索者達は要請の全てを撥ねのけた。

「お前らがやればいいだろ」と。

 当たり前のように突きつける。



 探索者達は、かつてこの言葉が全盛期だった頃に叩きつけられた者達だ。

 就職も出来ず、業務内容や環境で虐げられても。

 その全ては周囲の状況ではなく、本人の責任であると。

 採用人数が圧倒的に少ない事も。

 業務とは無縁な嫌がらせなども。

 全ては採用されず、虐げられてる者達の責任だと。



 そう言われ続けた者達だ。

 なので、同じ事をやり返している。

「自己責任だ」と。



 言われた側はそんな発言に冷笑を返した。

 何を言ってるのだと。

 他の者達が困ってるのだと。

 ここは冷静になってと。



 次の瞬間、言った者達は死んだ。

 容赦なく殺されていった。



「何言ってる?」

 反撃をした者達は冷静に冷淡に応えた。

「自己責任だ」

 怪物に殺されるのも。

 反撃のために努力してないから。

 なぜ強くならない?

 レベルを上げればどうにかなるだろ。

 ……探索者達はそう伝えた。



「殺されてるのもだ」

 探索者達を説得という強制・強迫をしに来た者達が死んだのもだ。

「ふざけた事を言うからだ。

 殺されるのも当然だろ」

 人に対する最低限の態度。

 それがなってない。

「人にものを頼む時の礼儀くらいわきまえろ」

 それが出来てないのだ。

 死んで当然である。



 探索者は冷淡だった。

 全てを自己責任とした。

「お前らがやればいいだろ」

 怪物がいるなら倒せばいい。

 その為に必要な努力をしてない。

 探索者のせいではない。

 なのになぜ探索者が責任をとって怪物と戦わねばならないのか?



 報酬も得られない。

 成果が手に入るわけでもない。

 それなのに危険な怪物退治をさせる。

「何を考えてんだ?」



 実際、奉仕活動として怪物退治をさせられそうになった。

 他の者達が危機にさらされてるのだからと。

 そんな善意を利用しようとしてくる。

 命がけの仕事だというのに。

 こんな事を強いてくるのだから殺されて当然である。

「自己責任だ」

 ふざけた事を強いてきたのだから、死ぬのは当たり前。



 ならばと報酬を用意してもだ。

「いらない」

 探索者にしてみれば、対価があっても引き受ける気が無い。

 なんで無理して戦わねばならないのか?

 理由がない。

 報酬が欲しければダンジョンで戦えばよい。

 そこで十分報酬が手に入る。

 わざわざダンジョンの外にいる怪物を探して倒す必要がない。



 そもそも報酬が支払われるわけがない。

 払うといって決して払わなかった事が何回かあった。

 そんな事があってから、報酬で探索者が動く事はなくなった。

 なお、報酬を未払いにした者達は残らず死滅した。

 怪物の被害を受けていた者達も同様に死滅した。

 怪物が死ねば利益を受けるのだ。

 全員同罪となった。

 これも当然の結果だ。

 やった事への報いなのだから。



 いい加減にしろと怒鳴れば。

 一撃で殺され、二度と何も言えなくなる。

 怒鳴らなくてもすぐに死ぬ。

 何かを要求すればそれだけで死ぬ。

「なんで俺達にやらせる?」

 困ってるなら、困ってる者が自己責任で頑張れば良いだけ。

 なのに、なぜ他人にやらせるのか?



 ならばと警察や軍隊が動こうとした。

 残らず全て殲滅させられた。

 自分たちに危害を加える存在を探索者達は許さなかった。

 存在する事すら。

 本人だけでなく、親兄弟に子供、友人も。

 それだけでなく、ただ近くに住んでいただけの者達も。

 脅威になるなら、周囲の人間にも容赦しない。

 こう示す事で、何か行動を起こそうとする者の周囲を動かす。

 止めないと自分たちが死ぬ事になる、ならばなんとしても探索者への刺激をさせないようになる。



 関係のない者に危害を加えるな、などという戯言に耳を貸す探索者はいない。

「嫌ならバカを止めろ」

 そうすれば余計な被害は出ない。

 周りの者が我関せずと動かないのも問題だ。

 止めなければ同罪。

 それが探索者側の答えである。



 実際、こうする事で探索者にふざけた態度を取る者は激減した。

 効果はあった。

 ならば、周りの人間もろとも殺す。

 それが嫌なら、馬鹿げた行動を止めれば良い。

 やらずに済まそうという虫の良い話などない。

「自己責任だ」

 何もしないでいるのも責任が伴う。



 自分だけは助かろう。

 そんな甘い考えがそこにある。

 探索者はそれを許さなかった。



 だいたい、探索者からすれば、

「なんで一々俺達が頑張らなくちゃならんのだ?」

という事になる。

 周りの連中が動いて止めれば良い。

 それを怠ってる奴等など全て同罪だ。



「それに」

 探索者からすれば不可解な事もある。

「関係ない奴なら、別にどんだけ死んでもかまわねえだろ。

 お前らに関係がないんだから」

 無関係な人間がどれだけ死のうと、人は気にしない。

 関係があるから同情し同調し哀惜をおぼえる。



「関係ある奴が死ぬのがいやなんだろ」

 わずかなりとも関係があるなら、人は他人であっても傷つくのを拒むもの。

 そんな人間を守ろうとするのが、「無関係な者を巻き込むな」という言葉の真意だ。



「だったら徹底的に潰してやる」

 そこが弱点なのだ。

 徹底的に突くに決まってる。

「嫌ならふざけた事をするな」

 そして、するべき事をしていれば良い。

 何にしても弱点を守りたい。

 そんな浅ましさしかない。



「守りたいなら自己責任でやれ」

 言うべき事はこれしかない。



 つまりは探索者と同様にレベルを上げていけば良い。

 強くなって自分で怪物を倒せば良い。

 実に単純明快な話だ。

 探索者達はそうしている。

 他の者もやればいいだけ。

 レベルを上げて強くなって、ダンジョンから出てきた怪物を倒せば良い



 もっとも、ダンジョンは探索者が牛耳っている。

 自己責任を押しつけられた世代だけで独占している。

 他の者達は全て排除して。

 おかげでレベルを上げられるのは特定の世代だけ。

 ダンジョンで得られる資源を手に入れることが出来るのもだ。



 当然、怒声が叩きつけられるが、

「自己責任だ」

 全てこれで終わる。



 実際、自己責任といえる。

 氷河期やロスジェネと呼ばれる者達。

 自己責任世代ともいえる者達。

 彼らは真っ先にダンジョンに潜った。

 他に生きる道もなかったからだ。

 だから死に物狂いでダンジョンで活動をした。



 共に入った者達の死を乗りこえ。

 生き残るために智慧を絞って技術を身につけて。

 様々な検証と対策を行って。

 努力と苦労を重ね、危険を乗りこえて攻略方法を編み出したのだ。

 他人に奪われる筋合いはない。

 全てを自己責任で成し遂げた。



 そして攻略方法にのっとれば、ダンジョンは有力な資源地帯になる。

 魔力というこれまで存在しなかったエネルギー。

 人間の能力を底上げするレベル上昇という現象。

 これらを他の者達に提供する理由がない。



 ダンジョンは自己責任世代の資源となった。

 苦労して手に入れたのだから当然である。

 そこに他の者をいれる理由が自己責任世代には無かった。

 なぜ優位性をわざわざ手放さねばならないのか?

 そこまでバカになる理由は探索者達にはない。



 ダンジョンの外にいた者達からすれば裏切られたような気分になった。

 なぜ自分たちのものにならないのかと。

 どうして自己責任世代は自分達を切り捨てるのかと。

 馬鹿げた話である。

「俺達を切り捨ててた連中が何を言ってんだ?」



 自己責任で切り捨てられていた者達だ。

 なぜ切り捨てた者達を助ける必要があるのか?

 まったく理解が出来ない話だった。

 馬鹿げてるとしか言い様がない。



 そんな連中がどうなろうと知った事ではない。

 助けてやる気になるわけがない。

「大変なら自分たちでどうにかしろ」

 さんざん自己責任を押しつけてきたのだ。

 言ってる者達が率先して行えばよい。



 もちろん無理なのは分かってる。

 現代兵器で対抗できないのが怪物だ。

 比較的弱いものならともかく。

 一定以上の強さの怪物に効果のある兵器はない。

 あるとしたら核兵器だけだ。

 これならば強力な怪物も倒せる可能性がある。



 もっとも、都市部などでは使えない。

 水源地などでもだ。

 その他、人類に害を及ぼす可能性のある場所での使用は躊躇われる。

 強力であるが故に使いどころが難しい。

 この為、怪物対策で核兵器が使われた事はない。



 使う直前までいった事はある。

 だが、発射前に探索者が核兵器を破壊した。

 狙った場所がダンジョンだったのが理由だ。

 そんな事、探索者が許すわけがない。

 発射をしようとした核保有国を探索者は滅亡させた。

 今、アメリカ・ロシア・中国は無人地帯になっている。

 その他の核保有国も同じだ。

 いつ攻撃を仕掛けてくるか分からない危険のある国々だ。

 探索者からすれば、そんな危険な連中を野放しには出来ない。

 核兵器ごと処分して、憂いを断ち切っていった。



 こうして人々はダンジョンの外に出た怪物に怯える日々を送っている。

 対抗できる唯一の存在である探索者はこれらを放置。

 自分たち以外の人類を助ける理由がないのだから当然だ。

 助かりたければ怪物を倒せばいい。

「自己責任だろ」

 なぜやらないのか、探索者には理解が出来なかった。



 特におかしな事はない。

 やられた分をやりかえしてるだけだ。

 復讐であり、当然のことだ。

 何も悪い事はない。

 むしろ善行を行っている。



 復讐とは、やられたから行う反撃である。

 これが駄目だというなら、加害者が一方的に利益を得る。

 そんな危険地帯を生み出す事の方がおかしい。

 復讐は、こんな状態をただすための方法だ。



 探索者達は復讐・報復をしている。

 危険な存在を殲滅している。

 生かしておく事はない。

 問題をおこした者が生きていれば、再び同じ問題が発生する。

 悪事を行う人間は必ず悪事を再び起こす。

 そんな危険物を生かしておくわけにはいかない。



 おかげで世の中は少しだけ改善していっている。

 他人を利用するクズは減った。

 自力でどうにかしようとしないクズは減った。

 まだ幾らか残ってるが、以前より大幅に減った。

 探索者が頑張って処分したからだ。

 おかげで地球人口は20億人を下回った。

 その分住みやすくなった。



 そうする為にダンジョンから怪物を放出した事もあった。

 おかげで地球上には様々な怪物が出回っている。

 特に竜や悪魔といった危険な存在がだ。

 これらをそれなりに解放して、人類の掃除を進めた。

 探索者に問題が及ばない程度に調整をして。



 それでもたまに怪物が外に脱出する事もあるが。

 さほど多くもなければ問題はないので放置している。

 ただ、たまに探索者に怪物退治を求めにくる者もいる。

 そういった者達は、冒頭のようになる。

「自己責任だろ」

 なぜ自分たちでやらないのか?

 探索者には理解出来ない事だった。



 世界中の人類は怪物相手に必死の抵抗を繰り広げている。

 失った核兵器以外の全てを用いて。

 生存圏を何とか確保しながら。

 それも少しずつ削られて減少しているが。

 探索者達にはどうでも良い事だった。

「自己責任だろ」

 怪物に対抗できずに滅びるのも。

 撃退して生き残るのも。

 全ては自己責任である。



 そして。

 どうにか怪物を撃退して数が減れば。

 その分以上に怪物をダンジョンから放出する。

 そうして人類に脅威を与えていく。

「俺達も常にダンジョンを制圧出来るわけじゃないから」

 たまに警備が緩む日も出てしまう。

 回復まで時間がかかる事だってある。

「ま、自己責任って奴だ」

 怪物が外に出る事で発生する損失。

 それは巡り巡って探索者にも及ぶ。

 だから、その負担は探索者の自己責任で引き受ける事になる。



 もっとも。

 探索者が受ける損失などほとんどない。

 既に自給自足体制は出来上がってる。

 必要な物資のやりとりすら必要としてない。

 貿易もないから、余所でどれだけの損失損害が出ても、探索者に影響を与える事はなかった。



 強いていうなら、外に出た怪物が探索者に襲いかかる事くらい。

 だが、外に出てるのは探索者には処分できる程度の存在でしかない。

 他の人類にとっては脅威でも、探索者が困る事はなかった。

 それくらいの強さを探索者は身につけていた。

 自己責任で。



 自己責任世代である探索者。

 彼らは努力で能力を高めた。

 それなのに他の人類は探索者に怪物退治を求めてくる。

「自己責任、自助努力はどうした?」

 散々求めてきたのに。

 なぜ自分はやらないのか?



「自分でやれ」

 他に言うべき事はない。



 人類は緩慢な滅びの道を辿っている。

 一握りの世代を除いて。

 その世代は、他の人類と違い、緩やかに増えていっている。

 子をなして次世代を育みながら。



 人類は終わるだろう。

 ダンジョンから放たれた怪物によって滅ぶ。

 だが、命がけで戦ってる者達が生き残る。

 ダンジョンの中に挑みながら。



 今日も地球上のどこかで人は居場所を失っていく。

 今日もダンジョンに潜り、踏破した場所を増やしていく。



 やがて時が来れば、地球上から人は姿を消す。

 それまでにダンジョンの攻略が為されるか。

 それとも、結局はダンジョンを制覇できずに終わるか。

 それはまだ分からない。



 ただ、その時が来るまで人は怪物と戦い続けた。

 対抗するために探索者に応援を求め。

 その全てを拒否される。

 救いを求めた者も、その関係者も、求めた者達の村や町も滅ぼされて。

 その全ては自己責任でなされる。



 他人に責任を押しつけるために使われる自己責任によって。

 本来の意味とは正反対に使われながら。

 ただこの言葉を押しつけられた者達だけが、本来の意味で行動し、成果を手にしていった。

 自己責任による自助努力。

 それで手にした全てを。



 そうしなかった者達がふさわしい最後に陥っていくのと対称的に。

 他者に自助努力をさせ、何も手に入れず。

 ただただ全てを失っていく。



 当然の結果に全てが流れついていく。

 そこに不思議は一切ない。

 ただ、当たり前が当たり前に存在するだけ。

 あるべき正しい姿がそこにあった。

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