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慢心ダメ、絶対

 もしかしたこの流れのまま解散することが出来るかと思ったが、そんなことはなくぶつかったことに怒りを覚えているのかかなり怖い顔をしたまま鳴き声を上げる。


 ぶつかったときに結構でかいなと思ってたけど、こうして見るとかなり迫力あるな。


 茶色と白の羽毛に黄色い嘴。まるで鷲を2~3mほどにまで大きくしたようなその魔獣は、翼をはためかせながらこちらを鋭いまなざしで見降ろしてくる。言葉が通じない以上、戦闘は避けては通れないだろう。


「ちょうどいい、スライムを使いながらの戦闘を試してみたかったんだよ。それに──」


 もしこのあほ程でかい鳥を食べたら空を自由に飛べるかもしれない。そうなれば今後の異世界ライフ、めちゃくちゃイージーゲームになる。やっぱ移動手段の確保は大事だと思うんだよね。空を飛ぶってどんな感じなんだろうなぁ・・・・・・風とかめっちゃ気持ちよさそう。それに空を飛べたら色んな所を短時間で見て回れるから旅行にも便利そうだなぁ。


「ギャアア!」


「──はっ!妄想はここまでにしてとりあえずは戦闘に集中しないとだな」


 俺はナイフを構え戦闘態勢に入る。少し前の俺ならばこの鳥の大きさに恐れて、回れ右からのクラウチングスタートを決め込むところだったが、今の俺はひと味違う。体の一部を物理攻撃がほぼ無効化されるスライムに変化させることが出来る。さらにそのスライムを駆使し、木々を上手く使いながら戦うことが出来る。

 

 一方でこの鳥は大きな体のせいでこの森の中では動きにくい。もちろん木が少なく、比較的動きやすいところもあるが、それでも大分機動力は削がれているだろう。防御力、機動力面においてかなりのアドバンテージ、これなら全然勝機はある。


「ギャア!!」


 来たっ・・・って──


「はやっ!?」


 翼をバサバサと動かし宙に浮いたかと思えば、こちらに向かって飛び蹴りを放ってくる。予備動作があったおかげで何とか回避することが出来たが、想像以上に素早い動きに俺は動揺を隠しきれない。誰だよ、アドバンテージあるとか言ったやつ、俺か。


「体でかい割にはまじで俊敏だなこいつ・・・あっぶな!!」


 スライムを木に巻き付けて移動したり、地面を転がったりしながらくそでかい鳥の攻撃を回避していく。相手の攻撃はかぎ爪を使ったり、嘴でつついたりと単調なものが多いが、そのどれもがかなりの速度で繰り出されるため、厄介極まりない。極めつけは──


「っぶねぇ!!」


 俺は木の陰に転がりながら移動する。直後ずしんずしんと盾代わりにしていた木が揺れ、頭上から葉っぱがはらはらと落ちてくる。


「かなりめんどくさいな・・・」


 こんなにも苦戦を強いられている原因の半分が俊敏な動きであり、もう半分はあの鳥が使う風魔法である。翼を振ると同時に放たれる風の刃、かすっただけでもかなーり痛そうなこの攻撃がもうめんどくさすぎて運営にクレームを入れたくなるレベルだ。


 まず威力がおかしい。学園生活で風魔法を使う人間はかなりの数いたが、威力が桁違いである。かすっただけでも涙が溢れて止まらないくらいには痛そうである。そして、魔法の詠唱がない。ほぼ予備動作なしで放たれる高威力の風の刃・・・なるほどこれは妖魔の森ですわ。

 

 相手の魔力が切れるまで避け続けるのも一つの手なのだが、相手がどのくらい魔力を有しているのかや、そもそもそんなに避け続けることが出来るのかという問題があるためこれは得策ではない。じゃあどうするべきか。


「そんなの一撃で仕留めるのが一番手っ取り早いだろ」


 せっかく人にはない力を持ってるんだから、それを生かさないとな。


 俺は一つ大きな深呼吸をした後、隠れていた木の陰から勢いよく飛び出す。それとほぼ同時に鷲から風の刃が放たれる。が、俺はスライムの腕を木に巻き付け、ターザンのように空中を移動することで回避する。


 そして俺は木の枝を掴んだまま、ぐるりと半回転し体をかなり高い位置まで持っていく。もうここまでくればお分かりだろう。落下した勢いのまま相手に攻撃をして仕留める、漫画アニメでよくありがちなかっこいいやつだ。


 え?落下した時に自分も大ダメージを喰らうだろって?ちっちっち、俺にはスライムの体があるんだぜ?そんなのぶつかる寸前に地面との間に腕を挟めば問題ナッシングってことよ!


 さらに俺のスライム化させた腕は伸縮が自由自在。限度はあるが、伸び縮みする範囲内においては自由に形を変えることが出来る。あとはこのままスライムの腕を縮め、下に引っ張られる+重力の力で攻撃すればあのでかい鷲も一網打尽って魂胆だ。


「さあいくぜ、超でかい鷲!俺の今の最大の攻撃喰らいやがれ──あっ」


 べきっ!といういやーな音が鮮明に聞こえる。自分の視線を鷲からちょっとだけスライドさせ、自分の腕を絡めた木の枝を見る。


 ですよねー・・・。


 音的にもう既に予想はついていたのだが、木の枝がそれはもう見事にぽっきりと折れていたのだ。出来るだけ太い枝に巻き付ける努力はしたのだが、俺の力に耐え切れなかったらしい。あれ?このセリフめっちゃかっこよくね?


「って言ってる場合じゃねぇわ!」


 俺は空中で体制を整え、鷲目掛けて落下していく。一度仕切りなおすという手もあったのだが、もうここまで来てしまったのなら作戦を続行した方が良いと考えた。少し計画は狂ってしまったが、空中に移動することは出来たのだ、まだまだチャンスはある。


「ギャア!!」


 上空を見上げている鷲は、大きく翼をはためかせて風の刃を放つ。そして続けざまに地面を蹴りつけてこちらに向かって突進してくる。風の刃を避けられてもすぐに自らで攻撃できる、なるほど鳥は鳥でも鳥頭ではないらしい。


「だが、風の刃が飛んでくることは想定済みだ!」


 俺はスライム化している左腕を出来るだけ肥大化させ、風の刃を薙ぎ払う様にして身を守る。


「ぐっ!」


 ダメージを負うことは無かったものの、勢いを殺すことが出来ず、落下していたはずの体がバランスを奪われながら上空へと吹き飛ばされる。


「でもお前がこの後来るのはもう分かってんだ!──水よ、その力を以て敵を討ちぬけ」


 俺は左腕を元に戻し、手のひらより少し大きいサイズの水を練り上げていく。


「ウォーターバレット!」


 水の玉を弾き飛ばす魔法。普通であれば、そこまでの威力を発揮する魔法ではないのだが俺のウォーターバレットはそんじゃそこらの物とは一味違う。俺の前世の知識を生かし、水の形は弾丸の形へと整形されている。他の物とは貫通力が違うのだ。


「ギイアアアア!!」


 俺はボールを投げるように左腕を振るうと水の弾丸は鷲の右目に突き刺さる。突然片目を失った鷲は慌てたように足をジタバタとさせて痛みに苦しみ始める。


「これで終わりだ!」


 鷲とすれ違う瞬間、右手に持っていたナイフを脳天に突き立てる。すると先ほどまでうるさいほど動いていた鷲は糸が切れたかのように地面へと落下していく。


「よっしゃ、作戦成功!」

 

 ガッツポーズを取りながら鷲が地面に落下する様子を眺める。途中ちょっとだけダサいところあったけど結果的には上手くいったのでよしとしましょう。


「さて・・・死なないようにお祈りしとくか」


 作戦が成功し、鷲を倒すことが出来たものの俺は現在進行中で地面とのキスを迫られている、それもかなりの速度で。おそらく後10秒するかしないかくらいで慣れ親しんだ地面の上に戻ることが出来る。なお、このまま戻ると全身複雑骨折は免れないのだが。


 一応、考えはある。先ほど風の刃を防いだ様に地面とぶつかる前にスライム化した体をクッション代わりに使うのだ。そうすれば多少体をどこかへぶつけることがあっても軽い怪我で済むだろう。


 きっと多分メイビー大丈夫だとは思うけど上手くいくが心配だ。もし予想外のバウンドをしたら普通にゲームオーバー死んでしまうとは情けないになってしまうのだが・・・それだけは勘弁だ。


「人生初のスカイダイビングがパラシュートなしとか俺はいつからそんなドMになったんだよ全く!」


 愚痴を吐きながら自分の左腕をスライム化させ、先ほど同様に出来るだけ肥大化させる。足のどちらかをスライム化させるというのも頭には浮かんだが、少しでも成功率を上げて怪我をしないようにするため、使い慣れている(1日目)左腕をスライム化させた。


「頼むぞまじで!おらああ!!」


 左腕を地面へと振り、勢いを殺す。


「あっ」


 勢いはある程度掻き消すことが出来たものの、ぽよんとトランポリンの上で思いきりジャンプした時の様に俺の体は再び上空へと投げ出されてしまう。しかも左腕を振ったせいか、斜め30度から45度程度の角度で飛ばされてしまう。


「そんな腕振らなくて良かったあああああ!!」


 空中で方向転換など出来るはずがなく、俺は鷲の死体から遠ざかるように森の上を飛んでいった。






「あれは一体・・・・・・」

 

 

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