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妖魔の森

 太陽がキラキラと輝き、生けるもの全てにその光が降り注ぐ素晴らしい今日この日。皆さんはいかがお過ごしでしょうか?……え?僕は今何をしているかって?…ふふふ、そうだね。僕は今──


 魔獣のいる森へと向かっている馬車の荷台で体育座りをしながらぼんやりと外を眺めています。気分は出荷されている荷物のようだ。


 ああ、今日もいい天気。


「ルーク様、もう少しで到着いたします」


「ああ、うん。ありがと」


 馬車を操縦している騎士の人から声が掛かる。今から追放される、というか現在進行中で追放されているというのに口調を崩さないのは偉いなぁと素直に思う。


 昨日、僕のお腹にある紋章が悪魔の印であることが判明し、流れるように僕がフェーレラ家を追放されることが決定した。俺の最高の異世界転生ライフがジェットコースターの如く急降下したのだ。ど、どうしてこうなった……。


 ただまあ不幸中の幸いと言うべきか、僕は今もこうして五体満足で生きている。お父様に呼び出され、そしてそのまま処刑されていた世界線だってあるのだからまずは生きていることを喜ぶべきだろう。




「ごめんなさいルーク。私にはこのくらいの事しか出来ないの。本当にごめんなさいルーク」


 昨日追放を言い渡された後、ベッドで横になりながら今の状況を飲み込もうとぼんやりとしていたら、ソフィお母様が部屋へやってきて、今にも泣きそうな声で謝罪をしてきた。今までソフィお母様のこんな姿を見たことがなかったため、自分が追放されることが本当に悲しいし、何もできなかったことを後悔しているのだと伝わってきた。そんなお母様を見て俺も泣きそうになりました。マッマ……。


「そんな顔をしないでくださいお母様。お母様がいなかったらあの場所で僕は死んでいたかもしれないんです。むしろ助け船を出してくれてありがとうございます」


「……本当にあなたに悪魔の印が出てしまったことを心の底から憎んでしまいそうだわ」


「お母様、この悪魔の印っていったい何なのでしょう?」


「私も簡単にしか教わっていないのだけど、それは8~13歳の間に突然現れるの。そしてその紋章がある子供は将来、国に厄災をもたらすと昔から言われている。だから悪魔の印が出た子供はその多くが奴隷として売られるか、最悪殺されてしまう」


「どういう条件でこの紋章が現れるとかは……」


「そこまでは分からないわ、ごめんなさい」


「いえ、全然気にしないでくださいお母様」


 まぁこの紋章が出てすぐに奴隷にしたり、殺したりしてればわかんないのも無理はないか。というか良かったぁ、今までこの紋章のことを隠してきて。小さい頃からお風呂を一人で入るようにしたおかげで子供の頃に見切られなくて済んだ。中二病だと思われるのが怖いと思ってたらまさか本当に悪魔的な何かだとは思いもしなかったけどね。


「ルーク」


 ソフィお母様は俺に近づきそして優しく体を抱きしめてくる。


「あなたが悪魔の子だと言われても、私はあなたのことをとても愛しているわ。助けることが出来なくてごめんなさいルーク。こんな私を許してちょうだい」


「先ほども言いましたが、お母様がいなければ僕はもうこの世にはいなかったかもしれません。だから謝らないでください。それと僕も愛していますお母様」


「っ……ルーク!」


 先ほどよりも力強く抱きしめられる。俺も痛くならないよう先ほどよりも力を込めてお母様と抱き合う。もしかしたら今生のお別れになってしまうかもしれない。だから今は照れくささも、気恥ずかしさも捨ててお母様との最後の時間を過ごした。






「ルーク様目的地に到着いたしました」


 お母様と過ごした時間を思い返していると、いつの間にか体に伝わってきていた振動が止まっていた。今から俺は危険と常に隣り合わせの森を徘徊する一般人へと成るのだ。


「よいしょっと」


「……ルーク様」


「ん?どうしたの?」


 馬車を降りて、体を伸ばしたり、荷物を軽く整理したりと準備をしていた所、俺をここまで送り届けてくれた騎士に声を掛けられる。おや?ここで処刑するよう言われてるんだ的なあれですか?ちょっとパッパ、さすがに怖いっすよ。


「ここは妖魔の森というかなり広い森林地帯となっています」


 おう、何その聞くからに禍々しい魔獣が跋扈してそうな森は。「ここめちゃ魔獣多いんで!死ぬと思うけどとりあえず頑張れ!」とでも言いたいのか?とんだサイコパスじゃないですか。


「ですがあちらをまっ直ぐ進んでいくと商人や旅人が使用している道路に出ます。さらに道中には村や男爵家、子爵家の領地がありますし、さらに奥へ奥へと進んでいくとアーシス辺境伯の領地にたどり着きます。大変な道のりになるかとは思いますが、いくらかは安全な旅路になるでしょう」


「……ご丁寧にありがとうございます」


 えっ......やだ、すごい優しいっ!!


 俺は口元に手を当てて、騎士と指さされている方向をチラチラと交互に見る。もしかしてお母様が色々と手配してくれたのかな?お母様……まじで愛してます。


「いえ、私達が出来るのはここまでです。ルーク様、どうぞご無事で」


 人の温かみに触れるって言うのはこういうことを言うんだろうなぁ。今から孤独な旅が始まるけどなんかすごい心温まるわぁ。


 俺は騎士の人達に軽く手を振って後姿を見送る。先行きが少し不安だったが、一番最初から詰んでいるということがないみたいで安心した。


「ふぅ……さてこれからどうしよっかなぁ」


 一応安全なルートは示してくれたけど近くの村や領地まで、歩いてどのくらいかかるのかは分からない。学園の授業で地理をやってはいるものの、そんなに細かくは覚えていないんだよなぁ‥‥‥。もうちょっと真面目に授業を受けておくべきだったかも。


「あっ、学園と言えば別れの挨拶も言えてないのか」


 急に色々なことが起きたせいでうっかりしていたが、俺は友人たちに別れの挨拶をすることなく、姿を消すことになる。また来週という言葉がまさか最後の言葉になるとは夢にも思わなかった。


「それにラーファにも悪い事したなぁ……いやまぁ俺が悪いのかと言われると…でもまぁこれに関しては俺が悪いのか?」


 自分の婚約者である少女の姿を思い描き、罪悪感に苛まれる。事情が事情なため仕方のないことだが、せめて別れの挨拶くらいはしたかった。


「まぁこうなっちゃった以上仕方がないか。とりあえずは騎士が言ってた通りに街のある方へ歩いていくかぁ」


 そう思い、俺は地面に置いていた荷物を担ぎ、人気のない道へと歩き始め──


 ガサッ……ガサガサッ!


「っ!?」


 そう思った矢先森の方から物音が聞こえる。俺は音の鳴った方に体の向きを変えて、素早く戦闘態勢に入る。


「……そう言えばここ妖魔の森って言われてたっけ」


 実はこちらの世界に来てから魔獣というものを見たことがない。何分昨日までブルジョアな学園生活を満喫していたもので。対人戦闘の訓練はしたことはあるけど対魔獣の戦闘は一度もしたことがないんですよねぇ。


「っ!来る!!」


 俺は剣を握る力をさらに強める。そして物音の正体が姿を現す。


「……スライムだぁ!!」




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