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胡蝶の箱  作者: 無名人
4/15

このとき


 その翌日(よくじつ)だった。使用人(しようにん)平塚静(ひらつかしず)さんの(こえ)()()ました。

翔様(しょうさま)本日(ほんじつ)学校(がっこう)()かれる予定(よてい)ではないですか?」

「おはようございます、そうでしたね。」

(ぼく)()()がって布団(ふとん)(たた)んだ。そして、(しず)さんが用意(ようい)した朝食(ちょうしょく)()べる。

 そして、(かばん)()って()ようとした(とき)朱羽(しゅう)さんに(こえ)()けられた。

翔様(しょうさま)出掛(でか)ける予定(よてい)ですか?」

大学(だいがく)()くんだよ。」

(わたし)()きたいです!」

(ちょう)である(きみ)()れて()(わけ)にはいかないから、ごめんね。」

「そんな…」

朱羽(しゅう)、そして(あげは)残念(ざんねん)そうに(ぼく)()つめた。



 (ぼく)(かよ)う『聖都学院(せいとがくいん)』は、学校法人(がっこうほうじん)聖都学園(せいとがくえん)運営(うんえい)する大学(だいがく)だ。蝶野家(ちょうのけ)聖都学園(せいとがくえん)密接(みっせつ)関係(かんけい)で、(ぼく)は、幼稚園(ようちえん)(ころ)からそこのお世話(せわ)になっていた。(よう)私立(しりつ)()()がりという(わけ)だが、(ぼく)(おさな)(ころ)から必死(ひっし)勉強(べんきょう)していた。


 そんな聖都学院(せいとがくいん)には、仲間(なかま)()る。幼馴染(おさななじみ)高月堂(たかつきどう)跡継(あとつ)ぎの高月遊星(たかつきゆうせい)(にい)さんが庭師(にわし)稲守鈴芽(いなもりすずめ)さん。そして、離島(りとう)から一人(ひとり)でやって()八木久遠君(やぎくおんくん)学部(がくぶ)経歴(けいれき)もバラバラな僕達(ぼくたち)仲良(なかよ)くしている。大学(だいがく)()(とき)蝶野家(ちょうのけ)当主(とうしゅ)という()()(わす)れて、同級生(どうきゅうせい)とはしゃいでいる。もちろん、勉学(べんがく)にも(はげ)んでいる。



僕達(ぼくたち)は、講義(こうぎ)合間(あいま)中庭(なかにわ)(あつ)まっていた。そこで(おも)(おも)いの(はなし)をする。

(しょう)、ほら、()()れだぞ。」

遊星(ゆうせい)手渡(てわた)したのは、(かみ)パックの酸乳飲料(さんにゅういんりょう)だった。(ぼく)はそれを()みながら、遊星(ゆうせい)(はなし)()く。

今度(こんど)(みせ)(しん)メニューを()すんだ。フルーツみつ(まめ)(うえ)にかき(ごおり)()せるんだ。その(うえ)から練乳(れんにゅう)()けて…、」

「へぇ…、(しろ)くまアイスみたいで美味(おい)しそう!」

遊星君(ゆうせいくん)、そんな(はなし)したら()まで(あま)くなりそうだよ。」

(あま)いものが苦手(にがて)久遠君(くおんくん)(まゆ)をしかめた。

「そっか…、でも(おれ)和菓子屋(わがしや)跡継(あとつ)ぎだからな、(あま)いのを()るのが商売(しょうばい)だからな。」

今度(こんど)()べに()っていい?」

久遠君(くおんくん)()いておいて、(あま)いものが()きな(ぼく)は、どうしてもそのフルーツみつ(まめ)かき(ごおり)()になった。外出(がいしゅつ)(ゆる)されるのならば、()べたい。

「ああ、(しょう)(ため)(つく)るよ。」

「ありがとう!」

それから僕達(ぼくたち)はしばらくフルーツみつ(まめ)かき(ごおり)について(しゃべ)っていた。その(あいだ)久遠君(くおんくん)(いや)そうにしていたが、高月堂(たかつきどう)喫茶(きっさ)をしているという(はなし)()いて(きゅう)()びついてきた。どうやら、久遠君(くおんくん)はコーヒーや抹茶(まっちゃ)といった(にが)いものが好物(こうぶつ)らしい。僕達(ぼくたち)今度(こんど)高月堂(たかつきどう)()くと約束(やくそく)し、それぞれの講義(こうぎ)(もど)った。



 聖都学院(せいとがくいん)()(あいだ)は、自分(じぶん)蝶野家(ちょうのけ)当主(とうしゅ)である(こと)(わす)れられる。遊星(ゆうせい)学生達(がくせいたち)仲良(なかよ)くするのが(なに)よりも(たの)しい。学院(がくいん)卒業(そつぎょう)すれば、外出(がいしゅつ)する(こと)(すく)なくなるのだろうか。



 今日(きょう)(ぼく)今宮洋(いまみやひろし)教授(きょうじゅ)(はな)していた。教授(きょうじゅ)提出物(ていしゅつぶつ)のレポートを()ながら(なに)(かんが)えているようだった。

「そっか…、蝶野(ちょうの)来年(らいねん)卒業(そつぎょう)なんだな。」

「はい…。」

成績(せいせき)(もう)(ぶん)ないし、単位(たんい)()としてない。順調(じゅんちょう)()けばこのまま卒業(そつぎょう)出来(でき)そうだぞ。」

「ありがとうございます…。」

(ぼく)(かばん)(にぎ)りながらそう(こた)えた。

「それで、卒業後(そつぎょうご)実家(じっか)()ぐのか?」

「はい…、もう(すで)にしているのですが。」

「そっか…、大変(たいへん)なんだな。」

中退(ちゅうたい)する()もあったのですが、やはり最後(さいご)まで勉学(べんがく)(はげ)みたいので、家業(かぎょう)をしながら通学(つうがく)しています。」

今宮(いまみや)教授(きょうじゅ)は、蝶野家(ちょうのけ)(ぼく)一人(ひとり)生徒(せいと)として(あつか)っている。蝶野家(ちょうのけ)聖都学園(せいとがくえん)出資(しゅっし)している(こと)から、特別扱(とくべつあつか)いする教授(きょうじゅ)先生(せんせい)(めずら)しくはない。それが原因(げんいん)(ぼく)裏口入学(うらぐちにゅうがく)したという(へん)(うわさ)()った(こと)もある。

 (ぼく)聖都学園(せいとがくえん)入学(にゅうがく)する(ため)(おさな)(ころ)から必死(ひっし)になって勉強(べんきょう)した。一見(いっけん)優雅(ゆうが)(およ)いでいる白鳥(はくちょう)も、水面下(すいめんか)では(あし)藻掻(もが)いているようにだ。(すず)しい(かお)学園(がくえん)学院(がくいん)()るように()えるが、(じつ)(だれ)よりも必死(ひっし)だ。(いえ)(めぐ)まれているからこそ、(ぼく)努力(どりょく)していた。


 お祖父様(じいさま)とお父様(とうさま)()くなってから、(ぼく)蝶野家(ちょうのけ)当主(とうしゅ)になった。(わか)当主(とうしゅ)誕生(たんじょう)親戚達(しんせきたち)反対(はんたい)すると(おも)ったが、(だれ)反対(はんたい)しなかった。(ぼく)家業(かぎょう)学業(がくぎょう)一人(ひとり)でこなさなければならなかった。お母様(かあさま)家業(かぎょう)集中(しゅうちゅう)すべきだとおっしゃったが、それでも(ぼく)最後(さいご)までやりたかった、

 


 一日(いちにち)講義(こうぎ)()え、(ぼく)(かえ)ろうとした(とき)だった。階段(かいだん)(あし)捻挫(ねんざ)してしまい、その()にしゃがみ()む。その(とき)(おなじ)ように(かえ)ろうとした久遠君(くおんくん)(とお)()かる。

(あし)をくじいちゃって…。」

(おく)ろうか、(いえ)まで背負(せお)ってあげるよ。」

久遠君(くおんくん)は、(ぼく)(ちい)さい子供(こども)のように容易(たやす)()()げ、背中(せなか)()せた。

久遠君(くおんくん)背中(せなか)(おお)きいね…。」

「そうかな?」

久遠君(くおんくん)()(たか)く、顔立(かおだ)ちも(ととの)っている(こと)から、大学(だいがく)では有名人(ゆうめいじん)だった。そんな久遠君(くおんくん)は、都会(とかい)()たいという一心(いっしん)で、聖都(せいと)までやって()たのだと()う。

「それにしても、大学(だいかく)なら国立(こくりつ)帝都大学(ていとだいがく)()(みち)もあったんじゃない?どうして、ここにしたの?」

「ここの(ほう)雰囲気(ふんいき)()きなんだ。それに、帝都大学(ていとだいがく)()ける学力(がくりょく)まではなかったからね。それでも(ぼく)聖都(せいと)()たかったんだ。」

「そっか…。」

翔君(しょうくん)大変(たいへん)だね。仕事(しごと)しながら学校(がっこう)(かよ)っているんでしょ?」

「うん…、でも()れたよ。」

学業(がくぎょう)家業(かぎょう)()()ちに()れたのは本当(ほんとう)だが、大変(たいへん)なのは(たし)かだ。それでも(つづ)けられるのは、遊星(ゆうせい)(たち)()るからだ。遊星達(ゆうせいたち)()るから、勉強(べんきょう)も、(たの)しみも(つづ)けられる。



 正直(しょうじき)(いえ)には(かえ)りたくなかった。(あげは)さんと朱羽(しゅう)さん、二人(ふたり)()っているから。でも、(かえ)らなければならなかった。二人(ふたり)()っているから。もし、今後(こんご)(だれ)かと結婚(けっこん)するなら、こんな気持(きも)ちになるのだろうか。そうだとすれば、(ぼく)はまだ、結婚(けっこん)する自信(じしん)()い。


 いつの()にか(ぼく)久遠君(くおんくん)背中(せなか)(ねむ)っていたようだった。(いえ)()くと()ろされ、久遠君(くおんくん)(わか)れた。



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