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「俺と二人きりになれないか?」


「次の演奏もありますし。国王さまと王妃さまが呼んでいますよ、リュカ王子」


「あんなジジババ放っておけばいい」


 ちょっと王子! ジジババって!


「いけませんよ王子! 国王さまと王妃さまですよ!?」


 あの方たち、まだ四十代後半よ。リュカ王子、頼むから落ち着いて。どうして私にため口を言わせたいがために身内をボロカスに言うのよ!


「先にどうしても伝えたいことがあるんだ。もし、気が変わったりでもしたら、その君が俺のことをどう思ってるのか」


 え、王子。急に小鹿みたいに小さく見える。なにこれ、かわいい。私にベタ惚れじゃない。


「しっかりして下さい。国王も王妃が見ている前では言えないんですか?」


「なっ」


 周囲のざわめきが大きくなる。


「ここでお互いはっきりさせましょうよ。できないの? ドSのくせに……あっ」


 口に出ちゃった。


「ドSだと? 誰がだ? 君がか?」


「わ、私のどこがドSだって言うのよ」


 王子って、ちょっと天然も入ってる? 


「あなたのことに決まってるわ」


「いやいや。君もときどき強引なところがある。俺の誘いは理由もなく断りたくなる。そうだろう?」


「それは、あなたが私を困らせるから……」


「ククク。よかった、困ってくれて」


 もう、なによそれ。ほんとに子供なんだから。ほら、国王も王妃も呆れてワインを嗜んでらっしゃるわよ。


「俺じゃ駄目か?」


 突然王子の声が耳元で聞こえる。かかった息が生暖かい。


「お、王子?」


 私に覆いかぶさってくる王子。ここで私に抱き着くなんて大胆すぎる!


「リュカよ。伯爵令嬢に一体何をしているのだ。重大な発表があるのだと私は思ってこうしてやってきたのだ。いつもの舞踏会とは違うと思っていたのだが」


 ほら、国王が困惑してるじゃない。


「はい、父上。俺は――」


 待って待って!? ここで? あまりにも強引すぎる。う、嬉しいけど。まだ、この後ピアノを弾いて、ダンスもするんでしょ? どんな顔して出演すればいいのよ。


 周囲のざわめきは頂点に達する。ついに王子が婚約者を見つけたのだとか、あの伯爵令嬢は以前はよくない噂で持ち切りだったとか。そんな前のことまで掘り返さないでよ。


「こら、クリスティーヌ!」


 お父さまがクリスティーヌを引き留めている。何があったの? クリスティーヌはお父さまの手を振り切って大広間中央に飛び出てきた。


「リュカ王子、自分が何をなされようとしているのか、分かっておいでですか?」


 突然の聖女の登場に人々は沸いた。


「そうだ。聖女さまこそふさわしい」と、貴族たちは話している。


 誰も王子の意思は尊重しないようね。王子に失礼じゃないかしら? 私を糾弾するつもり? もうお父さまは以前のように私に失望していない。王子だってクリスティーヌにたぶらかされた以前の王子さまとは違うのよ。


 クリスティーヌは私を睥睨へいげいする。唇がゆっくりと動いた。


「私は、魔を見分けることができます」


 まさか、鑑定魔法?」


「――この中に魔の者が潜んでいます」


 それはあなたでしょ! 嘘、この大広間で使うの? あんただって、反応するはずでしょ? 私だけを狙い撃つの? そんなことって!


 大広間内を閃光が走る。雷の音でもあれば感電したのかと思ってもおかしくないほどの眩しい光。これが、鑑定魔法? まさか、そんな!


 無意識に身体をかばっていた。怖くて震えが止まらない。まるで、ローブもドレスも引き剥がされた気分。一糸まとわぬ裸にされたみたい。大勢の人前で。


 頭上には角の重みを感じる。太ももの後ろに自分の黒く長い艶やかな尾の存在を感じる。身体が火照って、皮膚の上に上気して立ち上る赤いオーラ。


「アミシア?」


 リュカ王子はきょとんとしている。でも、その目に恐れはない。ただ、なんの手品か分からないといったような興味ありげな顔。よかった、あなたは戦場で魔物や魔族を見ているものね。私のこと信じてくれるって信じるから、お願い。よく聞いてね。


「リュカ王子。私は半分魔族よ。だけど、クリスティーヌも同じ。あの子は国を乗っ取る気よ」


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