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夜になるとこっそりとクリスティーヌが馬車に乗り込んで行くのが窓から見えた。カーテンの隙間越しだから分かりにくかったけれど、首にはルビーの首飾りをしていた。ぎょっとしたわ。それをつけて出かけるの? それに、気のせいかしら。クリスティーヌが大きくなってる。身長が伸びている気がする。それに、大人びた? 美人……。見とれたら駄目よ。
お母さまの首飾りね。見てなさい。取り返す作戦は考えてあるんだから。でも、ミレーさまが心配ね。王子に次ぐ英雄だしクリスティーヌが武力行使するとは思えないけれど。あの子は首飾りの秘密を知らない。でも、魔力は得られるのかもしれないわね。彼女の急成長を見る限り。
魔族としても聖女としても万能なら、私も同等の力をつけないといけない。魔力に関しては申し分ないはずよ。だって同じお母さまの血を引いているんですもの。だから、後はいざというときにいつでも放つことができるようにしておかないと。私も毎晩練習しなくちゃ。クリスティーヌがミレーといちゃついてる間にね。
ミレーさま、聞くところによれば婚約はしたけれどクリスティーヌとは上手くスキンシップを取れていないみたいだし。なんでも、王宮の事ばかり尋ねられて対応に困るって。きっと王宮内の侵入経路もミレーに内部のことを聞いて計画を立てたんでしょうけど。
「コラリー。フルール。夜につき合わせてごめんね。クリスティーヌの部屋のスペアキーを作成したいの。それと、今夜彼女がつけていた首飾りの形状はちゃんと見たわね? あと、正確な形状は明日私が模写したものを渡すわ」
コラリーとフルールを夜遅くまでつき合わせちゃったけれど。スペアキーを作成さえすれば、後はどうとでもなるわ。
翌朝、コラリーとフルールには例の人を探してもらうために早朝に出発してもらう。計画はとても簡単なものだけどね。
リュカ王子から手紙がまた届いていた。朝食のときお父さまが嬉しそうに話す。
「また、リュカ王子からだよアミシア。なんだ、アミシア。あの頑固な王子と親しいのか?」
クリスティーヌは少しあっけに取られて私を見つめてくる。
「あら、クリスティーヌ。あなたは昨日、ミレーさまとお楽しみだったじゃない」
するとお父さまが口をポカンと開けた。
「ま、ま、まさか」
「違いますよ。誤解です。私はまだ未成年ですよお父さま!」
「クリスティーヌ。婚約したからって浮かれているんじゃない!」
あーあ。お父さまとクリスティーヌがやり合うのってはじめてじゃない? せいぜい楽しんで。
それより、リュカ王子。ほんと困った人ね。懲りずにまた舞踏会開催? でも、嬉しい。私のピアノの賛美と私が魔物と対峙したとき私が怪我しなかったことを心から喜んでくれている。ほんと、どっちが気を使ってるのよ。王子の怪我の方が気が気じゃなかったわよ。
『君が気に病む必要はない。俺が貴方をお守りしたかった。気づけば身体が勝手に動いていたのです。だからアミシア。俺の怪我のことであれこれ悩まないで欲しい。それから、またピアノの奏者をしていただきたく思います。勿論、ダンスも』
ふふふ。王子。私も楽しみです。でも、ちょっと待って。この日付。舞踏会の日ってもしかして。私が処刑された日食の日――?




