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王子が上機嫌で戻ってくる。大広間に入るなり女性たちに囲まれ取り巻きが出来上がる。安定のプレイボーイっぷり。リュカ王子、わき目もふらずにこっちにやってくる。女性たちを振り切って。
「さっきはすまなかったね。……来い!」
いきなり手をつかまれた! え? ちょっとちょっと! どういうこと! どこにつれて行くのよ! こんな大勢の女性の前で。ほら、みんな甲高い悲鳴を上げてるじゃない。
そのまま王宮の階段を駆け下りる。そして、二人で中庭の椅子に座る。ダンスに飽きた貴族たちが休憩できるスペースになっている。
「リュカ王子、突然どうされたのですか?」
「さっき二人で踊ったのに、もうそんな他人みたいな話し方をするのか。まったく」
「いえ、さっきのダンス後、あなたが逃げたので。ああ、私とは距離を置きたいのね。そう思っただけです」
「なっ!」
あらら、リュカ王子ってドSなのに案外照れ屋なのね。
「事実じゃないですか? 私はあなたにリードされて必死について行こうとしました。そして、終わるとすぐに逃げるように去ってしまったのはあなたです」
リュカ王子は乾いた笑声でごまかす。
「君にはかなわないな。夜の庭は気持ちがいいだろ?」
「ええ」
つまり、ごまかしたいのね。
「君がいると、今まで感じたことのない自身の動悸を感じる」
そして、再び私の手に上からそっと手を重ねる。や、やだ。こっちまでどきどきしちゃうじゃない。この人、こんなにロマンチストだったの?
心なしか、流し目が優しい。人を小馬鹿にしたような笑みも潜めている。あれも偽りの笑みだとでも言うの? この人、内心では私のこと小馬鹿にしているにきまっている。
「どうして不安そうに眉をひそめる? 君はいつも怒っている顔をしている方が、俺好みで素敵だ」
「なんですって?」
「それ、それだよ」
う、うわー、はめられた。いや、怒ってなんかないわよっ。
「はははは。もしかして悪女も泣くのか?」
「誰が泣くですって?」
「いや、すまない。つい口が滑った。君があんまりにもいじめられたい子猫のようでな」
もう、好き勝手言わないでもらいたいわ。
夜風が冷たくて気持ちいい。だけど、リュカ王子と肩を並べて座って、いつまで経ってもくつろげる気がしない。
「もたれかかってこないのか?」
「そんな失礼なこと、王子にできるわけがありません」
「恐れ多いと? 君には恐れるものは何もないだろう? では、命令すれば従うか?」
「え?」
「もたれかかってこい」
「遠慮しときます」
すると、リュカ王子は自分で言い出したことなのに、ツボに入ったように笑いだした。
「ほんとに君は。いいね。やっぱりそういうところがほかの貴婦人たちと違う」
「まだ、未成年ですけどね」
「もうすぐ成人だろう? 不思議だ。未成年とは思えない。美しく怪しい魔力を感じる」
ま、魔力って今言ったの? まさか私、正体がばれちゃった?




