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「よく来て下さった。ラ・トゥール伯爵令嬢」


 今日のリュカ王子は悪魔みたいに冷ややかに笑っている。私の顔を見るなりこれよ。どういうこと?


「こちらこそご招待頂けて光栄ですわ。オリオール皇太子さま」


 私の態度を慇懃無礼だと言わんばかりに、リュカ王子は小さく鼻を鳴らした。


「俺たち、こんなに距離が遠かったのか。もっと親しいと思っていたよ?」


 お互いに苗字で呼び合うことを不服だとでも言うの? ちょっとは王子らしくしてもらいたいものね。これが手紙で自白していた「偽りの自分を演じている」ってことかしら? 公の場の大袈裟な態度や遠回しな言い方。そして、形式的に挨拶する優先順位に縛られて窮屈していそうよね。


「手紙ならミレーさまから頂きました。そのことをおっしゃっていますの?」


「精一杯伝えたつもりだ」


 どことなく不機嫌に見える。大勢がいるから大人しくしているけれど、二人きりになったら噛みつきかねない形相ね。でも、こういうのも楽しいわ。悪魔みたいな腹積もりを持った者同士で腹を探り合うの。とっても、スリリングよ。私たちお似合いになれそう。


「……待ったか?」


「いいえ。たった十五分ですもの」


「俺は待った」


「あら、待たせてしまいましたの? それは申し訳ありませんわ。爵位が低くて」


「いや、そうじゃない」


「違いますの? それとも陛下は聖女クリスティーヌとお戯れになっていたのかと」


「おい、ふざけるのも大概にしろよ」


 あ、けっこう簡単にからかうことができるものね。リュカ王子ったらムキになって。ちょっとかわいい?


 と、ここに挨拶を済ませて大広間に行ったはずのクリスティーヌが戻ってきた。


「リュカ王子。この後の聖歌楽しみにしていてくださいね。だけど私、緊張してきますぅ」


 ここに来てぶりっこ!?


 王子の瞳が怪しく光る。邪魔だと思うのは当然よね。


「本当に君が緊張しているのなら、ミスするところも見てみたいな。完璧な女性も好きだけどね。なんだか、君の完璧さは作り物みたいで怖いよ。どこか一つでも欠けたら、もろく崩れてしまいそうで」


 リュカ王子って、けっこう鋭いのね。もしかしらた偽りの聖女の正体も見抜けるんじゃない?


「へ? ミ、ミスするなんてとんでもございません。きょ、今日のために練習してきたんですから。もう、リュカ王子さま、プレッシャーかけ過ぎないで下さいよぉ」


 そそくさと逃げて行った。情けないわね。そんなので王子を丸め込んで私を処刑したの? なんだか悲しくなっちゃう。処刑された以前の私、ごめんね。あんな聖女にやられただなんて。


「ところでアミシア。今日は君のピアノの演奏も聞けるのか?」


「はい、王子。陰ながら聖女さまのお力になれたらと。発表会と違って一緒にではないですけどね。私は演奏家の方々とピアノが必要なときに参加させてもらうだけですので」


「それは楽しみだ。言っておくけど、演奏家は君のピアノがなくても俺を楽しませる連中ばかりだ。心に残るピアノを期待しているよ」


 出たわよ、ドSが。そりゃそうでしょうよ。王族御用達の演奏家ばかりですもの。


「出るからにはやらせて頂きますよ。私も楽しみたいですもの、よろしければ陛下と」


 リュカ王子はニンマリと微笑む。あれ? 自分で言ったつもりなのに言わされたみたいで嫌だわ。ほんとにもうっ。


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