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 週に一度の教会の集会の日。体調不良を理由にわざと欠席したわ。なんだか、罰が当たったらどうしようとか考えちゃって。いや、行っても良かったんだけどね。魔族っぽいオーラなんかだしたら取り返しがつかないのよ。今、だいぶお父さまとも上手くやっているだから。確かに昨日までは何も怖くない! って意気込んでいたけれど。さっきくしゃみを一つしたら黒い悪魔みたいな尻尾が飛び出ちゃって。


 こうして自室の鏡を見ているとね、自分が魔族だって気づいてから目が赤く光ることにも気づいて。自覚すると自分の力が抑えられなくなったというか。だけど、これって悪いことなのかしら。本来の姿ってことでしょ。お母さまは私を出産するまで、この力を抑えて一年近くも過ごしてたのよね。自分を偽ることって簡単じゃないわ、単純にすごい。


 どうやったら上手く隠すことができるのかしら。尻尾は生えたり消えたりする。尻尾も魔力で構成されているみたいだし。練習して隠すしかない。紅茶を飲んでいる間は尻尾が飛び出ないから、リラックスは大事ね。それから、クリスティーヌのことをあれこれ考えると危ないオーラがでちゃうみたい。仕方がないわよね。むかつくんだもの。むかつくむかつく。


 夕食の折、クリスティーヌがぽっと顔を赤らめて騎士ミレーのことを話した。


「ミレーさまが私の髪がさらさらして素敵だとおっしゃったんです」


「そうかそうか」と、お父さま。お父さまは、私とクリスティーヌのどちらも魔族の血を引いていることをはじめから知っていた……。私たちを人間として扱ってくれているの? だけど、クリスティーヌは自分がのし上がるためには手段を選ばないのよ、お父さま。お父さまは、私が開かずの間に入って真実に気づいたことをどう思っているんだろう。私に気を使って話しかけてこないのは予想どおりだったけど。


「アミシア。具合が悪いなら残してもいいんだぞ」


「あ、ありがとうございます。お父さま」


 ん? でも、待って。お父さまは魔力がないからあの手記は読むことができない。となると、私が魔族だと自覚したとは分からないはず。まさか、コラリーがあの部屋に現れて真実を教えてくれたことって、お父さまの計らいなの? お父さま、自分から何か教えるってことはやりたくないのね。そういうところ、恥ずかしがりやなんだから。


 ふいに、クリスティーヌが自信ありげに私を煽ってきた。


「お姉さまも早く婚約者が見つかるといいですね」


「ミレーさまとの婚約は決定事項なの? あら? あなたならリュカ王子も狙えるんじゃなくて?」


「何ですって?」


「これこれ、アミシア」と、お父さまが苦笑する。


 本当のことじゃない。騎士ミレーはパイプにすぎない。クリスティーヌはこの国を動かす何かを仕掛けてくる。崇拝しているのは女神じゃなくて魔王なんだから。


「部屋で先に横になってきます」

 

 私は席を立つ。


 クリスティーヌとミレーの婚約が確定した以上、私の行動は決まった。リュカ王子のこと、好きだとか思わないけれどこの女から奪ってやろうじゃない。ミレーさまとイチャイチャしている隙にね。


 部屋に舞い戻って寝込む演技をしていると、コラリーが献身的に介抱してくれた。いや、別にいいのに。


「アミシアさま。魔族だと偽るのはさぞ大変なことだと思います。この際、フルールにもアミシアさまが魔族の血を引いていることを伝えてみてはどうでしょう?」


「な、なに言い出すの?」


「味方は多い方がいいと思うので」


「ちょ、ちょっと待ってよ。魔族って私もはじめは嫌だったんだから。どうやって説明するのよ」


「簡単です。ごくごく普通に伝えるのです」


 すると、部屋をフルールが横断した。


「え、今聞いてたの?」


 フルールはどこか不愛想な顔で、(でも彼女の普段の生真面目な表情はこれなんだけど)聞き返してきた。


「アミシアさまが魔族だという噂はさんざん聞いています」


「え、どういうこと?」


 戸惑う私をコラリーは後ろにしてかばった。


「フルール、アミシアさまは悪い魔族ではありませんよ!」


 コラリーの厳しい口調にフルールは少し戸惑い気味に言い淀んだ。


「まさか、本当だとは思いませんでした。クリスティーヌさまのところへ密偵中に言い聞かされていたので。さすがに酷い悪口だなぐらいにしか思っていなかったのですが」


 まあ、そういうことだったのね。


「でも、あの吹聴頻度だと、信じる侍女が出てきてもおかしくないですね。半数が解雇された今ではどれだけの人が信じているかは分かりませんが」


「なるほどね。ありがとうフルール。私、この力を悪用しようとは思わないわ。必ず、役に立てて見せる」


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