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 半日寝込んでいたこともあり、夕刻になっていた。


 書斎はお父さまの仕事の書類などが置かれているので、普段立ち寄らない。それに、罰として閉じ込められていた記憶もあってトラウマ気味。西向きの部屋だから西日が薄暗く部屋を朱色に染める。いざ、入室すると陰鬱な気分になる。お父さまは使用人を中に入れたがらないので室内は掃除が行き届いておらず埃っぽい。


 部屋に置かれている机を見やる。紋章が刻まれた引き出しが私に開けてくれと呼んでいる気がする。いよいよだわ。その引き出しから例の開かずの間の鍵を見つけた。とうとう、お父さまの許可を得た上で手に入れることができた。引き出しの奥にまだ、何か入っているのが垣間見えた。辞書か何かかと思ったが、赤い表紙のそれはパラパラめくると中に宝石の類の絵があった。単純にきれいだと思って眺めていると、数ページ後に首飾りの絵があることに気づいた。


「待って、この首飾り!」


 見間違いようがなかった。絵は詳細に色まで塗られている。埋め込まれた宝石の赤い光沢が私に訴えかけてくる。


「ルビーの首飾りの本なのね」


 お父さまには内緒でこの本も拝借する。手には紋章の刻まれた鍵と、赤い本。


 やっとお母さまに会える! 早足に開かずの間に向かう。

 鍵穴に鍵をゆっくり差し込むと、小さな音が開いたのだと告げる。私の胸もとくんと鳴る。


 扉が軋む。夕闇が吸い込まれるような、更に暗い部屋。カーテンで閉ざされた部屋は真っ暗だ。燭台を探してマッチで火をつける。


 この部屋に向かう直前、お父さまが最後に私の背に向かって言ったことがあった。


『誰も中に入れるな。誰にも言うな。それを守れるなら一度だけ入ることを許そう。お前には知る権利がある』


 一度しか入ったらいけないのね。よほどの秘密がある! 


 淡い灯りに照らし出されたのは、お母さまのものと思われるベッドや、鏡、机、テーブル、椅子など。それらは埃をかぶっていない。時が止まっている部屋だ。お父さまが一人で手入れをしているの? お母さまを忘れないために?


 そして、私は目に留めた。部屋の中央で一際目立つ肖像画を。嘘……。


「そんな」口を覆う。


(お母さま。ねえ、こんなことって!)


 白く長い髪。薄い水色の瞳。真っ赤なルビーの首飾りをしたお母さま。

 涙がこぼれる。お母さまにやっと会えた喜び。それと同時に沸き起こるどうしようもない戸惑い。


「ねえ、お母さま。お母さまは私の本当のお母さまなの? それとも、クリスティーヌのお母さまなの?」


 優しく微笑みかけるお母さまの肖像画は、この上なく美しかった。そして包み込むような温かみのある笑顔。だけど、その容姿はあまりにもクリスティーヌと似ていた。



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