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「今までゆっくり話す機会がなかったな」


「そう、ですね」


 お父さまが椅子に深く腰掛けて私と向き合う。


「恐らく、犯人は部外者だろう。お前が火をつけたりしない。そうだろう?」


「はい。お父さま。私がそんなことするはずがないじゃないですか」


 よかった。以前のお父さまなら私を疑っていたかもしれないわね。だけど、部外者でもないのよ。犯人は間違いなくクリスティーヌ。お父さまも心を砕いているのね。クリスティーヌを疑うことはどうしてもできない様子。どうして? お母さまと似ているからだとしても、血が繋がっているのは私の方なのに。


「書斎を覚えてるか?」


「はい?」


「あそこに鍵がある」


 鍵と聞いてすぐに想起されたのは開かずの間のこと。お母さまの部屋の鍵!


「え、どうしてこのタイミングで」


 小声でつぶやくとお父さまは訝し気に詰問してきた。


「お前の望みじゃないのか!」


「は、はい。あまり声を荒げないで下さい」


「お、お前がどう思うかと、どれほど考えあぐねいたか……」


 急に言いよどむお父さま。まだ、私との距離感を推し量っているようだった。


「お父さまのお心遣いに感謝します」


「うむ」


「私のこと、毛嫌いしているのかと思って心苦しかったです」


 素直な気持ちを告白する。


「あながち間違いでもないかもしれないな」


 お父さまは眉を歪めて、自身の否を認めたくないという気難しい顔をする。


「お前のことがときどき分からなくなる。だが、もしかしたらそれは私の目が曇っていることによるものかもしれんと、最近思い始めてな」


 お父さまにはお母さまに異常に固執している。目が曇っているのは前からよく知っている。何がそうさせたのかしら。


「この際にはっきり言おう。私は――怖いんだ」


「お父さまが? 私を?」


「そうじゃない。上手くは説明できんが。今日、肖像画が燃えたことで決心がついた。いつかあの部屋も誰かに燃やされてしまうかもしれない。そう思うと胸が痛んでな。私一人で抱えておくのは辛すぎる。いや、お前に抱え込ませていいものか正直迷っている」


「な、なんのお話ですか? お母さまの部屋のこと?」


「ああそうだ。あの部屋に入れば分かる。できればお前とクリスティーヌには中に入ってもらいたくはない。それは私のエゴもあるが……」


「中に一体何が?」


「ショックを受けるかもしれないが。覚悟はあるか?」


 そんなのはじめからあるに決まっているわ。


「お母さまのことが分かるのなら――どんな事実があろうと受け止めます」


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