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熱に浮かされていた。部屋を慌ただしく往来する侍女たちや、ときどき私の頭にかけられた濡れタオルを交換してくれるフルールがぼうっと見えた。
う、うぅ、うっ。熱い……私が燃やされる夢を見た。熱いって感じることは、生きてるのよね? 朦朧として起き上がると、氷水を運んできたコラリーに抱き留められた。
「まだ、安静にして下さい」
「しょ、肖像画が……」
私はベッドに寝かされてしまった。そのまま重い頭が枕に沈んでいく。
「残念ながら、焼き尽くされてしまいました。跡形も残っていません」
「……そう」
私とお父さまが唯一並んでいる肖像画だった。あの頃に戻るための指針のようなものだったのに。それに、また火。私が魔法で火を起こせるから? 私に疑いが向くようにしているのよね。もう、懲り懲りよ。だいたい、私が自分の顔を燃やすわけがないじゃない。
「クリスティーヌさまが水魔法で消火して下さったのですが」
「ええ、そうでしょうね」
また、マッチポンプだし。
「その、水魔法は本物だった?」
これにはフルールが血相を変えて答える。
「はい。間違いありません。周りにクリスティーヌの侍女は一人もいませんでした」
直接見たわけじゃないけれど、水魔法が使えるの? この短期間で習得したとしたらまずいわね。クリスティーヌも魔法に関しては夜にこっそり練習しているぐらいだし。
コラリーはほとんど憤っていた。
「クリスティーヌさまが火をつけたのかもしれませんね」
そうでしょうね。ほかに犯人はいないわ。だけど、立証も難しいはず。
「お父さまに会うわ」
「もう少し休まれた方が」
「大丈夫よ」
お父さまの私室ではお父さまが私を待ち構えていた。誰が犯人なのか考えあぐねいている様子だった。
「一体誰がこんなことを……」
娘が倒れたのに見に来ないあたり、私のことも疑っているのかもしれない。だけど、疑うのは心苦しいと顔に書いてある。
「お父さまに恨みのある人物かもしれません」と、突然私の背後の扉を開けて入って来たのはクリスティーヌ。
「お前は部屋にいろと言ったはずだ」
「お姉さまが心配で。目が覚めたと聞いたもので」
クリスティーヌが目を潤ませた。良い根性してるわよね、ほんと。
「クリスティーヌ! 部屋にいろと言った私の命令が聞けないのか!」
お父さまの怒鳴り声でシャンデリアが震えた。
「ひっ」と、声を上げてクリスティーヌはそそくさと出て行った。
クリスティーヌが扉も閉めずに逃げ帰って行ったので、お父さま自ら扉を閉めた。
「アミシア。いずれ二人で話したいと思っていた。こういう形になってしまって心苦しい」
「お父さま?」




