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「アミシアお嬢さま。この後はいつものお買い物ですか?」
「え? これから?」
そうだ。私、買い物ぐせがすごくて。このまま煌びやかな服をまとって店に赴くのね。いつもそうだったわ。教会の空気を乱したくて派手なドレスを着ているんじゃないわよ。そのまま買い物に直行するために、効率を重視しているだけ。だけど、これからは控えようかしら。こんなつまらない小さなミスが重なって最後はギロチンにかけられるんでしょ? ギロチンだけは嫌だもの。
それに、この日は確か買い物でお父さまに店ごと買うようにわがままを言ってひんしゅくを買ったはず。「お前の金遣いの荒さはどうしようもない。なおすつもりがないなら、ラ・トゥール家の者にふさわしくない。追放する!」とかなんとか言ってたかしら。とりあえず、これから心を入れ替えましょ。まず、むやみやたらに散財しない。買い物には行かないでおきましょう。
そうよ、お金で解決できることとできないことがあるわ。どうして、今まで私は気づかなかったのよ。お金で王子は助けてくれなかった。リュカ王子にもたくさん貢いだのにね。
屋敷に着くと、使用人たちが私を避けるのが分かった。空気が重いわ。相変わらずね。だけど、私の降りた馬車の後続から義妹クリスティーヌが降り立つと、そそくさと使用人たちが馬車を取り囲んでおかえりなさいませと挨拶に来る。もう、毎日うんざりするわ。
「珍しくアミシアお姉さまが買い物をしなかったのですね。だったら、代わりに私が買い物に行ってもよかったかもしれないですねお父さま」
「そうだな。たまにはクリスティーヌになにか買ってやればよかったな。思い至らなくて悪かった。今からでも遅くはないが、行ってみるか?」
「嬉しいです。お父さま。それに、洋服屋に大事な取引相手をなくしたと思われては、伯爵家の威厳にも傷がつきますからね」
お父さまが上手くクリスティーヌに担がれている。見るのも嫌になるわ。買い物に行くならさっさと行って欲しいわ。私が散財したら文句を言うくせに、クリスティーヌには甘いんだから。
「アミシア、本当に行かないのか?」
「私は今こうして屋敷に戻ったのです。部屋で休みます。それに、お金はもっと有効に使いたいと考えています」
突然あたりがざわめいた。使用人たちが青ざめている。なにをそんなに怖がっているのよ。私がこの家紋に泥を塗っているとでも言いたいわけ?
「まるで別人みたい」というひそひそ声が聞こえた。
「珍しいな。じゃあ、お前にはおみやげを買ってきてやろう」
おみやげ? お父さまが私に? どんな風の吹き回しだろうかと思った。だけど、部屋で数時間ごろごろと寝て待っていると、本当に洋服を買ってきてくれた。ただのご機嫌取りかなとも思わなくもないけど。今まで我がままし放題だったけれど、素直になってみるのも悪くないわね。