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 配膳のときは私専属の侍女がクリスティーヌに従事することもある。

 フルールは私と目を合わせない。一年侍女として働いて、すでにベテランの風格。


 侍女コラリーを目撃者にするため、コラリーがお父さまにスープを運んでくるときを狙って、私も前菜を食べ終える。私の皿を片づけたのはクリスティーヌの侍女だったけれど、問題はない。入れ替わりで素早くフルールが私のところへスープを運んでくる。


「あっ」


 フルールが私のドレスにスープをこぼす。


「きゃぁ! 熱いっ。冗談じゃないわ!」


 演技でもなく本当に熱い。


「どうしてくれるの! お気に入りのドレスが台無しじゃない!」


 私の真っ赤なドレスに、スープの油や具がこびりついている。


「申し訳ございません、アミシアさま」


 フルールの平謝り。口を堅く結んで怯えているようにも見える。この子、演技力も申し分ない。私も演技で応える。


「謝ってすまないわよ! 深紅のドレスはこれが気に入ってたのよ!」


 見かねたお父さまが口を挟む。


「落ち着きなさいアミシア。真っ赤なドレスなら何着も持ってるだろう? クリスティーヌを二時間も待ったんだ。くつろいで食べようじゃないか」


「お父さま、ドレスは全部色が違いますわ。朱や、ローズ色もあるんです。それぐらい見たら分かるものでしょ」


「その口の聞き方はなんだ!」


「お父さま、くつろぎたいと今おっしゃいましたよね? 私も同じ気持ちですよ! この出来損ないの侍女が私のドレスを台無しにしたせいで、私はあとのメインディッシュとデザートもこの汚れたドレスで過ごさないといけないのよ!」


 私は癇癪を起した演技をして、立ち上がる。


 はっと、息をひそめるフルール。違和感のないやり取りができたわ。これをクリスティーヌは少しせせら笑って見てくる。


「弁償してよ」


「アミシアさま、さすがにそのような高価なドレスは私一人では……」


「じゃあ、どうしてくれるの?」


 私のスカートを拭くための布巾をコラリーが用意してフルールに手渡す。フルールは今思い至ったという顔で私のドレスを拭きはじめる。


「もっと、丁寧に!」


 乱雑に扱うフルールの手を私は叩く。これも、お互いに了承していること。


「痛っ。お、お嬢さま」


「なに、口答えするつもり?」


「……いえ」と、口ごもるフルール。


 お父さまが頭を悩ませているような顔をしているので、ここら辺でさらっと決めてしまおう。


「あなた、働いて何年なの?」


「……一年です」


 私は今初めて聞いたように驚倒きょうとうする。


「たった一年働いて私に口答えしようとしたの? もういい! 私の侍女から外れて!」


 さすがに不安な表情をしたコラリーが私のドレスを拭くフルールを手伝った。


「アミシアさま。さすがに言い過ぎでは」


「コラリーは黙って。フルールと二人の問題よ。フルールはもういらない」


 お父さまが目を丸くする。


「いや、フルールは良い侍女だろう。新人とはいえ誰よりも仕事を覚えるのが早く、しかも終わらせるのも早い。首にするのは断じて許さんぞ」


 優秀なのは周知の事実。クリスティーヌもそう。だから、絶対クリスティーヌはフルールを取りに来ると思う。


「まあ、お姉さま。侍女を首にしてしまうの? もったいない。私のところの侍女が足りないので専属にしてもかまいませんか?」


 私は眉間にしわを寄せる。


「勝手にしたら?」


 ほら、餌に食らいついた。


 フルールが最後の演技で、私に名残惜しそうな顔をしてきた。もう、フルールったら。上出来すぎて吹き出しそうになるのを必死でこらえる。


 クリスティーヌのところに行ってもあなたが私の侍女であることに変わりはないわ。頼んだわよ。


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