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お腹がいっぱいの状態でコルセットを締めるのはしんどいわね。
「私に会いたがっているもう一人というのは、どなたなの?」
「もうお一方は騎士の方です。もったいぶってお名前をおっしゃらないのですが。少し、落ち着きのない方でにわかには信じがたいのですが、肩の紋章から国家騎士団の所属だと思われます。そんなすごい方が伯爵家のアミシアさまにお会いになられるなんて! 私、もう涙ぐんでもいいですよね?」
「落ち着いてコラリー。大したことじゃないわ」
騎士ミレーね。なんて分かりやすい男性なの。
「とりあえずパン職人からお話を伺いましょ」
パン職人の職長は私にダリアの花をプレゼントしてくれた。
「あの日、お嬢さまがパンを無償で提供すると聞いて驚きました。チャリティーのおかげで知名度が上がりパン工房も宣伝効果で客が増えたんですよ。腕をふるったかいがあります」
「あら、ほんとうに? それは良かったですね。また、パンの納入をお願いしますわ」
「はい。うちとしても助かります」
パン職人はあっさりと帰って行った。
「あの、お嬢さまー!」
第二応接室から私の訪問を待たずに飛び出してきたのは騎士ディオン・ミレー。
「おはようございます! 朝から押しかけて申し訳ない。僕と一緒に来たパン工房の方とのお話はお済みになりましたか?」
「おはようございます。こんなに朝早くお越しいただけて光栄です。はい。先ほどまでお話ししておりました」
「僕も彼にはお礼を言ったんですよ」
「え? どういうことですか?」
「僕もチャリティーの日にあの場にいたんですよ。お嬢さまはお気づきにならなかったのも無理はありません。僕は王族に仕える騎士ですので、無償の施しを受けるのはマナー違反かと。だから、リュカ王子が取ったパンを分けてもらいました」
分けるって。あのドS王子が? この人、リュカ王子と親密なの?
「あの、リュカ王子とは親しいのですか?」
「共に戦地を駆け巡った仲です。もう何年も前になりますが。僕は何度も彼の背を守ったとお思いでしょう? 違うんですよ。彼が隣国の魔法砲弾から身を呈して僕を守ってくれたのです」
そうなんだ。戦争のことはよく分からないけど、世間でも王子の活躍が話題になっていたわ。敵の将軍を討ち取ったとか明るい話題しか聞かなかったけど。彼も負傷していたのね。
「それでパンが美味しくて。お嬢さまのアイデアは素晴らしいですね。チャリティーに決まった形はないということを証明してくださった。また、来週お伺いしても?」
「もちろんですよ。でもミレーさまもご自身のパン工房をお持ちでは?」
「はい。王族に提供されるパンの工房から仕入れてます。でも、食べ比べるのも楽しいですよ」
比べられても困るんだけどね。王宮のパンとか原材料の生産地からこだわってそうだし。
「お伺いしたのは、僕からもなにかできないかなと思いまして」
急に改まるミレー。
「今度いっしょに食事に行きませんか? 聖女さまと三人で」
「はあ?」




