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「ね、眠い……」
魔法のレッスン終了後に襲われた強烈な眠気で、私室に私は倒れている。ベッドがいつも以上にふかふかに感じる。ああもう駄目、まだ夕食前なのに。布団が私を覆っていくみたい。
いつから枕を高くして寝る日が来るのかもしれないわね。
はっ。寝過ごした。夕食をすっぽかしたわ。コラリーを呼んで自室でサラダだけでも食べましょう。コラリーが配膳してくれたサラダにフォークを突き刺していると、窓から月の光が差し込んでくる。クロエ先生は空気を感じてって言うけれど、目に見えないものを見出すのは難しい。分厚い雲が月を追って来る。待って、まだ隠さないで。綺麗な白い月をもっと見ていたいの。
「そう言えば、あの日は日食だったわね」
私がギロチンにかけられた日のことなんか思い出さなくてもいいのに、無意識に反すうしてしまう。耳に残るあのギロチンの鋭利な音を早く忘れたい。
睡魔に襲われてもう寝ようとしたら、窓の外から見える庭にクリスティーヌが見えた。一人の護衛に剣を構えさせてなにをしているの?
静かにたたずんでいるクリスティーヌが両手を広げた。手から青白い光が垣間見える。それが渦巻いている。魔法だ。
なにをするの? 放たれたのは波動。護衛の剣だけでなく護衛も軽く数メートル吹き飛ばしてしまう。衝撃波で私室の窓がきしめいた。
「あ、あんなこともできるの?」
早く追いつかなきゃ。魔力が開化するまで待ってられない。先に呪文でも覚える?
クリスティーヌが首元になにか赤い宝石を身に着けている。遠くてよく見えないけれど、あれはルビーの首飾りじゃないかしら。確信が持てないけれど。
私のしかめ面が窓に反射している。ちらりとこちらを仰ぎ見るクリスティーヌと目が合った。
「え。い、やだっ!」
慌ててカーテンを閉める。私に気づいてたの? いつから? あの子ほくそ笑んでた。
誇示するために、わざわざ私の部屋から見える庭で魔法の練習をしてたの? あの子にはクロエ先生はついていないのよ。それなのに、あんなすごい魔法見せられたんじゃ……私どうすればいいの?
あのルビーの首飾り。お母さまの形見なのに。どうしてお父さまはクリスティーヌに与えたのよ。
眠気はすっかり収まった。ベッドに寝転がっても眠ることができなかった。
うつらうつらとベッドで横たわって数時間が経つ。
見間違いじゃないかしら? ルビーの宝石なんていくらでもある。あれがお母さまの首飾りであるかどうか、もう一度確かめなきゃ。あの首飾りには巻き戻りの力もあるのよ。あの子、まだ気づいていないみたいだけど。
あの子が巻き戻りの能力に気づくまでに奪わないと、何に使うのか分かったものじゃないわ! あれはお母さまが私に託したものなのよ。そして、お母さまの唯一の形見の品なんだから。




