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今日も歌のレッスン。ララ先生の表情は硬い。きっと、教えてくれているのは私のお金が目当てなだけなのよね。仲良くまでとはいかないけれど、教えてくれるだけ感謝しないとね。
私も、聖女になるには魔力が必要だと分かってから歌の授業に身が入らなくなった日もあったし。それでもピアノだけはやりたくて。そうだ、ピアノの置いてある部屋の棚に、先生のプレゼントとして花でも飾ろうかしら。
さらに、翌日。チューリップを花瓶に飾ってみたわ。
「アミシア。それはなんですか?」
「ララ先生への贈り物です。せっかくなので飾りました。レッスン後に、お持ち帰りいただけるように包みますね」
クリスティーヌは、にこにこと微笑んでいる。きっと、馬鹿にしてるんでしょ? でもこういう小さなことから仲良くなれるものなのよ。
でもまあ、クリスティーヌの歌、ほんとに上手いわね。廊下で盗み聞きしている侍女たちの拍手が聞こえてきた。やだ、鬱陶しい。クリスティーヌのファンアピールしなくてもいいのよ。
どっと疲れちゃった。クリスティーヌがわざとやったわけじゃないけれど。応援されているのとされていないのとで、だいぶ違うのね。別に私一人でも最後まで何曲でも歌いきってやるわよ?
でも、誰のために歌ってるの? 窓の外が快晴で嫌になる。歌声はどこにも響かないじゃない。大広間? 天井画の天使たち? それとも、チューリップ? 誰に向かって私は歌っているの。ララ先生に褒められるため? それだけなの? どこにも届かないみたいじゃない……。
「アミシア、声が伸びてないですよ」
「はい。先生」
涙声になってるじゃない。どうしたのよ私。
「ララ先生、申し訳ありません。今日はもう部屋で休んでもいいですか?」
「あら、お姉さま。三日で休むんですね?」
「ちょっと風邪気味なのよ」
ほんとに鼻声になってきちゃう。絶対、負けないんだから。だけど、今日だけ休ませて。
部屋に早く戻ったのでコラリーとほかの侍女たちが部屋を掃除しているところに遭遇した。
「あら、アミシアさま。どうされましたか? 顔色が……」
私が黙っていると、ほかの侍女たちをコラリーは部屋の外に出した。
「少々片付けが残っておりますが、ベッドの周りは全て終わってます。お嬢さま、お休みになられますか?」
「え、ええ」
「お嬢さまが三日もレッスンを続けたのははじめてですね」
「こ、コラリーまでそんな」
「まあ、そのようなことを言われたのですか?」
ギクッ。
「そうじゃなくて」
「ものごとを三日続けるのはとても難しいことだと思います。私もこのお屋敷に慣れるまで一か月かかりましたから。最初の三日は、広い屋敷内で迷子になったり、部屋を間違えたりで走り回ってものを壊したりと、よくとある方から怒られました」
「え、コラリーもそんな時期があったのね。ベテランなのに? ある方って誰?」
「ええ、みんなはじめは初心者なんですよ。うーん、その方は私の口からはお教えするのは時間がかかりますね」
「そうなの?」
「そのうち分かります。とにかく、お嬢さまは無理せずに、自分のペースで上達すればいいと思いますよ?」
「そうねぇ」
とりあえず明日も頑張ろう。行きたくないって思い始めたんならレッスンの時間を減らせばいいんだし。それか、クリスティーヌと練習時間を追加料金を払ってでも分けてもらうか……。うーん、それはなしかな。




