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やっと馬車を降りることができて清々するわ。クリスティーヌとずっと狭い箱に押し込められたみたいだったから、精神的に厳しかったわ。外の空気が美味しいとはこのことね。
黄緑色の葉をまとった低木が整列している。そこに赤紫のブドウがたくさん実っている。その一方で、東側の半分は実を落としたブドウがたくさんあるのが目についた。柵が壊されているのが遠目に見ても分かる。
「こ、これは! な、なんてことだ。ブドウが! 残ったのは、三分の二ほどか? だとしてもこれほどとは」と、お父さまが駆けていく。
土が掘り返されているところが多数散見される。鋭い魔物の爪痕があった。
「大打撃もいいところだ!」
そう遠くで喚くお父さま。
「あのう、伯爵さま」
お父さまに駈け寄ってなにやら話し込む男性が現れた。この果樹園の農場夫だ。打ち震えているのはお父さまだけではない。この男性も幾分表情が固い。怯えているようにも見える。
「このありさまをご覧になっていただいたところ、恐縮なのですが伯爵さま」
「ほかにも被害があるのか?」
「いいえ。お、お願いがございまして」
農場夫はお父さまを連れ戻してきてくれた。いや、私たち娘の前だと父の苛立ちが収まるとでも思っているのかもしれない。
「納税額を見直してもらえませんか? これでは収穫量も減り、今まで通りの金額を納めるのはとてもじゃないですが……」
口ごもる農場夫にお父さまは更に頭を抱える。無理な取り立てはどちらの得にもならないけれど。
「これじゃあ仕方あるまいな」
肩を落とすお父さまに寄り添うクリスティーヌ。また、何かするつもりかしら。
「清めます」
「え?」
なんて言ったのこの子。
クリスティーヌが被害の一番酷かった場所に移る。ブドウは根からひっくり返されたり、折れてしまっている。私とお父さまは連れ立って何が起こるのかと見守る。
「ここですね。穢れが一番酷い。山の方から来ています」
土地が穢れているかどうかは一目見ただけでは私には分からない。だけど、魔物の大きな獣の足跡を見ればどこから来たかぐらい理解できるの。なのに、お父さまは涙を流さんばかりに「でかしたぞクリスティーヌ!」と、感嘆する。
はぁ。やってられないわね。で、ここからクリスティーヌはどうするつもりかしら。本当に浄化するの?
クリスティーヌが両手を広げると、手のひらから白い光が放たれる。土や倒れたブドウに降り注ぐ柔らかな光。
それ、回復魔法なんでしょ。私知ってるんだから。まあ、植物には効くのがムカつくんだけどね。
折れたブドウの枝が接合される。葉はみずみずしくなり、しなびたブドウがふっくらと膨らんだように見える。さすがに、倒れたままだけど。人手を集めれば植えなおすことができそう。ちょっと悔しいけど。
「これで、この土地は清められました。お父さまも安心して下さい」
「さすが、私の聖女だ! 母さんも喜ぶぞ」
まあ、ほんとに演技が上手いわ。お母様が見たらどう思うかしら。お母さま、私……ふがいなくてごめんなさい。




