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娘と歩む我が人生




 男……(やなぎ) 貞夫(さだお)は堅実な男だった。


 3人兄弟の次男として生活を始め。


 堅実に中流な大学を出て。

 ブラックだが堅実に安定した大企業へと就職した彼は、日々を刺激とは無縁に生きていた。


 ……だが、最初からかと言えば。


 ずっとそうだったわけではない。


 幼稚園時代に仲良くなって。

 ずっと一緒だと思った少女。

 幼馴染から一緒に歩んだ彼女はいつの間にか3男である弟へ掠め取られてしまっていて、自分とはまるで生きる世界が違う女性に育ち。

 トラウマを受けて付き合い始めた清楚な高校の同級生は、年も離れて馬も合わなかった兄に奪われ。


 バイトで得た私財は何時の間に消え。


 笑い合った友には何時しか蔑まれて。


 周りの人間は、皆。


 自分の親族は、皆。


 私を虐げる事で得た。

 私を引き立て役にして、全てを奪う事で自尊心と欲望を満たした。



 ―――思えば、いつもそうだった。



 ―――自分は、全てを奪われる側。



 安定した今の生活。


 刺激がない日常も。


 全てそうありたいと逃げた末に得た。

 望んで、なったのだ。

 もう二度と喪失感を味わいたくはないと、奪われる人生はもうたくさんだと。



 ……………なのに。



『――お願いだよ! もう兄さんしか頼れる人が居ないんだ!』

『……………』

『和也兄さんは連絡なんて繋がる筈ないし、あの両親なんて論外だろッ!?』

『……………』

『お願い、貞夫君!』



 バカなのか? コレ等は。


 バカなのか? この私は。


 好き勝手に引っ掻き回し。

 好き勝手に生きた挙句に。

 もう生活は破綻寸前だとすり寄られ…彼等の子共を腕に抱かされ。

 その後ろに透けて見える奴らの確信、嘲笑――自分たち…自分の事しか考えていない、必死に見える上っ面の真意を理解していながら。



 その温かく、小さな身体を。



 イノチを受け入れてしまい。



 ……………。



 ……………。



「………ぁぅ……ぁあ」

「本当に、馬鹿だよな」

「ぁ……ぁう?」

「――私は、馬鹿なんだよな。信じよう信じよう…次はもしかしたら…なんて。本当は、最初から分かり切ってる事なのに」



 私の家は、私の部屋は……果たして。


 こんなにもゴミ屋敷のようだったか。


 いつも通りの日常。

 いつも通りの仕事。

 遅くまで働いて、精も根も限界まで尽き果てたと。


 私が家に帰ってきたら、コレだ。


 結局、やつ等には。


 夜逃げされていた。


 整頓された収納はぶちまけられ。

 整理した仕事机はこじ開けられ。

 金目の物の代わりに残っていたのは、家探しの末に散かされ尽くした屋内と、血も繋がっていない小さな命。


 

「……災難だったな、君も」

「――ぁ……ぁぅ?」

「私もだ。連れ子の、陰気な兄弟たちを元気にしたいって…自ら道化に走って、勇気付けて、やられ役になって、自分の足で立たせるようにして……結局、馬鹿を二つ…いや、四つ製造しただけ」



 ―――その結果が、コレだ。 


 本当にどうしようもないな。


 次郎()は、嗤ってる筈さ。

 無論、美羽(幼馴染)だって…な。


 アイツ等は、今頃。


 ほくそ笑んでいるだろう。

 私にはやり返すような気力なぞ存在しなくて、放り出された赤子がこの後どうなるのかを考えれば、アレ等を探し出して訴え、引き取らせる筈などないと。


 あの大馬鹿(サダオ)は、絶対に。


 俺たちの子を育てると。


 体のいい託児所が出来て喜んでいるだろう。



「――君は、私にチャンスをくれるかな? 愛華(マナカ)ちゃん」

「……………ぅ」

「………ははは」

「――すぅ…すぅ」

「ははは――良いさ。どうせ、碌でもない人生だ。性善性悪など興味はないが。少なくとも、君は暫く五つ目にはならないだろうからね」



 スヤスヤと寝る赤子は。


 まさしく、純粋無垢で。


 暫くもすれば、起きて。

 ふぇふぇ泣くのだろう。

 だから、当然……その前にミルクと、オムツと……部屋の整理整頓だ。


 希望など失った私には。


 思考停止などないから。


 機械のように、淡々と。

 最悪の現実を受け入れて、此処からどうしようかとすぐに行動し始める。



「――会社には、色々と申請。……マコトは相談に乗ってくれるかな? 暫く連絡してないから、私の事など忘れているかもしれない」

「……………」

「電子機器など、PCと携帯で十分だと弄らなかったツケが回ったかな」



 数少ない連絡網のある友人。


 弁護士資格も持ってた筈だ。


 色々と詳しい彼なら。

 もしかしたら、この状況をどうするべきか私に道筋を示してくれることだろう―――と。



 そんな事を考え、行動を。


 

 今まさに起こそうとした。



 丁度、その時だ。




 ―――私は、本当の意味で暫く思考を停止させた。




 カーペットに走る線は。

 何か零したわけでなく。

 浮かび上がるソレは、私の足元など構わず突き抜けていく。

 足の裏をすり抜け。

 何の熱さも、冷たさも感じない線は、曲がり…くねり…一つのカタチを描いていき。


 部屋の中に現れたのは。


 複雑で幾何学(きかがく)的な模様。


 平面幾何学式庭園を俯瞰(ふかん)したようなそれが。


 黒い筋が、光を放ち始め。

 中心部へと収束していく。



 中心部に存在するのは。



 私――ではなく、赤子。



「……………ッ!!」



 光が赤子を取り巻く。

 そんな異常事態でも。

 その命はスヤスヤと寝息を立てたまま、起きもせず…抵抗もせず。


 身体が揺らぎ。


 視界が揺らぎ。


 数瞬の間だろう。

 およそ私は、気を失っていた。


 目が醒めてすぐ。

 意識を取り戻してすぐに視線をやった赤ん坊は果たして……そこに居る。



 ―――髪の色は、金色で。



 ―――開かれた瞳は蒼で。



 ―――そして、尖った耳。



「――これは……妖精……何だ、コレは」

「…………ぅ?」



 先程までの黒髪の赤子は。

 日本人的な特徴の乳児は。

 まだ毛も生え揃っていないような0歳児は、人が変わったかのように別人と化していた。


 いや、或いは。


 別人と、取り替えられたとでも言うのか?



「起きて……いや。何が、おきた。私は一体、何を見せられて――悪い夢か? 私の人生は」

「う……うぅ…ふぇぇ――」

「――待っていてくれ。今、ミルクをお届けする」



 だが、それは……今の私には。



 考える時間すらも与えてはくれないようだ。




  ◇



  ◇



  ◇




 チェンジリングという言葉がある。


 日本では取り替え子というらしく。


 西洋の古い伝承だ。


 悪意、害意、厚意…理由は様々だが、【妖精】という空想上の生き物が人間と自らの種の子供を入れ替え、連れ去っていく。

 取り替えられてきた子供は醜いともいうし、すぐ死んでしまうともいうが。



「――ぱぱ。ぱぱ?」

「あぁ、此処に居る」


 

 この子は、当て嵌まらなかった。


 少なくとも、現状は間違いない。



 ―――あの怪体験があり。



 私は、すぐに友人へ連絡を取った。


 無論、目撃したことは。


 全て、全て彼に伏せた。


 言った所で、気が触れているとしか思われないだろうから。

 だが、言わなかったところで、時間の問題だとも思っていた。


 すぐに破綻すると思った。

 何せ、なにもかもが違う。

 日本国に生まれた以上は出生時に届け出がされており、ある程度期間が経っているのなら。可変だが、血液型を始めとする多くの身体情報がその人物を取り巻いている訳で。


 それが別人であると。


 バレる筈だったのだ。


 無論、定期診断など。

 然るべき場所で何らかの検査をすれば、誰でも遺伝的な差異に気付く筈だった。



「――ぱぱ。ぱぱ?」

「此処に居るとも」



 それが、どうだろう。


 全ての情報は、正確。


 全て、()()()()であると。

 少なくとも、外見以外はそうだ。

 まるで世界が「そうあれかし」と定めでもしたかのように、齟齬など欠片も存在しておらず、心配はいともあっさりと丸く収まる事になった。


 妖精の様な幼子は。


 私の養子となって。


 私が育てる事になった。

 無論、日本人的でない特徴は注目されたし、長い耳は問題となりかけもした。

 だが、前者は何かしらの先祖返りという事で無理やりに処理され、長い耳は一種の形態的異常であると片付けられた。


 はれもの扱いもあったが。


 今では殆ど落ち着き始め。


 人間は慣れる物であると、つくづく自覚させられた。



「――ぱぱの……ぱぱ?」

「見ているとも」

「うごいちゃメ!」

「……済まない。ちょっと、考え事をしてたんだよ」



 絵を描くのは良いんだが。


 そこまでこだわる必要が?


 熱心にクレヨンを走らせ。

 対象を描き出す2歳児。

 私の顔をモデルにしているようなのだが、どうにも職人気質らしい。



「ふん~~~♪」



 ピコピコ動く長耳は。


 上機嫌を物語ってて。



 あの一件があり、私は会社を辞めて。

 友人の経営する大企業へと転職した。

 おんぶ抱っこに過ぎる気もしたが、友人はどうにも頼られることが嬉しかったのか……私自身、誰かに頼る事が新鮮だったのか。


 話は、実に円滑に進んで。


 幾つかの取り決めがあり。


 私は家にいる時間が大半になった。

 おかげで、かつてない程の安らぎを得る事が出来たが……それと同時に、考える時間も増えた。



 無論、下らない私の半生だ。



 娘に会うまでの人生の事だ。

 


 一体何処をどうすれば良かったか。


 何処から私は間違いに進んだのか。


 この子も……外見が変化しただけなのか?

 もし本当に弟の娘と取り替えられたとでも言うのなら、その赤子は何処へ行ってしまったのか。


 毎日のように考えて。


 何故か後悔が浮かぶ。



 だが、それもこの子と一緒に居る間だけは……。



「――パパ! できた! パパのおかお!」



 その声で、現実へ引き戻されて。

 私が、彼女の方へ視線を戻すと。


 娘はクレヨンを置いて。


 それを見せようとする。



「あぁ、やっと動けるように――ッ!!」

「すごい?」

「……凄いよ、マナカ。まるで、プロ…一流…芸術家…どう説明すればいいのかな。とにかく、凄いよ」

「――えへへ……なでるのすき」

「末は芸術家か…芸術になる側か、ね」



 バロックや盛期ルネサンスのようなインパクトがありながら。

 写実的に描かれた私の似顔絵……クレヨンだよね?


 我ながら、(くま)が酷くて。


 死んだ魚のような目だ。


 それは、今にも動き出しそうで。

 世の目に晒すわけにもいかないし、夜不意に見つけたら飛び上がりそうで…何処に飾っておくのが吉なのだろうか。



「ぱぱ、もっとたくさんかく!」

「………あぁ、良いとも」

「たくさん?」

「幾らでも。マナカが納得いくまで、沢山…たくさん描くと良いさ」



 相手は、未だ二歳児。


 まだまだ舌足らずだ。


 しかしてその才能は。

 その恵まれた容姿は。

 どれだけ私が過保護に触れ合おうとしても、いずれ必ず何処かへ羽ばたいていく事を確信できる程の極光に満ち溢れていた。



 ―――さながら、妖精が如く。




  ◇



  ◇



  ◇




【マナカ5歳(幼稚園生) 虐め問題】




「――ふぇ……ぅ……うぅ……」

「……………」

「ぱぱ……やっぱり、私っておかしいの?」

「……………」



 いい度胸だな、ガキども。


 私のマナカを虐めるなど。


 余程下らない人生とみた。

 

 今の私には、時間が多分にある。

 幼稚園の側に訴え出る事も、保護者側に訴える事も、その子供たちに直接「絶望を知る大人が選ぶ・トラウマ体験10選」を植え付けてやる事も。


 何だって出来るのだがな。


 

「――ぱぱぁ……うぅ……っ」



 園で馬鹿にされたらしい。


 それだけ娘は目立つから。


 私に泣きついてきたという事は。

 何の連絡もないという事は。

 帰って来てから急に泣き出したという事は……この子は外にいる間は、ずっと我慢していたのだろう。

 

 本当に、心の優しい子で。


 余計に腹が立ってくるな。



「何も人と違わない、という事はできないな」

「………うぅ…」

「だが、それはヘンでも異常でもおかしくもない」

「……違うの?」

「全く異なるモノさ。人とは違う髪の色も、宝石みたいな瞳も、可愛らしい耳も。常識に照らし合わせるなら、それは美しさ、可愛さで語られるからね」


「――むずかしいよ」

「今はそれでいいさ」



 感情を吐露し終えたのか。


 泣き止んだ娘の髪を撫で。


 私は愛娘と向き合う。

 今の私にとって、唯一残った大切な宝物と。 



「パパも、他の大人たちも。マナカを可愛いと言うだろう?」

「………うん」

「じきに、それが普通になる」

「変わるの?」

「変わるのさ。未知が既知になった時、彼等は今までの行いを後悔する。マナカの持つ魅力にメロメロ……は、死語かな?」


「……しご? むずかしいよ」

「ははは。すぐに分かるさ。マナカは、誰よりも可愛いとね」



 眉をひそめるマナカ。

 娘の目元をハンカチで拭いながら、笑って答える親バカ。


 こんな平和な日常を送っていると。


 昔の事などどうでも良いと思えて。


 この先も、恐らく私は。

 今以上のバカ親になってしまうのだろうなぁ。




  ◇



  ◇



  ◇




【マナカ7歳(小学校入学) 不審者騒動】




「ク……うぅ……はははッ」

「う……う…グスッ」

「グスッ……貴方も、ハンカチが必要ですか?」

「――ずびばぜん」

「いえ――グズッ。目出度い時は、共に祝うモノでしょうから」



 隣に座った名も知らぬ男と。


 小さく会話しつつ、涙する。


 あのマナカが、もう小学生。

 何故こんなにも早いのか。

 如何に妖精のようだからと言って……いや、或いは妖精だからこそ、すり抜けて羽ばたいてしまうのだろうか。


 煌めく金色の髪はツインテールに。

 くりくりの瞳は幸せそうで…あぁ。



 意識を失いそうだよ。



 ……………。



 ……………。



「――さん、お父さん」

「……………」

「お父さん?」

「……………」

「お父さんっ! 早く行かないと写真撮れないよ?」

「――マナカ? ……これは――時が飛んでる?」


「飛んでないよ?」

「……あぁ、そうだね。そんな魔法みたいな現象が起こるわけ――写真ッ!?」



 いつの間にか、式が終わっていて。


 

 娘に揺り起こされて引き戻され。

 我に返った私は、衝撃を感じる。


 急いでカメラを取り出し。


 内容を確認して見るも…。



「――無い――ない!」

「……なにが?」

「後半の写真がないッ! 撮っていなかったのか!?」



 サダオ、一生の不覚。


 既に星の数なのだが。


 また一つ、追加だと。

 しかも…今の私にとっては最優先となる筈の任務が……あぁ。



「……………ははッ――終わった」

「写真撮れなかったの?」

「うん……ゴメンな」

「大丈夫、大丈夫だよ!」



 はは、私の妖精は優しいなぁ。


 こんなどうしようもない私を。

 

 カメラを一緒に確認して。

 マナカは、自分の笑顔と向き合って上機嫌。

 愚かな私を、この妖精天使様は優しく許してくれると言っているのだろう。



「有り難う。その言葉だけで――」

「そうじゃなくて」

「……ん?」

「たっくんがね? お父さん沢山写真撮ってくれたんだーって言ってたの。隣だったから、私も一緒に映ってるんじゃないかな」



 ―――たっくん?



 それは、何処の馬の骨だ。


 娘に付く悪い虫の名前か?



「たっくんのお父さん、隣に座ってたでしょ?」

「……………あ」


 

 そうか、あの男性が。



「――で、マナカ?」

「んん~~?」



 お耳がピコピコと。


 可愛らしく揺れる。



「そのたっくんとやらは、どういう関係なんだい?」

「お友達だよ?」

「……彼氏(おともだち)

ぼーいふれんど(男友達)……?」

ボーイフレンド(彼氏)ッ!?」

「えいごのアニメでやってた!」

「――ははは、そうかそうか。……今度、たっくん家の連絡先を聞いておいてくれるかい?」

「なんで?」

「マナカがお世話になってるだろうから、普段のお返しにね。良くしてくれる子に、入学祝いで何かあげたいじゃないか」



 マナカ作、私の絵とかどうか。


 喜んでくれそうじゃないかな。


 寝室に飾ってあげて。

 ……天井が良いかな。

 きっと、夜もぐっすり眠れるようになって、男の魅力が上がる事だろう。



 思わず邪悪(やさしい)な笑みが漏れる。



『ママー? 変なおじさんが居る』

『……コラ、見ないの』

『あの笑い方……一体何者だ? どう見ても、保護者には……まさか、誘拐――』

『男の先生呼んでこようかしら……』



「――ふふ……はははははッ」

「お父さん?」

「あ。……あぁ、すまない。校門の前で写真撮影だね?」



 何時までも棒立ちな私を。


 心配そうに見上げる愛娘。


 流石に、考え事が過ぎたな。

 もう大分混んでいるだろうが、早く向かうとしようか。


 ……だが、不思議な事だ。

 もう時間が経っているのに、私の周りは随分と賑やかな様子で。


 まぁ、どうでも良いか。

 

 マナカ最優先なのだよ。



「――じゃあ、行こうか」

「うん!」



『……………連れ去りか。やはり、間違いない』

『どうしようかしら…』

『警察に連絡します?』

『いや、あの悲壮な顔は一刻を争う』

『明らかに思いつめている者の顔ですな。取り返しのつかない行動に移す前に、此処は私たちが――』



 親子で仲良く手を繋ぎ。


 体育館を後にする私達。


 こんな可愛いマナカも。

 もう少し大きくなれば、きっといずれはパパを避けるようになって……うぅ。



 とても、悲しいモノなのだな。



 思わず顔に悲壮感が現れるよ。




  ◇



  ◇



  ◇




【マナカ10歳(小学四年生) 親子になる】




「只今、マナカ。今日も掃除を……まなか?」



 それは、ハッキリ異常だった。


 家の中からは物音が消失して。


 常夜灯が薄く照らすのみ。

 本来であれば眩しい廊下とリビングの光は無く、私の寝室と、不可侵たるマナカの部屋のみに僅かな光が存在していて……。


 今日のマナカのスケジュールは。


 学校が終わったら部屋掃除。


 時間が余ったら家の掃除と。


 色々綺麗にしてくれるのが日課で。

 お風呂に入るにはまだ早い時間だし、こんな時間に外出するような性格でもない。


 

 ………今更ながら。


 

 娘の日課を完璧に覚える父親はおかしいだろうか。


 いや、父親としてならば。


 至極普通なのではないか。


 だって、パパだし。

 当然の権利だろう。

 自分の経験のみから来る理論を展開しながら、私は娘の部屋を覗くが……。




 居ない?




 見える範囲には、居ない。

 ……ならば、私の部屋か?

 幾ら見えないからとは言え、娘の部屋へ入るのは決してあってはならぬ事。


 私は踵を返して。


 寝室へと入るが。



「どうしたんだ、マナカ」

「……………」

「全く、心配したよ」



 マナカは、確かにそこに居た。



「電気も付けないで――あぁ、さては埃を探すために、敢えて暗い部屋で……」



 ……………。



 ……………。


 

 ……それは――マナカ?

 それ、何を持っている?



「マナカ。それは――何を……ッ!」

「……………」

「差出……ッ!」

「……………」

「お父さん宛だ! 中身を見てはいないよな!?」



 見ていない筈は無かった。


 だって、封筒は開封済み。


 およそ、私の物だと。

 いけないとは思ったのだろうが、手持ち無沙汰故に興味が沸いて…あんなに綺麗に、私が後で気付かぬように綺麗に中身は入れ直されていて。


 しかし、バレぬ筈がない。


 私の愛娘は小さく震えて。

 顔は涙でぐしゃぐしゃになり、目元は泣き腫らしていた。



「――これ……おとうさ……わた…おじいちゃんたちなの?」

「………見せてくれ」



 か細い声で呟く娘から。


 奪うように手紙を取り。



「……サダオ、元気か――」



 私は、小さく声を出して。


 その便箋の内容を読んだ。


 黙読では、頭へ入らないから。

 今の私は、全くもって冷静な状態ではないから。




「ジロウの娘も、貴方の手で優しく育ち――」



 

「……そちらも男手一つで大変だろうから、また一緒に――」




「―――――ッ――ッ――ッ」



 普段なら、読んで破って終わり。


 所詮、その程度の内容のモノで。


 そう来るものでないから。

 すぐに忘れて終了だった。


 だが、今回はそうでなく。


 身体中から血の気が引く。

 

 要約すると、内容はこうだ。

 私の両親……だったモノたちの生活が苦しいから、同居して……元息子とその養子を奴隷としてこき使っても良いか……と。


 何とも分かり易く。

 確信に至れるだけのものが書かれていた。


 縁を切ったあとまで。


 あの疫病神共は亀裂を入れたいか。

 


「――おとう……とうさ……」

「マナカ。私は――」

「おとうさん……じゃ、ない」

「……………ッ」



 その瞬間。

 マナカと出会って以来、久しく感じていなかった大きな喪失感が私を満たす。


 教えるつもりなど無かった。


 娘に話すつもりはなかった。


 だって、何の必要もない。

 よく、何らかのドラマや小説で大きくなったらうち開けようという話が上がるが、敢えてそれを伝えるメリットなど私は何も感じられなかった。


 確かに、ふとした拍子に知る可能性はある。

 だが、それは先であって、今じゃない。

 

 マナカが今よりずっと大きくなって。


 誰かと、幸せになった後の筈だから。


 だから、徹底的に証拠は消した。


 戸籍関係、縁組届。

 全てを葬ったのだ。

 捨てるのは後の必要時に困るから。

 家ではない別の所で管理してもらい、マナカの目に触れる場所から、それら全ては消えたはずだった。

 

 唯一となる心配は。


 コレだけだったが。


 それも、何の所縁(ゆかり)もない男から。

 アレ等ヘ、生活費として心ばかりの金を包む事で、抑えられると思っていた……思い込んでいた。



「――わたし……は――」

「マナカッ!?」



 突然、揺れる視界。


 青白く光る娘の体。


 ……ふざけた光景に。

 余りに非凡な光景に。

 不相応にも私はある種のしらけを覚えて、思考が安定して。


 ようやく、自分がどうすべきなのか。


 何をしてやるべきなのかを思い出す。



「――私は、父親だ!」

「……………ちが……」

「違わない! 他の誰でもない、マナカの、唯一の家族だ! 血など繋がっていなくても、何があっても、何処へ行っても、私はマナカの父親だ!」



 すぐさま手紙を破り捨てて。

 私は、大切な愛娘の…妖精の小さな身体を掻き抱く。

 相変わらず、謎の光はマナカの身体を青白く照らしていて、それがまるで我慢ならない。


 ふざけるなよ、超常現象。


 また、お前はそうやって。


 突然に光り出でてきて。


 悪戯に私の心を乱して。

 あまつさえ、今度は私のマナカにまで手を伸ばそうとでも言うのか。



「――認めない。ふざけるな! マナカは私の宝物だ!」

「……………!」

「渡してやるモノか! クズには絶対、男にも、超常現象なんかにも――渡してなるモノか! それでも欲しい(結婚したい)という奴が居るのなら、まずは一発ぶん殴ってからだ!」

「――おとう…さ」

「血が繋がっていないから何なんだ!」



 そんなモノ、只の生物学の話だろう。

 そんなモノで…下らないモノで親かどうか、娘かどうかが決まるというのなら。


 法律などいらないだろうが。


 私には日本国が付いている。


 法律が、認めている。

 私とマナカは正当な家族…親子であり、他の連中は何の関係もない。



「私が、ずっとずっと護る。マナカは、私だけの宝物だ!!」



 彼女を取り巻く光を追い払う。


 ふざけた力を滅するように…。


 私は娘を抱きしめて。

 決して離さぬと、渡してなるものかと、私だけのモノだと言い聞かせる。



「――おとう、さん……?」

「絶対に、離さない」

「……おとうさん。――お父さん?」



 何時しか、光は消えていて。


 照らすのは小さな灯りのみ。


 マナカは私を見上げて。

 昔と同じように、腕の中で小さく震えながら何度も私を呼ぶ。



「――何だい、マナカ」

「わた……し。お父さんと一緒にいたい。ずっと一緒が良い」



 ……………?


 

 ……………?



「何を、馬鹿みたいなことを言っているんだ」

「―――え?」

「そんなの、当然に決まっている。居たいではなく、居るんだ。これまでも…これからも。私とマナカが望む限り、ずっと…ずっと…ずーっと一緒に居るんだよ」

「……ずっと?」

「ずっとさ」

「ずーっと?」

「ずっとだとも。私たちは、たった二人の家族なんだから」



 問答を続ける程に、影が消える。


 彼女の感じる闇が払われていく。



「――でも、私……やっぱり」



 未だ迷いが残っているのだろう。


 マナカは、本当に聡い子だから。


 自分の身体特徴を見て。

 あの怪現象を目にして。

 私が知らない間に、不思議な経験をしたかも知れず。

 もしかしたら、自分はそもそも別の種――なんて、色々な、突飛で空想的な考えを…ある種の真実を巡らせているのかもしれない。


 だが、ソレも関係はない。


 そんなモノの出番は無い。



「――二度と、無い。出てくるな」

「……お父さん?」


 

 相変わらず、マナカは。


 心配そうに見上げてて。


 致し方ないが、此処はアレだろう。

 聞き分けの良い愛娘には、やはり。




「困ったなぁ。お父さんは、ちょっと我が儘過ぎる女性の方が好みなんだがなぁ」




「―――え? 聞いたこと無いよ」

「実は、そうなんだよ」

「……本当に?」

「あぁ、本当だとも。女性は、その方がモテるし、私も好きだ。――だから、マナカも我が儘で良い。自分のしたい事は、自分だけで決めて良いんだ」



 ―――我が儘で身勝手な女性……うぅ、頭が。



 実際は、余り得意じゃないが。


 トラウマしか存在してないが。


 これでマナカが立ち直るなら、是非もない。


 それに、娘は優しすぎるのだ。

 心配をかけるという事がない。

 だから、これを期に…せめて、もう少しでも親に我が儘を言うという事を学ぶのも良いだろう。



「――私、お父さんとずっと一緒に居たい。一緒に居るの!」

「それで良い!」

「ずっと一緒!」

「勿論だとも!」

「結婚するの!」

「そうだ! 私とけっこ――え? ――来たぁぁぁア!!」



 全国のパパが言われたい言葉ランキング一位(弊社調べ)


 パパと結婚するの…が。


 遂に、我が手に……ッ!



「お父さん。お父さん、お父さんッ!!」

「そうとも。私は、マナカのお父さんだ」

「――ぁ……えへへ。お父さん……お父さんっ」



 嬉しそうに、楽しそうに。

 にへらとした、少女特有のあどけない顔で何度も私を呼ぶマナカ。


 そう呼ばれる度に。


 その瞳が向く度に。


 私は生きる気力を得る。

 ずっと、ずっと――マナカが私を必要としなくなるまで…羽ばたいていくまで幸せでいられるんだよ。



「お父さん――――――大好き!!」



 だから、我が儘でいい。


 ずっと、我が儘な娘で。




  ◇



  ◇



  ◇




【マナカ11歳(小学五年生) 反抗期?】




「ねぇ、父さん。私言ったよね?」

「……ぁ……あぁ」

「料理は私がやるって言ったよね?」

「……済まない」

「父さんがやると何時も沢山作るから、ダメって言ったよね?」

「いや、それは――」



 育ち盛りのマナカに。


 沢山食べて欲しいと。



「私、小食なの! それでいつも綾乃ちゃん家にお裾分け行ってるんでしょ!?」

「……いや、悪い事では――」

「ダメですぅ!」

「――ひぃん!?」



 父として、男としていけない声が。


 だが、それ程までに怖いのだから。



「本当に、聞き分けないんだから。何度も言わせないでよ」



 ぱっちりした蒼の瞳を細め。

 長い耳をやや上へ反らせて。

 私を見下ろす愛娘を、此方からは正座をした状態で見上げるしかない。


 マナカが反抗期を迎え。


 親子の立場は逆転した。


 彼女は酷く多感になり。

 

 本当に我が儘な、現代的な少女へと成長してしまった。


 山のように私服を肥やし。

 雪崩のように雑貨を買い。

 怒鳴れば地震が起きて。

 私の小言は川のようにスルー。

 歩く自然災害で……まぁ。全て自業自得と言ってしまえば、そこまでなのだが。


 どうしてこうなった。


 だが、聞いた話では。


 学校では、超が付く優等生らしく。

 誰にでも優しく、分け隔てなくて。

 文武両道、頼られれば答えてくれる高嶺の花……が、どうしてこうなる。


 私が何をしたというのだ。


 まさか、パパ臭いなのか。

 毎日ちゃんと洗濯してる。

 しかも、そうなってしまう要因…科学的根拠から考えれば、私はそこまで――



「遺伝的観点からはにおわない筈だろう?」

「お父さん臭い」

「―――がっはぁッ!?」


「毎日聞かないで? うざいよ」

「……そんな言葉を、何処で」

「何処でも良いじゃん。娘の私生活に一々口挟んで来ないでよ。というか、昔はスケジュール事細かに調べてたとか……キモ」


「……………ははッ、死ぬ」

「どうぞ? ――あ、私お風呂入ってくるから、出てくる前に寝てね? 視界に入れたくない」



 ……………。


 ……………。



 よし、死のう。



 もとい、死んだように眠ろう。

 涙で娘の心を洗い流せるくらいに枕を濡らして、泣き腫らした目で情に訴えて――



「あと、泣き落としとかやめてね? 年齢考えてよ」

「………あ、はい」



 着替えを持ってきたのだろう。


 リビングを通りかかる娘の声。


 季節的に暑いのだろう。

 上着は既に脱いでいて。

 下着同然の姿に「はしたない」と声を大にしたいところだが、言い返されて人生終わりだ。


 傷が深くなるだけだ。



「じゃあ、おやすみー」

「お休みなさいませ」


 

 最新の化粧水を手にしつつ。

 お風呂へ向かう娘を見送り。

 私は、速やかに寝室へと向かい、ベッドへと潜り込む。



 ―――だが、まだ寝ない。



 あまりにも情けない話なのだが。


 最近では青春漫画を読んでいる。


 というのも、マナカが怖いから。

 娘に真の恐怖を覚えたが故にだ。

 学生時代の幾多のトラウマ経験で、空想の中でしか存在しえないと悟っている「敬語で清楚な御嬢様きゃらくたー」がヒロインに据えられた作品を読むことで、私は少しでも心の安定を図っている。



 それは、今のマナカの対極で。



 どうか大声で笑って欲しい。


 良い年の親父が何を……と。



「――だが、これだけが唯一の――アレ?」



 ベッドの下に隠した収納。


 そこから取り出した本は。


 何処か、質感が違う。

 こんなだったかなぁ。

 

 

「――『どきっ、エルフ少女との同棲生活』……作者、本田……ん?」



 いや、そんな筈はないぞ。


 全く身に覚えがない本田。



 ―――本だ。



「……誰だ、本田。お前は何者――まさかッ!」



 ベッドから飛び起きた私は。


 速やかに隙間へと手をやり。


 一気に引っ張り出す。

 収納を引っ張り出す。

 すると、丁寧に納められた本は、その全てが全く見知らぬ表紙とタイトルで。



「お嫁はエルフ……妖精奥様……娘を幸せにする12の方法……続、娘と結婚する12の方法……隣のエルフ妖精さん……僕の光源氏計画――」


  

 えるふだの、妖精だの。


 娘だの結婚だのと……。



「ははッ。エイプリールフール?」



 ―――否、季節は夏である。



 ……………。



 ……………。



「――マナカ! これは一体どういう悪戯なんだ!」



 当然、次の日に娘を問い詰めた。


 夜更かしは娘の肌に毒なので。


 朝食の席で、私は問い詰めた。


 テーブルに積まれた本。

 山と存在するそれらへ視線をやりながら、厳しい表情を作って娘を叱る。


 娘の為を思えばこそ。

 こんな下らない悪戯をやめるべきだと…本を返して欲しいと言い聞かせる。



 ―――が、しかし。



「恥ずかしくないの? 父さん」

「ガハッ!?」



 一瞬で立場は逆転。


 主導権を握られる。



「いい年して、あんな本読んでさ」

「……ぁ……ぐふッ」

「ちょっと気持ち悪いよ?」

「……………」

「普段あんな真面目ぶってさ」

「……もう、止めてくれ。分かった、パパが悪かった。全部謝るから……本を、返して欲しいんだよ」



 だが、マナカも鬼じゃない。


 言えば返してくれる子……。



「ダメ、返さない」

「……ひょ?」

「イヤじゃん。綾乃ちゃんとか、友達連れて来た時に父さんのベッドの下からあんなのが出てきたら」

「いや。それは私の部屋にはいらなければ――」

「何で入っちゃいけないの?」

「……だってお父さんの――」


「お父さんに人権あるわけないじゃん」

「……左様でございますか」



 これは、一体何なのだ。


 コレが、下克上なのか?


 昨日泣きながら読んだ本。

 アレに出てきた「めすがき妖精」なる少女は、こういう事を言うのか?



「―――どうか、どうか、アレだけは……」

「ダメ、あんな本は」

「ぁ……ぁぁ……」

「私の部屋にポーンしておいたから」



「うわぁぁぁぁぁぁぁん!」



 ―――終わった。



 私が踏み入れぬ無敵の要塞。


 いまだ見果てぬ禁断の領域。


 それ即ち、娘の私室である。


 捨てられたわけでもなく。

 家の中に存在しながらも。

 私にとって必要な薬は、永遠に手の届かぬ場所へいってしまった。



「………うぅ……グスッ……安眠導入剤が」

「じゃあ、私学校行くから」



 氷のようだよ、マナカ。


 なんてそっけないんだ。



「行ってきまーす」



 パタンと閉まる音を聞き届けながら、私は貧血のように襲い来る闇に身を委ねる。

 その日の私は、魂が抜けていただろう。


 何せ、気が付けば夜で。


 次の日に変わっていた。


 本能で仕事は終えていたが。

 いつの間にか、私の寝室で。

 いつも通り、マナカが作ってくれる最高の朝ご飯の匂いで目を覚ます。


 今日は何だろうな。


 目玉焼きとかかな。


 パパの目も焼いてくれないかな。

 泣きすぎて痛いし、目やに酷いし……この現実から目を背けて、娘の可愛い罵声だけを聞いていたい。



「――起きて……起きてますか?」

「ヒィ!?」

「起きてますね」

「……ま、まなか…さん?」



 強く…強く両目を閉じていたせいか。

 接近する嵐の存在に気付いておらず。


 私は、揺り起こされる。


 ……起こされてしまう。



 ―――が…今日は何故か質感や感触も、声色も…全てが違う。



 何だ……ソレは。


 何が目的なんだ。


 今までの簡素で、何の装飾もない白無地なエプロンでは無く。

 精緻な意匠が凝らされた、優しい薄緑のエプロンを着た娘は。


 何時もの拳でたたき起こすモノでなく。

 絹のように滑らかでほっそりした指を使い、まるで小鳥でも起こすように優しく私を揺り動かす。


 腰まで届く長髪はストレートに。


 所作は育ちの良い令嬢のようで。


 私に対してだけキツイ目つきは。

 まるで、慈愛の権化と言わんばかりに優しく、暖かくサダオ(38)を瞳に映していて。



「―――お……おはようございます、お父様」



 ……………。



 ……………。



 ドレスかな?


 高級車かな?


 或いは、豪邸が欲しいのかな?



 ……………誰か、何が起きているのか説明してくれ。




  ◇



  ◇



  ◇




【マナカ13歳(中学一年生) 冬眠】




「――お父様、お父様?」

「……ん……んん」

「ソファーで寝ると、風邪を引いてしまいますよ。寝るならベッドで一緒にです」

「……んん…嫌だぁ」


「何故、嫌なのですか?」

「……当然だろう。中学生の娘と同衾(どうきん)する父親が何処に居るんだ」



 やましい事など。

 私は誓ってやってなどいないのだが。

 

 そろそろ、ダメだろう。


 パパも駄々をこねるさ。


 それは、丁度あの時期。

 反抗期を過ぎてからだ。


 まるで、準備が出来たと言うように。

 マナカはゆっくりと……しかし確実に大人への階段を上っていく事になり、未だ中学生でありながら、大人顔負けの色香を放っていた。


 ふとした拍子にくすぐる芳香。


 やわらかで、落ち着いた所作。


 大きな起伏を感じさせる肢体。

 


 ……そう、まるで。

 確かに記憶の中に残っている、初恋の少女のようで。



 多分な後ろめたさと。


 自分の不甲斐なさに。


 私は駄々をこねる。

 可愛い娘の前で、良い年齢の中年親父が駄々をこね続ける


 十年以上も大切に……。

 手塩にかけて育てた娘。

 彼女を、ふとした一瞬にでも女と意識した自分に。

 私を裏切って男と逃げて行った女に娘を重ねた最低な自分に。


 今この瞬間も失望し続け。


 嫌悪し続けている現状だ。

 


「お父様。風邪を引いてしまいますよ?」



 いや、そもそもおかしいのは。


 娘と一緒に寝ている事だろう。


 何せ、彼女には私室がある。

 (ゾンビ)の入れぬセーフゾーンだ。

 質の良いベッドも用意してあるし、最近では全く無くなったが、反抗期の頃はよく強請られて、色々なインテリアを買ってあげた。


 数年前買った服だって。

 当時は怯えて気づかなかったが、反抗期頃のマナカには大き過ぎる服も多く。

 

 丁度、今がピッタリ。

 

 お気に入りらしいし。

 

 センスは、当時のまま。

 今更気に入らぬデザインという筈がないのだが、何故自室で寝ない。



「――私は、別に何処で寝ても構わない」

「いけません」

「気にしないでくれ」

「ダメですよ」

「迷惑はかけないさ」


「――では、私もここで寝ますね?」


「……え?」

「迷惑は掛けません。風邪を引いてしまっても一人で治しますから、気にしないでくださいね」




 ―――そんなの、許せるわけがないだろう!




「何を言っているんだ! 冷たい空気は肌に毒なんだぞ!」

「お父様が言うのですか?」

「私は男だ、別なんだ!」

「時代遅れですね」

「―――なッ!?」

「今の時代、男も女も関係はないのです。必要なのは差別ではなく区別であり、生活は自由であるべきなのですよ?」

「…………む……ぅ」

「恋愛だって、親子や男女や親子や兄弟、親子なども関係なく。自由であるべきなのです」



 ……くッ……何という理論攻め……ん?



 いや……ちょっと待てよ?


 何かおかしかったような?



「―――さぁ、お父様。起きてください」

「……いや、ちょっと……考え――」

「今すぐです!」


「はい、すみません」



 反抗期などは関係ない。


 結局の所、この私は。


 娘には勝てないのだ。


 ……あの日を境にして、マナカは。

 一度として私に対して辛く当たる事は無くなり、むしろ無理をしたときは叱ってくれるような…本当に孝行な娘になった。


 何故かは、分からない。


 だが、悪い事はないと。



 薬なしで生きられるように――私は、本を克服したのだ。



 見たか、本田なにがし。

 お前の出番も二度とないわ。



「今日の夜ご飯も私が用意しますから、お父様は休んでてくださいな」

「……済まない」

「すぐですからねー?」

「あぁ。――確か、隣の森永さんからお裾分けを貰っていたな」



 丁度マナカが反抗期の頃。


 隣に引っ越してきた親子。


 彼女も、バツイチ子持ちで。

 色々と、大変らしいからな。

 初めは私の方から差し入れたりお裾分けをしたりしていたものだが、最近はすっかりと頂く側に回ってしまったようで。


 娘の綾乃ちゃん(13)も。


 マナカと仲が良いようで。


 本当に、順風満帆だなぁ。


 

「……………はい、そちらのお料理も温めますね」

「助かるよ」

「すぐですからねー」



 ………だが、今回は納期が。


 今日は根を詰め過ぎたかな。


 すぐにとは言ってくれたが。

 まだ、出来るには時間が…かか……あぁ。


 ……室内。


 ……暖か。


 今日は、やはり降る―――か。



 ……………。



 ……………。



「お父様、ご飯が出来ま――あら?」

「…………ん」

「ふふ…やはり、とても疲れていらしたのですね」

「…ん…んん」

「じゃあ――綾乃ちゃんのお家の煮物……は、私が食べてしまいますね?」



 ……温風……誰かの掌?


 私の身体を撫でている?


 全く分からないが。

 そのぬくもりは全身に広がり…触れあい、更に柔らかな感触が。


 一瞬だけ現れて。


 息が苦しくなる。


 まるで、呼吸器を塞がれたようだ。

 コレで尚寝ていられる私は、どれ程疲れているというのだろうか。



「……ん? ――んッ……ん…?」

「――また、しちゃいましたね。でも、本当に。いけませんね、綾乃ちゃんも…美香さんも。とても、いけない人たちです」

「……ん…すぅ……ぅ」

「お父様は、私だけのお父様なのですよ?」

「……………」

「そして、いずれは……ふふっ」




「―――さぁ。起きてください、お父様。ご飯が出来ましたよ」




  ◇



  ◇



  ◇

 



【マナカ16歳(高校入学) 二人で歩む】




 腰まで届くような長髪にも拘わらず、枝毛は無く。

 何処までもさらりと流れる美しい金色の髪。


 蒼い瞳は昔ほどくりくりではないが。

 それでも、ぱっちりと大きく。

 高校生としては平均よりやや高めの身長に、同性の多くがが羨むほどに起伏に富む肢体。


 日本中探したとて。


 これ程美しい女学生は居ないだろうが。

 

 そんな、少女が。

 私と並んで歩き。


 腕を組んでいる様は、さながら。


 ……いけない小遣い稼ぎだろう。


 入学は二度目なので。

 流石にボロ泣きはしなかったが。

 記憶が無くなるのは変わらなかった様で、何時の間にやら式は終了していた。


 写真が撮れないという哀しみ。


 だが、娘の悲しみに比べたら。


 それは私の不手際によるモノ。

 であるから、入学祝も兼ねて、マナカが行きたい所を巡るようにしてお出かけをしている訳だが、コレが凄く楽しい。



「お父様、次は観覧車が良いです。その次は……ホラー系が良いです!」

「あぁ。順々に行こうか」

「怖かったら抱き着いて良いですか?」

「ふふ…マナカがかい?」



 この子はそういうのに恐怖を覚えぬ筈だ。


 昔から、雷や地震も全く怖がらなかった。


 ……いや?

 二人の時は、何故かいつも怖がって泣きついて来たな。

 やはり、外に居る時は取り繕っているのかもしれない。



「そういう事なら、仕方ない。パパに甘えると良い」

「はい。……では、あっちですね」



 行き先は観覧車。


 ……座るだけだ。

 あのアトラクションは、何故そうまで根強い人気があるのか。


 年頃の娘さんにしては。


 随分と刺激の少ないアトラクションを好むね、マナカは。


 毒々しい七色光だとか。

 絶叫系のロケットとか。


 中年層にはキツイから。

 私も凄く助かるのだが。

 ……思えば、さっきから楽しくお話しながらアトラクションに乗っているだけで、余り動きが無いように感じるんだよなぁ。



「マナカ。遊園地は、本当に楽しめているかい?」

「はい、とても!」

「……それならいいが」


 

 彼女の言葉に反応するかのように。


 ピコピコ激しく上下する長耳さん。


 どうやら、本当らしい。

 あと、双丘さんを押し付けないでくれ、血圧が上がる。

 


「だが、本当にこういうので良いのかな?」

「……ふふっ。何でですか?」

「いや、ほら。もっと流行しているゲーム機でも、玩具でも、それこそブランド物の衣類でも良かったんだよ?」

「――これが良いのです」

「今時の子は、そうなのかぁ。そも、今時入学祝いがあるのかな」



 遊園地は、あくまでお詫びのつもりで。

 思い出だけではなく、物として残るモノを私は送りたいと言ったのだが。


 マナカが強請ったのは。


 何と、指輪だったのだ。


 無論、高いモノじゃない。

 オーダーメイドじゃなく。

 ネットの通信販売で買えるような、手軽なペア・リングだ。



「――しかし、何故にペア? しかも私に?」



 二つと聞いたときは。


 気絶しそうになった。


 遂に殴る相手が来たかと。

 だが、彼女が片割れを渡したのは巧君だとかの同年代の学生さんではなく。

 そろそろ抜け毛を気にする頃になった私で。



「最近は、親子でこうするのが流行っているらしいですよ?」

「……ふむ。そういう物か」

「ですから、普通なのです」

「普通、かぁ。世間が一般的と認識してくれるなら、それは有り難いね」



 なんと、なんとだ。


 良い時代になった。


 マナカは流行に乗って嬉しい。

 私はお揃いの指輪で嬉しいと。

 まさに、ウィンウィンの関係で、それを気にする必要もないとは。



 本当に、良い時代―――



「――お父様」

「うん?」

「人間の法律では、女性は16歳で結婚できるんですよ……?」



 ……………。



 ……………。



「残念、もうすぐ法律が改正されて、18歳からになる」

「―――なっ……そんなッ!?」

「もっと詳しく調べるんだったね」


「む……むぅ~~~」

「おや、珍しい」

「――酷いです、ズルいです。……もっと別の答えを……無理でも、多少焦るくらいは…うぅ」



 珍しく頬を膨らませるマナカに。


 私がそれを珍しがっていると。


 彼女が小さく何か呟いていて。


 それがどういうモノなのか。

 本当に小さな声だったゆえに聞き取るには至らなかったが、表情を伺うに、言い負かされたのが余程悔しかったらしい。



 美人に成長したとはいっても。



 まだまだ、可愛い子供だなぁ。



「でも、良いです。今はいいです」

「ん、何が良いのかな?」

「だって、コレで何時でも繋がっていますからね」

「……………!」

「私とお父様は血が繋がってはいませんけど。それでも、大切な二人っきりの家族ですから。この指輪で、ずっと繋がっていますから」



「―――あぁ、その通りだね」



 私とマナカは、家族だ。



 大切な、私の一人娘(たからもの)だ。



「お父様――大好きですよ」

「………ははッ」

「お父様?」

「――私も、大好きさ。マナカ」



 血など繋がっていなくとも。

 今の生活が変わる事は無く。

 対となっている指輪を互いが大切に嵌めている限り、私たちはずっと…ずっと繋がっている。


 何ともメルヘンというか。


 ファンタジックな話だが。


 マナカらしいな、凄く。

 最近はおまじないとやらに嵌っているらしいし。

 妖精天使な彼女が…愛娘がそう言ってくれるのなら、私たちがずっと繋がっているのは、保証されたようなモノさ。



 ―――この先も……きっと。



 ―――きっと、そうだとも。



 

  ◇



  ◇



  ◇




 【マナカ(16歳) 終章?】




 娘が高校に入学してから暫く。


 彼女は、二年生になっていた。


 元々大人の女性なのに。

 更に磨きがかかった彼女は、もはや天使を通り越して女神と言うべきだが。

 家でも毎日化粧品を用いたり、ストレッチをしたりと、甲斐甲斐しく努力をしているのを知っている私としては、ある種当然のミカエル…は、天使。


 当然の見返りと言うべきだろう。


 努力は報われて然るべきである。


 それはもう、学校では大人気で。

 性別問わず告白が止まないとか。

 それはそれでパパ心配になるんだが、マナカは全く変わらず優しい子なので、何とか今現在の私は正気を保ち続けていて。


 これが、もしも。


 くろぎゃる? というのになり。

 だーくえるふ? というのになった日には、きっと私はトラックに突撃して流行りのいせかいてんいというのも辞さない。


 どういう意味かは知らないが。


 多分間違ってはいないだろう。



「――それで、ですね? 巧君が皆を先導して」

「あぁ、たっくんが?」

「異世界転生研究会という同好会を」

「………ふむ、ふむ? そういう経緯だったのかい、アレは」



 私のその手の知識は、殆どマナカ経由だが。


 どうにも面白い事をしてる。


 マナカの幼馴染……巧くん。

 そして、親友の綾乃ちゃん。

 その他仲の良い面子が集まって、独自に色々と活動しているらしい。


 ただ、心配なのは。

 巧君は随分とモテる男の子らしく。

 マナカの言った同好会も「はあれむ」なるモノと呼ばれているらしい。


 マナカも綾乃ちゃんも可愛いから。

 よく一緒に居るのは随分と周囲の顰蹙(ひんしゅく)を買っているという事で…そのまま潰れ――じゃなく。

 有志に闇討ちされ…でも無く。

 何処か他校へ転校…でも無く。


 いや…彼が心配だなぁ。


 巧君が実に心配だなぁ。



「――無事に人生…じゃなくて、高校を卒業できると良いね。私は君が絶望するのを……もとい、平穏な人生を送れるのを楽しみにしているよ、巧く……マナカ?」


「ふん~~♪ ふふ~~ん」

「………読書中か」



 会話に区切りが付き、読書タイムと。


 読む為の背もたれが欲しいのだろう。


 私の身体に背中を預け。

 本を開いているマナカ。

 余程集中しているのか、私の声は届いていないようで。


 まぁ、役得と…否、父親特権だ。


 娘と寄り添うのに理由はいらん。


 だが、困る事もあるな。

 只でさえ娘は豊満な女性の身体つきなのに、楽な姿勢を探しているのか、感触を確かめるように肩が、背中が……時々とても柔らかい感触が、くっ付いては離れていく。



「――ふふッ。まるでクッションだな、私は」

「……………」

「マナカ、聞こえてないかもしれないが、パパはクッションでは…というか、物ではないよ」



 そう、家具ではないとも。


 お父さんは置物じゃない。


 全世界のパパを代弁して叫びたいのだ。


 ……なんて、一人喋っていると。

 まるで独り言を聞いていたかのように、マナカはクスリと笑って私へ視線を向ける。 



「私は、お父様のモノ……ですよ?」

「――幸せ過ぎるね、ソレ」



 耳元で甘く囁かれ。


 脳が蕩けるが……。



 ―――危ないお店か? 私の家は。

 


 一時期は、まぁ確かに。

 狂ったように通ったが。

 余りに無意味であり、空虚であると悟ってからは縁の無いモノだったな。


 当時は脳が破壊されていて。


 傷心だったというのもある。


 マナカと出会ったことで。

 その穴は完全に塞がったし、父親として成長できたが。


 だが、未だ私は男だ。

 誘惑には反応してしまうモノだし、そんな媚びるような声を聴いては気持ちが落ち着かない。



 だから、話を逸らす。



「そういえば、同好会。いせかいというのは最近よく聞くが、そういうのが流行りなのかな?」

「はい、男の子たちの間で……ぁ」

「どうかした?」

「――実は、女子生徒の間では、父親とキスできるか……というのも流行っているのですよ?」



 ―――何と。



 何と危ない遊びなんだ。


 そんな事まで今時の…。


 ……ふふッ。

 上に、下にフルフルと。

 ピコピコ、ピクピクと。


 嬉しい時と違い。

 ゆっくり震える。

 可愛らしく揺れる娘の耳は、無意識のモノ……嘘をついているときのモノで。



「――それは流石に嘘だと、私でも分かるとも」

「……………」

「そんな過激な遊びがある筈ないだろうに」

「むむぅ。――何故分かったのですか?」

「分かるさ。私はマナカのお父さんだからね。全く、いけない子だ。お父さんに嘘を吐くのは構わないが、いけない嘘があるだろう」



 いけない事はいけない事。


 それを教えるのが父親だ。

 

 私は顔を顰めて言い聞かせ。

 娘のおでこを優しくコツンと人差し指で押す。



「――あぅ……ふふっ」



 だが、効いているのやら。


 別のお仕置きが必要かな。


 ……お尻ペンペン?

 いや、流石に年頃の少女にやるようなものでなし、私も嫌なしこりが残るだろう。



 ―――と、その時。



 ピンポンチャララ。


 特徴的な音が響く。


 それは、インターホンだ。


 ある意味では、区切りとして良し。

 マナカはソファーから立ち上がり。

 台所の前にある応対機へと向かい、それを覗き込んでいる。



「――あら? はい、どちら様でしょうか?」


 

 ……まるで若奥様。


 泣けるじゃないか。


 だが、様子が変だ。

 彼女は疑問符を頭に浮かべ、首を傾げていて。



「ヘンですね。玄関の映像には誰も映っていないです」

「……まさか、悪戯かな?」



 マナカが此方へ戻ってきて。


 再びソファーに座り直すと。


 ピンポンチャララ。


 ピンポンチャララ。


 また、鳴り始める呼び鈴。

 悪戯にしては随分とおかしなもので、まるで此方の動きが見えているような感じだ。



 ―――ピンポンチャララ。



「あぁ、はーい! ――ちょっと、玄関で応対してきますので――お父様?」

「……いや、私が行ってみるよ」


 

 流石に、悪戯が過ぎるというモノ。


 余りに巧妙だから。


 少し恐怖を覚えて。


 しかし、娘を狙う輩ならば。

 それこそ危ないので、私は立ち上がり、マナカを制して玄関へと歩いていく。



「はい、はい。今出ますよ」



 一応、ロックバーを付け。


 寒空の下へと顔を晒して。


 確認してみるが。

 

 本当に、誰も――……!

 否…否。脳が追い付いていないが、突然目の前にその姿が現れる。


 まるで、透明人間のように。


 外套を脱ぎ捨てたように。


 現れたのは、マナカと同じ年の頃の少女。

 髪は黒色で、瞳も同色。

 しかし、何処か娘に似たような…不思議な雰囲気があり。



 何より、その面影は。



「んん~~っと! あぁ、面倒だった」

「―――――」

「驚いた? 驚いたでしょ。腰抜かさないだけ度胸座ってるわね。……で――」



「―――あんたが、そうなの?」

「……………君は」

「アンタが、私を捨てたっていうクソ親?」

「……………ッ!」



 可憐と評せる少女。



 学生程の少女には。


 

 彼女には、初恋だった女の面影があって。

 あり得ざることながら、間違いないと。

 私の中で、少女が誰であるのか…その結論は、完全に固まってしまった。




「合ってるみたいね。探す手間が省けて良かった」




「―――勇者マリアナ様。魔王を倒して、異世界から記憶もない故郷に帰還(旅行)――ってね!」










               ――END?――

 ちょっとした西洋伝承の物語。


 短編は初めてという事で落し所が……。

 短くまとめるのって難しいですね。

 結局、上手くまとめられてるとは口が裂けても言えません。


 ここだけの話、当初は投稿も短編予定でした。

 ですが、まぁ……見ての通りの結末で。

 本来ならちゃんと二人の世界を築き上げる予定が、色々追加しているうちに。

 コレで、もしも続きを執筆する事になると、所謂「短編詐欺」になり、短編作家の方々に迷惑ということで、こういうカタチになった次第です。


 ともあれ、今は脳容量的にコレが限界。


 親子二人の物語としては完全完結です。


 この物語を気に入って頂けましたら高評価、感想を頂けると大喜びです。

 ブクマして頂ければ或いはあるやもしれない続きが分かりやすいかも………?

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