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パラパラと捲っていた本をパタンと閉じる。
何度も何度も読み返した歴史書の複製本だ。
本から視線を外し、光を辿るように窓へと目を向ける。
それは高い位置にあり、鉄格子まで嵌められている。
ここは遥か昔に建てられた罪を犯した貴人を収容する尖塔。忘れ去られた過去の遺産である。
3人目の赤い目を持つ者として生まれた私は、ここに閉じ込められている。
2人目の死後、赤い目の者は、大罪を背負って生まれた魂の穢れた悪魔の生まれ変わりだなんだと恐れられながらも蔑まれ、罪の子と呼ばれるようになった。
一体何の罪があると言うのだろう。
そうして腫れ物のような扱いを経て、ここへと閉じ込められ、おそらく今は存在しない者とされていることだろう。
***
生まれてすぐに殺してくれればよかったのにって。
こんなの生きてる意味ないって思っている時期があった。
もしかしたらそれは贅沢なことなのかもしれない。
一切働くことなく、住むところや食事、服などの必要なものは全て与えられている。
塔の中は、最低限ではあるが定期的に清掃がされるので決して汚くはないし、食事だって豪勢では無いが質素でも無い。服もシンプルなものだが毎日清潔なものを着ることができている。
きっとそれはとても恵まれた環境だ。
だけど、塔の外に出ることは許されず、家族に一目会うことも、まして他者と何気ない会話をすることも叶わない。
ここでの生活は、当たり前に享受でき得るであろうことができないのだ。
きっとこの生活が、1週間とか1ヶ月とか、そんな風に期間が定められたものであったならば、とても素晴らしく感じたのかもしれない。
けれど私の場合はそうではないのだ。
死ぬまでずっとこの生活を送ることになるのだから。
そんな生に何の意味があるのか。
これではただ息をしていると言うだけで、死んでいるのとさほど変わりがないのではないか。
何度もそんな考えに苛まれた。
明日への希望が見出せず、何度も絶望の淵に立った。
何度も暗転しそうになる思考の中、だけどまだ諦めたくなかった。
だって私は生きてるのだから。
そうやってずっと抗ってきた。
深淵に沈みそうになっては浮上し、だけど結局何も見出せずに落ちていく。
何度も何度も繰り返した。
きっと諦めた方が楽だ。そう思うのに、それでも未だに諦めきれずにいるのだ。
そんな考えに浸れるくらいには、ここでの生活は暇を極める。
しなければならないことは何一つなく、することやしたいこともほとんどない。
唯一の娯楽は本を読むことだった。
だけど、本を読むこともできない人間であったならば、思考の海に投げ出され、悪い考えに絡めとられることもなかったことだろう。
そうだとしても、私が思考力を得たことを恨むことはない。
こういうところは、智を愛するシグリス人たり得るところなのかもしれない。
そう思うと誇らしくすらあった。
そもそもなぜ私が本を読めるのか。
それは私という人間が、罪の子という存在が、どういうものであるのかを知らしめるためであった。
そのためだけに文字を読むことを教えられた。
文字を読むことができるようになると王家の歴史ーーとりわけ罪の子に関する本の複製を与えられた。
それから数年の間、私はそれを何度も読んだ。
それしかすることがなかったから。
そうしてそれを全て誦じられるまでになった。
そうなって初めて、他の本を与えて欲しいと願い出た。
あわよくば、くらいの気持ちだった。
全く期待はしていなかった。
期待してそれが叶わなかった時が怖かったからだ。
しかし、意外にもその願いはあっさりと許可された。
さすが智を愛するシグリス人ということなのだろうか。
智を愛するシグリス人らしく、王宮には数多の蔵書があるのだという。
私がこの塔を出ることは許されていないので、直接行くことは叶わないが……。
何を与え、何を与えないのか。
情報を統制できるからこそ、許可が下りたのかもしれない。
それからというもの、私はすっかり本の虫となった。




