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忌避されし罪の子は幸せを望む  作者: 桜音


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しばらく暗いです。




(生まれてすぐに殺してくれればよかったのにーー)




***




とある大陸に1つの国が興った。

その国は大陸の中央から東西へと領土を拡大していき、やがて巨大な帝国となった。

帝国の名はマーラ。

しかし時代の移り変わりとともに、帝国の両サイド、西にルプティア王国、東にゲルンマニア王国と新興国も勢力を増してきた。

マーラ帝国はあまりにも大きくなりすぎていた。

帝国は絶対王政。たった一人の王が広大な帝国を治めるには限界だった。

広大すぎる領土を守ることが難しくなった帝国は、新興国の侵攻を防ぐため、巨大な領土を分割して統治することにした。

そうしてギリギリのところで均衡は保たれていた。


マーラ帝国の南側には小さな島国があった。

島国の名はシグリス王国。

帝国とシグリス王国は陸続きではないものの、かなり近い距離にある。

それにも関わらず、シグリス王国が侵略されなかったのは、陸続きでないことに加え、あまりにも小さな国であったというのも大きな要因ではあるが、その実シグリス王国は智を愛する国で知略に長けていたために、帝国からの侵略をのらりくらりとかわしていたのである。


シグリス王国は未だ侵略を免れてはいるものの、近隣には大国がひしめき合っており、非常に不安定な立場にあった。

そんな不安や焦りがシグリス王国を覆っていた。

とりわけシグリス王は強く焦燥に駆られていた。

時のシグリス王は聡明であった。

国をそして民を愛しており、また民にも愛されていた。

そんな王であったからこそ、強く思っていた。


もっと国を安定させたい!

民の不安を取り除きた!

何者にも犯されない国に……!

もっと!もっと!国の繁栄を!!


得てして強い思いというのは有らぬものを呼び寄せるという。


「よお!」


自分一人しかいないはずの空間で、突如として声をかけられたシグリス王は、驚きのあまり飛び上がる勢いで声がした方へ振り向く。

そこには黒髪に赤い目をした息を飲むほどに美しい男が居た。


「誰だっ!」


その背中には立派な黒い翼が生えており、人間ではないことは明らかである。


「あ?お前が俺を呼んだんだろ?」


男は気怠げな様子で、その態度は実に不遜。

シグリス王は身に覚えのないことを宣う男に、訝しく思うよりも、強い警戒感に身がすくんだ。


突如として現れた明らかに人ならざるものに、シグリス王の内心は酷く混乱していた。

しかし為政者としてのこれまでの経験から、弱みを見せまいと、意識してようやく力強く誰何する。


「何者だ!」

「俺は悪魔だ。お前の願いを、叶えてやろう」

「悪魔だと?」


俄には信じられない話だった。

そんなものは空想上の存在だと、シグリス王はこれまで疑ってもこなかった。

だが、そうだと信じざるを得ない程に、目の前のモノからは禍々しさが感じられた。


「ほお。なるほどな。マーラ帝国を滅ぼせばいいのか」


ニタり、と悪魔の綺麗な顔が下品に歪む。

その表情にシグリス王は寒気を感じた。


「何を⁉︎」


募る危機感に、シグリス王の身体は硬直していたが、口だけは反射的に動いていた。


「違うとでも言うのか?本当に?そんなことは一切考えたこともないと?」


悪魔のこちらを見透かすかのようにギラリと光る赤い目。

この目は危険だ。

そうシグリス王は本能的に悟った。


しかし危険だと感じているのに、まるで縫い止められたかのように、シグリス王はその目から視線をそらすことができない。


「っ、そうだ」


シグリス王は心の奥底を覗き見されたかのような居心地の悪さを覚え、僅かに返答に詰まる。


「そうか。では、お前はこの国が滅ぼされてもいいのだな?攻め込まれ民が殺されてもいいのだな?シグリスの民がどれほど苦しもうとも関係ないのだな?」 


脳裏にその光景が鮮明に映し出され、心が揺すられる。

 

悪魔の声はしっとりと艶やかで、嫌に耳に心地よく、シグリス王はその声がスッと心に染み渡っていくのを感じた。


「そ、れは」


じわり、とシグリス王の内に黒いインクが滲む。


「マーラ帝国さえ滅びれば、この国は安定するのではないか?民の不安も取り除けるのではないか?」

「マーラ帝国が滅びれば……」


シグリス王は頭に霞がかかったかのように、うまく物事が考えられなくなっていた。


「そうだ。お前は民の幸せを、国の繁栄を望まないのか?簡単な話だろう。お前がマーラ帝国の滅亡を望みさえすれば、万事上手くいくのだぞ?」

「私が、望みさえすれば」

「お前は望むのであろうな?」


そんな中でも、シグリス王にはハッキリとこれだけはわかっていた。

悪魔の言うことは正しい、と。


「私は、のぞむ……」

「ふっ、しかと聞き入れよう」


悪魔の口角が上がり、きれいに微笑んだ。

シグリス王は悪魔の美しさに魅入っていた。


ドーンという轟音とともに地が揺れる。


シグリス王の霞がかった頭は、その衝撃で一気にクリアになり、朦朧といていた意識が鮮明になる。

気づくと目の前の悪魔はいなくなっていた。

我に帰ったシグリス王は慌てて外を見ると、少し離れた地が炎に包まれていた。

対岸の火は轟々と燃え盛っており、こちらにまでその熱さが感じられた。


「っそんな。まさか、ありえないーー」


シグリス王には現実かどうか判断がつかなかった。

目の前の出来事が受け入れられず、何がどうなっているのかわからなかった。


「願いはしかと叶えたぞ。20年後にお前の魂をいただきに来る。それまでお前は死ねぬ。苦しみながら生きるがいい」


茫然と呟くシグリス王のすぐ側に来ていた悪魔は、言うだけ言うと酷薄な笑みを残し忽然と消え失せた。


マーラ帝国を覆う炎は一晩中燃え続けた。

そうして朝にはマーラ帝国は焦土と化したのである。

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