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正体

「ねぇ、耳フェチ」

「耳フェチ言うな」


いつもの様に4人で弁当を食べていると光が不名誉なあだ名で僕のことを呼んだ。


「あんた彼女いるの?」

「…今はいない」


こいつ絶対知っているのに聞いたな。しかも、全く興味が無さそうなのに何故そんなことを聞くのだろう。


「今はってことは前はいたの?」


光とは対照的に興味津々で聞いてくる潮の言葉が重くのし掛かる。


残念ながら生まれてから16年間、彼女がいたことは無い。


無言を貫く僕を見ながら光と岳が呆れてため息をついている。


「凹むなら最初から見栄はるなよ」


「うるさい。彼女持ち」


「羨ましいだろ」


こういう時の岳と光のどや顔は本当に腹が立つ。心なしか潮も笑っている様に見える。


「あんたたまに告白されているんだし、誰かと付き合って見れば良いじゃん」


「え、月見君って告白されたことあるの?」


先程までは穏やかに笑っていたのに、長い前髪の下から僅かに見える切れ長の目は全く笑っていない。

それほどまでに僕が告白されていることに驚いたということか。


「うん、朔はモテるよ。男にね」


光の言う通り僕はわりと頻繁に告白される。男にな。


百歩譲って女の子だと勘違いされ、一目惚れしたと言われて告白されるのはわかるが僕のことを男だと知っている奴が告白してくるのは本当に辞めてほしい。あいにく僕にそういう趣味は無い。


「告白されている所を見たことあるけど普通に違和感無かったぞ」


岳、追い討ちをかけるのはやめてくれ。たしかに端から見ればそうかもしれないが女っぽいこの顔がコンプレックスなんだからそれ以上言わないでほしい。


「朔、あんた見た目はともかく男なんだから自分から誰かに告白すればいいじゃん。あんた意外と女子からの評判悪くないんだし適当に告白すれば付き合えるかもよ?」


「え?そうなの?」


光からの嬉しすぎる情報に思わず舞い上がってしまった。

だが、そこそこモテるというなら何故今まで女子から告白されたことが無いんだ? 


「光ちゃん、余計なことは言わなくていいよ?」

「ご、ごめん沙羅」


何を言ったかは聞こえなかったが冷気を感じるような低い声が潮の方から聞こえてきた。


「え、今の声って潮?」


「何のこと?気のせいだよ。だよね、光ちゃん」


青ざめている光に圧をかけるように潮は笑顔で光の方を向く。


「う、うん。沙羅は何も喋ってなかったよ」


「え、でも今なんか聞こえたよね?」


横の席に座っている岳に同意を求めようとすると岳も何故か青ざめている。


「気のせいだろ。朔、疲れてんじゃね?」


「そうかな、まあいっか」


何か触れてはいけ無さそうだし、気にしないことにしよう。



「うん、そうだよ。月見君はどんな子が好きなの?」


潮が露骨に話を変えてきた気がするが気のせいに違いない。


「うーん、あんまり考えたこと無かったかも。優しくて気が合う人がいいかな」


「面白くない。じゃあ顔は何系が好きなの?可愛い系とか綺麗系とか」


元気を取り戻した光がまた訳のわからないことを聞いてくる。


身近な人で言うと可愛い系は姉さんのような人で綺麗系はバイト先の潮ちゃんの様な人かな。


「うーん、どちらかと言うと綺麗系かな」


「へぇ、意外だな」

「たしかに、意外ね。綺麗系の人って結構化粧濃い人多いけどいいの?」


「別に気にならないかな」


「じゃあピアスとかは?」


「別に良いんじゃない?」


あれ?今反射的に答えたけどどさくさに紛れて光からピアスのことを聞かれた?


昨日のアルバイトの時に潮ちゃんにアドバイスした通り、潮の友達からのピアスの話。

つまり潮ちゃんと目の前の潮が同一人物ということだ。


言われて見ればこの4人で恋バナをするのは不自然なことだった。光はピアスのことを僕に聞くために恋バナをし始めたのか。


いや、もしかしたらたまたまピアスの話題が出たのかも知れない。

だが、目の前の潮が長い髪の毛を手でクルクルさせながそわそわしているのでまず間違いないだろう。


そうなると潮の好きな人は僕ということか。


「へぇ、月見君は、ピアスとか平気なんだね」


「う、うん」


まずい。急に目の前の女性に好意を寄せられていると分かった瞬間に、緊張してきた。


キーン、コーン、カーンコン。


「やべ、チャイムなっちまったな。戻ろうぜ」


緊張する僕にとっては救いの鐘の音がなり、岳と光と潮は自分の席に戻っていった。




昼に潮たちと話してからは特に話すこともなく放課後になり、僕はその足でアルバイトへ向かった。


潮の好きな人が僕だとわかってからはどうやって話していいかわからなかったので顔を合わせずに帰ることができたのは都合がよかったのかもしれない。





「朔ちゃん、今日もバイト頑張ろうね」

「う、うん」




事務室で着替えが終わり、安心しきっていた僕は忘れていた。

ここにも潮がいるということを。

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