表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/30

勘違い

「潮、ちょっと耳を見せてくれない?」


その一言で教室中の空気が凍った。


「「キモっ」」


岳と光がハモりながら僕を馬鹿にする。確かに何の脈絡も無くいきなり耳が見たいは気持ち悪かったかもしれない。


「いや、そういう意味で言ったんじゃない」


「じゃあなんだよ」


何でもいいから誤魔化さなければただの気持ち悪いやつになる。


「ただ単に潮の耳の形を確かめたいんだ」

 

苦し紛れに出た言葉は想像以上に気持ち悪いものだった。


「死ねば?」「死ねよ」


光と岳はやはり付き合っているだけのことはあるな。当たり前のようにハモりながら僕を殺そうとしてくる。


「潮、そういうのじゃなくてね」


「うん、わかってるよ。そういう趣味の人もいるよね。私は良いと思うよ……」


やや顔をひきつらせながら、潮がフォローしてくれた。たが、潮の優しさが今の僕にはとてつもなく痛い。


「いや、もういっそのことキモいって言って」


「「キモい」」

「いや、お前らじゃなくて潮に言ってるんだけど」


「うーん、ちょっと気持ち悪いかな」


「死のうかな」


岳と光には何を言われても全く気にならないが潮に言われると想像以上にきつい。一瞬で涙が目に溜まったのがわかった。


「ごめん、ごめん冗談だから」


「お前結局何が言いたかったんだよ」


「いや、もういいです」


今のメンタルではもう確かめるのは無理だ。潮と潮ちゃんが同一人物なのかは、また今度確認しよう。


「沙羅、こいつになんかされたら私に言ってね。躊躇なくぼこぼこにするから」


「だ、大丈夫だよ、月見君はそんな事しないよ。多分…」


教室で話していたこともあり、それから数日間、僕は耳フェチだという噂がクラス中で流れることになった。



初めてバイトしてから一週間が経ち、再び潮さんとシフトが被った。


現在の時間は16時。飲食店ということもあり、中途半端な時間には全然お客さんが入らないことも多いようだ。


やることがない時は、潮ちゃんと話すことが多い。


「朔夜ちゃん、ちょっと相談したいことがあるんだけど?」


「どうしたの?」


潮ちゃんは初めて会った時は派手な見た目で恐い人だと思っていたが、実際に話しをしてみると気さくで優しい。


そこため、接客も丁寧で常連のお客さんからはかなり評判が良いと姉さんが言っていた。


「朔夜ちゃんって好きな人いる?」


「いないけど急にどうしたの?」


「いや、実は…私好きな人がいて」


まさかの恋バナ。女の子と一度も付き合ったことが無い僕には荷が重すぎる。潮ちゃんの力にはなりたいが、明らかに相談相手を間違えている。


「どんな人?」


「うーん、可愛くて耳フェチかな」


「潮ちゃん、趣味悪くない?」


普通は可愛いやつよりも格好いいやつの方が人気だと思う。いや、それよりも潮ちゃんは耳フェチの人が好きなのか。


「ち、違うの。耳フェチっていうのはこないだ初めて知って…変態が好きなんじゃなくて好きな人がたまたま変態だったの」


もし潮ちゃんが潮だった場合、耳フェチの可愛い男って僕のことなんじゃないか?

自分で言うのも嫌だが格好いいとは言われないが可愛いとはよく言われるし、潮には耳フェチだと思われているはずだ。


だが、まだ潮と潮ちゃんは別人で単に潮ちゃんが耳フェチの人を好きだという可能性もある。


うぬぼれで潮に好かれていると思って実際のところは違っていたら立ち直れなくなる。


「そうなんだ、なんでその人が耳フェチだってわかったの?」


「突然耳を見せてくれって言われて」


やっぱり潮ちゃんは潮で、僕のことが好きなんじゃないのか。そんな気持ちの悪いことを僕以外のやつが女性に言うとは考えられない。


「私の耳ってどうかな?」


顔を傾けてピアスだらけの耳を見せてくる。耳よりもその仕草にドキッとしてしまった。


どうかなと言われても僕は耳フェチじゃないしよくわからない。耳の形は整っているように見えるけどそれよりもピアスの方に目がいく。


「うーん、どうなんだろ。形は綺麗だと思うけど、ピアスの穴をどう思うか不安ってことだよね?」


「うん」


「思いきって本人に見せて聞いてみるのは?」


「それができたら苦労してないよ。普段は髪で隠しているから急に見せたらびっくりしそう。まさか私がこんなにピアスしてるとは思わないだろうし」


今時、高校生がピアスを付けるなんて珍しくもない。ピアスが嫌いな男もいるかもしれないがどちらかというと気にしていない人が多いだろう。


だが潮ちゃんの場合は話が違う。1、2個なら問題は無さそうだが両耳合わせて10個以上穴が開いているのはかなり驚くだろう。

耳たぶだけではなく耳の上の方にも付いているので苦手な人は多そうだ。


ましてや、もし潮と同一人物だとしたら普段が穏やかで地味なので余計にギャップを感じてしまうかもしれない。


「共通の友達に頼んでそれとなく聞いてもらうのはどう?」


「それいいかも。ありがとう朔夜ちゃん」


結構最初に思いつきそうな案だったが潮ちゃんは全然考えついていなかったらしい。

とりあえず、潮ちゃんの力になれて良かった。しかも、潮だった場合の共通の友達というのは岳か光しかいないだろう。全然狙っていなかったが、これで同一人物かどうか確かめることができる。


潮ちゃんも、解決策がみつかって喜んでいるし、耳フェチだという汚名を被った甲斐があったかもしれない。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ