表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
同舟のラメンデ  作者: あぼしん
9/90

【1-9】聖鐘歴2020年4月13日 ライド

「じゃあ、遠慮なく頂きます」

「あぁ、あんたには孫が世話になったからね。たんとお食べ」


森から一緒に帰って来たカイさんはどうやらこの村に1日滞在するらしいので、それなら、とウチに泊まってもらう事にした。


あれから随分話し込んじゃったから村についたのは夕方だった。いつも昼前には1回帰って来るから心配したばーちゃんがまた騒ぎ出すんじゃないかってビビってたけど、ああお帰り、もうすぐ夜ご飯出来るよ、と拍子抜けしそうなくらい穏やかだったのを不思議に思ったが、話を聞いて納得した。


カイさんは森に来る前にばーちゃんに挨拶し、俺の居場所を聞いた際に、帰るのは遅くなるかもしれないが自分がちゃんと連れ帰るから安心していい、と予め伝えてくれていたらしい。こういう細かい気遣いが実力のある冒険者たる所以かもしれないな。


「何だよばーちゃん、今日すげー豪華じゃん」


「そりゃそうさ、あんたの命の恩人泊まらせるのに、貧相なもん出したらメルメネス様に怒られちまうよ」


「メルメネス様って…何だっけ、何の神だったっけ?」

「清廉と慈愛の神だ。この村でもシルゼリア教を?」


「あぁそうさ、村人全員ね。こんな小さな田舎村だから教会は無いけど、村長の家の裏庭にメルメネス様の銅像があるからそこで祈ってるよ」


「成程。前回村を歩いた時はそれらしき物が見えなかったので、宗教とは無縁かと思っていました」


「俺は祈った事ないけどなー」

「不敬な子だよ、まったく。ほら、冷めない内に食べな」


今日の献立は豪華だ。

めったに来ないお客さんに大盤振る舞いだな。


ふんわりパニスと温野菜のレーチェは鉄板として、ポドモ肉と野菜の香草炒め、モーラの塩蒸し焼き、シスリの酢漬けという完璧な采配だ。


少し癖のあるポドモの肉を香草と一緒に炒める事で、臭みだけ抜いてうま味だけ残し美味しく頂ける。また、近くの沢で釣れる一番大きい魚の中でダントツに美味いのがこのモーラだ。


モーラは他の魚よりも脂が多く乗っていて、手鍋で素焼きするとと脂が流れ出て食べる頃にはパサパサとした食感になってしまうが、こうやって予め表面に塩を塗り込んで蒸し焼きにする事で、その油を体内に押し留めたまま美味しく食べる事が出来る。口に入れた瞬間じゅわっと噴き出て来る脂は絶品で、弾力のある身とよく絡まってくれる。


シスリは逆に一番小さい魚だ。身はほとんど付いていないけど、酢に漬けると背骨がいい感じに柔らかくなりそのままポリポリと行ける。全部ばーちゃんの受け売りだけどな。


「驚いたな。全部美味いが、特にこのパニスはヤバい。お婆さん、どうやったらこんな芳醇に仕上がるんですか?」


「発酵させる時に砂糖を少し混ぜるのさ。それからあまりこねすぎない事。この2つが大事さね。ただ、ここで採れる麦の性質に合わせた製法だから他所じゃどうなるかわからないねぇ」


それを聞いたカイさんはもちゃもちゃと租借しながらブツブツと呟いている。

アイツに紹介するか、とか言ってるけど誰の事だろう。


「うん、シスリも美味い。酢漬けにすると風味が増すんだな」


「この村では一般的な食べ方さ。酒にも合うよ?どうだい、ほら一杯」


「頂きます。…ふう、1日が終わったって感じがするな」


「この子とまた会える1日を作ってくれたのもあんただよ。本当にありがとうね」


「いえ、仕事の一環ですから。過剰なお気遣いは無様に」


「…カイさんって敬語使えたんすね」

「当たり前だろ。職業柄身分の高い人間と仕事する事が多いからな。ナメた口利いてたら、不敬だ!とか言って切り付けて来る奴も居るんだぜ?」


「うへ~~怖ぇ~貴族怖ぇ~」

「全くこの子は。カイさんから話を聞いた時は心臓が止まるかと思ったよ」

「だからごめんって。もう一人で勝手したりしねぇから」

「フッ、どうだかな?今度は同い年の可愛い子が舞い込んでくるかもしれねーぜ?」

「あーっカイさんまでそんな事言う!こーなったらヤケ食いだ!待ってろよモーラ!」

「ほんとにもう…フフフ」



その後もカイさんに冒険の話を聞いたり、ばーちゃんに俺の恥ずかしい話を暴露されたり、腹いっぱいになるまで楽しい話は続いて、あっという間に夜が更けていった。


・・・


「寝たかい?」

「ええ、今日は色んな事が有りましたから爆睡です。あいつ寝相最悪ですね」

「困ったもんだよ。あんなんじゃ嫁は見つからないねぇ」

「そうでも無いと思いますよ。世の中には特殊な女性も多いですから」

「フフッ、誰か良いのがいたら紹介してあげておくれよ」

「考えておきます」


コト、と杯が男の手から食卓に置かれる。

ほとんど残っていないのか、老女が淹れたばかりなのに湯気は顔を出さない。


「お婆さん、折り入って話があります」


「……………少し待っとくれ。ベラ茶のおかわりを持って来るよ」



エンプシー・リギウスのよいこのための

わくわく魔獣図鑑


              出版:生命生体研究所

              共著:冒険者協会


9、ソルテス

  くうちゅうをとぶなぞのはんとうめいな

  まじゅうだ。ひらべったいからだは10セルメル

  くらいだといわれてるけどおおきいのもいるらし

  いよ。ときどきおめめをひらいたらみえるからそ

  んなきみはこううんだ。おめめがそらをとんでた

  らソルテスだっておぼえてね。


  だい20しゅしていまじゅうだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ