【3-8】聖鐘歴2020年7月1日 ライド
しっかりと睡眠を取った俺達は、朝焼けが世界を照らし始める頃、行動を開始した。パルベスが丸1日糸で弱らせる事を期待するなら、今日の昼過ぎまで息子さんはまだ生きている筈だ。
昨日辿っていた血痕は表面が既に固まっていたものの、十分確認できる程残っていてくれたので捜索を再開した。幸いにも崖から転落しそうな所を通る事は無かったが、予想していた通り住処としている場所は標高を上げていた。岩陰や山肌から突如現れた魔獣との連戦が続き、2人共何とか深手を負わずに道を切り開いていけたのは、俺達に共通意識が芽生えたからに他ならない。
俺の基本的な立ち回りは防御。
特に魔獣の数が多く、囲まれるような状況に陥った時、俺はリフィリエを守る事に専念し、リフィリエは魔獣のどれか1匹を撃破してそこから包囲網を脱出、壁に背を向ける様な状況を作る事が出来ればそこからは俺も攻撃に参加する。
そしてリフィリエは攻撃に専念。
その高い攻撃力を活かし、とにかく目の前の魔獣を屠る事に集中してもらった。
これは俺が昨日リフィリエに提案した戦術だ。ロクに意思疎通を図って来なかった俺達に高度な移動変隊形など出来る筈が無いので、各々の役割を明確にする事で戦闘を円滑に進める方が良いと話すと、思いのほか素直に飲み込んでくれた。
協力するのは良いがどうやって協力すればいいか分からないと言うあたり、あまり団体行動して来なかったんだろう。それって騎士団員としてどうなんだと思ってしまったが、少し腹を割って話した甲斐はあったというものだ。
外に飛び出そうな焦りを懸命に抑え、慎重に周囲を索敵しつつ、岩と岩、山と山の間を潜り抜け、太陽が下がり始める頃、ついに辿り着いた。
そこは周囲を山肌に包まれた大きな空間を持つ広場になっていた。所々の切れ目から陽が差していなければ洞窟と言っても差し支えの無い空間だ。
その一番奥の見上げる程巨大な岩壁には、パルベスが吐き出したであろう糸が叩きつけた様に一面に貼りついており、至る所に糸を重ねて出来た塊が散見されたが、その無数の塊の中の地面に近い所にあった1つに捕らわれた人間らしきものが見えた。
寝ているのか、気絶しているのか、力なく首を下に向けているが、五体満足ではある様なので少なくとも捕食される前である事がわかった。
「リフィリエ!」
「ええ!」
2人でその場へ向かい、安否を確認する。
「男の子ね。聞いていた通りの容姿をしているわ。息は………ある。寝ているだけみたい」
「良かったな!取りあえずは一安心だ。早く解放してあげよう」
思わず安堵の吐息が漏れた。
リフィリエが剣で糸を切り裂いて行く。この塊のどれかにルグルさんも捕らわれているのだろう。だが民間人の救出が最優先だ。場合によってはこの子だけでも先に下山させる事を考えていたその時だった。
「ッ!ライドッ!上ッ!」
驚いて上を見上げると、この事態の犯人がその有り余る巨体で俺達を圧し潰そうと落下してきていた。俺はリフィリエを庇う様に目の前に立ち、両手を十字に構え、瞬時にパラドクスを発動させる。リフィリエの全身を覆う程度の布状に展開し、衝突時には緩衝材の様に弾力を持たせ、何とかパルベスを大きく弾く事に成功した。リフィリエからは俺が籠手で弾いた様に見える筈だ。
「コイツ…狙ってやがったのか?」
「おそらくそうね。戦うわよ」
リフィリエが抜剣し、戦闘状態に入る。
「リフィリエ、昨日言った通りだ。もう1匹が必ず近くに居る。その事を頭に入れて、まずはコイツを倒そう」
「ええ」
短い会話をした後、俺はリフィリエの前に立ち、両手を構える。この個体はどうやら昨日リフィリエが手傷を負わせた方らしい。右の顔に大きな刺し傷がある。
パルベスと戦う時に一番気を付けないといけない事は何といってもやはり糸だ。粘着性が高いから、一度体のどこかに付けられると全てが後手に回ってしまう。
だが俺が居る限りはそんな事態は防いで見せる。
しばらく睨み合いが続いたが、やはり得意な戦法を繰り広げて来た。俺に向かって口から勢い良く糸を放ってきたが、布状に展開したパラドクスで初撃を防いだ瞬間、すぐに両手に纏い、払う。そして両手から離し再び布状に展開しておく。隊形は変わらぬまま。俺の後ろでリフィリエが2本の剣を構え、虎視眈々と攻撃の機会を伺っている。
俺に糸が通じない事を訝しんだのか、パルベスは徐々に後退していく。だがその誘いには乗らない。岩壁を背にしている俺達がその隙間を開ければ開ける程、後から現れたもう一匹から挟み撃ちを喰らう可能性があるからだ。後退したパルベスは焦れた様にせかせかと左右に動きながら俺達の動向を観察していた。
予想外だったのはそのパルベスが糸以外で攻撃して来なかった事だ。
「ライド、作戦が上手く行っているのは分かるけど、向こうから襲って来ないのならジリ貧よ」
「分かってる。だがもう1匹が現れないと身動きが取れない。奇襲はコイツらの常套手段だ」
まずはやられない状況を作れ、とのゾディアルさんの教えは達成出来ていると思う。だがリフィリエの言う事も尤もだ。場が膠着しても俺達に利点は無い。どうするか…
「1度攻撃に転じた方がいいわ。もう1匹に挟まれる前にあいつを倒すの」
「………そうだな。危険を承知でやってみるか。俺が先行して近づくけど、後ろにピッタリと張り付いて欲しい。射程距離に入ったと思ったら一撃でやってくれ」
「分かったわ。行きましょう」
俺達は機を合わせて前後になって前方へ駆け出した。パルベスは焦った様に糸を吐き出し続けるが俺が冷静に振り払う。あっという間に懐へ入る事に成功し、後ろから俺を瞬時に追い越したリフィリエが胴体に強烈な一撃を見舞った。パルベスは苦悶の叫びを上げながら、青い血飛沫を上げ、逃げる様に後方へ跳んで行く。
くそっ、とリフィリエが小さく悔しがった。仕留められなかったか。
その時だった。
「ッ!?危ねえッッッ!!」
後ろから気配がしたので振り返ると、俺に向けて放たれた大量の糸が目の前に迫っていた。ギリギリで振り払って防いだ俺は周囲に落ちた糸を踏まない様にリフィリエに向かって跳んだ。
そして、無事に着地して前を見ると想定外の光景が待ち構えていた。
「………3匹いたのかよ」
俺の後ろには、俺の叫びを聞いてこちらを振り向いているリフィリエとその向こうには絶命寸前のパルベス。前には左右に十分な間隔を取った2匹のパルベス。右前方にいる個体は前足の一部が失われているから、昨日ルグルさんが斬った奴だろう。
「そんな………」
リフィリエが落胆した様に呟くと、そのパルベス達が驚くべき行動に出た。地面のあらゆる所に糸を吐き出したのだ。その量と速度は凄まじく、俺が打開策を考えている間、黄土色の地面が見る見るうちに白い床へと変貌していった。
「こ、これって…こいつらこんな事までするの!?」
「いや…俺も初めて知った…もしかしたら自分達の巣での戦い方なのかもな…」
俺達が動けずにいる間に、足の踏み場は俺とリフィリエの周りだけしか無くなってしまっていた。リフィリエがあれに触れてしまえば機動力を失い、全滅へと歩みを1歩進めてしまうだろう。そして後ろをチラッと確認すると、手負いのパルベスがよろよろと体勢を立て直し、同じ様に糸を散乱させている最中だった。もはや入り口の外しか糸を踏まない場所は無い。
悔しい事にまだ戦えたらしい。
「ライド!どうするの!?」
俺はしばし考えた後、もう取れる手段が無くなってしまった事を理解した。そしてリフィリエに無情な宣告をする。
「………リフィリエ、終わりだ。打つ手が無い」
「打つ手が無いって…諦めるのッ!?あの子を助けられるのは私達しか居ないって、昨日アンタが言ったことじゃないッッッ!!」
絶叫に近いリフィリエの叫びが俺の鼓膜を突き破って来る。諦める?馬鹿な事を言うな。その逆だ。
「そうじゃない。もうアレしかない。アレやるぞ」
俺にそう告げられた瞬間、リフィリエが着ていた軽鎧でガチガチッと音を立て、明らかに動揺し始めた。
「えっ!ちょっ、ちょっと!ウソ!?本当にやるの!?」
「迷ってる時間はねえ!このままだと俺達も糸でやられる!そしたらもうあの子が捕食される時間が来ちまう!早くしろ!」
「う…ううう~……あーもう!分かったわよ!やればいいんでしょ!?やれば!」
リフィリエは込み上がる羞恥を振り切るように俺へ向かって走って、跳んだ。俺はとある兵器の着工の為、両手を後ろへ出す。そしてそれは完成した。
俺はリフィリエの太腿を両手で支え、リフィリエは俺の背中に乗り、両手の剣をツノの様に高らかに掲げている事だろう。何故か上から、いっその事もう死にたい、などとすすり泣く声が聞こえて来た気がしたが気のせいだ。
「………勝ったな」
俺は勝利を確信していた。
そう、最終兵器立体駆動式リフィリエちゃんの竣工である。
エンプシー・リギウスのよいこのための
わくわく魔獣図鑑
出版:生命生体研究所
共著:冒険者協会
12、ラプセリア
いつもおこったようなかおをしたおはながたま
じゅうだ。おおきさは30セルメルくらいでほ
んとうのおはなといっしょにいるよ。とばすか
ふんをすいすぎるとたいちょうふりょうをおこ
すけどみずをあげるとまんぞくそうにかふんを
とめてくれる。つんでれというやつだ。きみの
まわりにもいるのでは?
だい19しゅしていまじゅうだ。




