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同舟のラメンデ  作者: あぼしん
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【2-9】2020年4月22日  パンタフェルラ・サルメル

かれこれ3刻程対象の居所を調査しているが、一向に見当たらない。必ず今日中に討伐しないといけないという事は無いのだが、早く倒すに越したことは無いので、落ち着いて慎重に進めていた。


遭遇するのは小型魔獣だけで、軽く蹴散らしながら探索を続けていた時だった。


前を歩くロダンが動きを止めた。

手信号も止まれ、だ。


どうやら先頭のアーラが何かを見つけたらしい。いよいよお出ましかと柄を握る右手に力が入る。気配を消し音を立てずに覗き込むと、それはお目当ての魔獣では無く、1匹のゴッフェートが小型魔獣の死骸を食べていた姿だった。アーラからどうする?と目で相談があったが、ゴッフェートも危険な魔獣である事には変わりないので、討伐する事にした。


やるぞ、と頷き準備態勢に入る。


状況はこちら側だけしか気付いていない、非会敵状態。距離は約30メル。射線は1つ。


第1陣はアーラだ。

腰に下げた小刀に慣れた手つきでお手製の毒を塗る。右手は毒塗りの小刀をいつでも放てる状態で、左手は掌程の大きさの極小魔術陣を展開している。魔術を習った者であれば誰でも扱える風の基礎魔法陣だ。誰でも扱えるというだけあって、魔法として発動すると前方向に風が出る。ただそれだけの魔術だ。


ただ、アーラがそれを応用すると全く別の使い道となる。


可能な限り小型に抑えられた左手の魔術陣は『小刀を対象の刺突させたい部分』に向かって、真っ直ぐに狙いを定めている。どうやら微調整が終わった様だ。アーラが右手から毒小刀をスッと軽く放ったと同時に左手の風魔法を発動させた。極小の魔術陣から放たれた直線状の細い風は、空中を飛ぶ小刀を包み込み、目にも止まらぬ速度まで加速し、対象の狙った部分へと吸い込まれていった。「ピギュッ」と向こうから小さく鳴き声が聞こえた瞬間、アーラが叫んだ。


「浅いッ」


私には違いが全く分からないが、深さが足りないのか、角度が悪かったのか、何にせよ仕留めきれなかったという自己評価を端的に叫んだのだ。


その号令を皮切りに、会敵状態へと移行。大剣を鞘から抜き、盾を構え、第2陣の戦闘隊形を取る。


先頭は私、中衛は変わらずロダン、後衛にアーラ。つまり私とアーラだけが交代した形となる。


これが会敵状態での基本隊形となるが、ゴッフェートと闘う場合はいつもとは少し違い、後ろの2人は常に私の陰に隠れる様に、直線的な陣形を維持したまま闘う。つまりゴッフェートからするとロダンとアーラが一切見えなくなる様な形だ。これはゴッフェートの雷撃がロダンとアーラに当たらない様にする為の隊形だ。


前方で怒りの鳴き声が響いたと思ったら素早い動きで一直線にこちらへ向かい、頭突きをしてきたゴッフェートを盾で防ぎ、そのまま真後ろに弾き飛ばす。


「ロダン準備は?」

「もうちょい」

「最初の雷撃の直後だ。アーラも」

「了解」


元いた方向に再び弾き飛ばされたゴッフェートは立ち上がるのに時間がかかっている。小刀の毒が回り始めたらしい。よし、勝利までの道筋は立った。


その瞬間、盾を持った左手に強烈な痺れが走った。ゴッフェートが体を起こす前に雷撃を放ってきたのだ。


この魔獣の1番厄介な所は、雷撃を放ってくる事自体では無く、雷撃を放ってくる時に予備動作や予兆が一切無い事だ。遭遇して気付いたら死んでいたなんて話は昔からよく聞く。


だが弱点はある。

連続で撃てないのだ。


てっきり体を立て直したあとに放ってくると思い込んでいた私は一瞬体が硬直したものの、思考までは止めなかった。柄を持つ右手に急速に魔力を込めながら号令を出す。


「行くぞ」


私達は一直線上を維持したままゴッフェートへ全力で突っ込んで行くが、相対するゴッフェートもようやく体勢を立て直し、再度頭から突っ込んでくる。


私の魔力が込められた大剣は、その刀身の全周に植え付けられた鋸刃を激しく回転させ始めた。大剣の切先の鋸が柄の中を通りまた切先へ戻って来る。その他の部分に植え付けられた全ての鋸も同様に。高速で周回する様に何度も、何度も。最低限必要な回転数まで到達したのを確認した時、ゴッフェートは私の盾にもうすぐで突っ込む所だったが、展開を終わらせたロダンの魔術陣から空間急速冷凍の魔法が放たれた。


強烈な冷気に思わず足を止め、踵を返し逃げようとしたゴッフェートは自分の首筋に小刀が入った事に驚き再度体制を崩した。直線隊形から横に飛び出したアーラが放った小刀だ。


見逃すものか。


一気に距離を詰めた私は思い切り右手を空から大地へ振り抜く。回転する鋸刃が無慈悲に肉と骨を抉り裂いて行くのが伝わって来た振動で分かった。空中に浮いたゴッフェートの首はまだ何が起こったか気づいておらず驚きに満ちていた。


「くそぉ~、一投目しくったなぁ~」


ゴッフェートの亡骸から活用できる素材をあらかた回収した所でアーラがそんな事を言った。


「傍から見ていたら違いなど分からないな。何が悪かったのだ?」


「当たる直前で首を上げたんだよ。あれ無かったら無駄な戦闘しなくてよかったのになー」


「俺達ゃ出来るだけお前のソレには頼りたくねぇけどな。全部お前がやっちまったら俺達が居る意味ねぇだろっ、と」


ロダンが素材を回収し終わった様だ。


「こんな依頼中だからさぁ、出来るだけ体力とか武器減らしたくねぇんだよ。まったく…1戦闘で小刀2本使っちまったぜ!」


「アーラの場合は手持ちの武器の数が勝負だからな。そう言いたくもなるさ」


「違ぇねぇ。なるべく会敵せずに見つけたいモンだな。そういやパンタ、腕大丈夫か?」


「ん?ああ、問題無い。あんな体勢から撃って来るとは思わなかったから流石に驚いたが」


「アタシ見えてなかったからねぇ~。えっ?行くの?今っ!?でカンジでちょいテンパったわ」


「所詮ゴッフェートだ。特に問題は無…ん?あれは何だ?」


目線の先には、今葬ったゴッフェートとは別の何らかの死骸が見えた。近づいてみると、違う個体のゴッフェートだった。


「うぇ~キモチわりぃ。胴体ほとんど喰われてんじゃん」


アーラが死骸の傍に駆け寄り、屈んで調べている。新たなゴッフェートは胴体の内臓部分をごっそり失っており、その跡から何らかの魔獣に捕食された事が伺える。


「これが村人の言っていた捕食されたゴッフェートか…例のドッケラルである可能性が高いな」


「しかし何でこんな所にドッケラルが居るんだか。大人しく荒野で遊んで…ッッアーラッ!!」


アーラはロダンが叫んだ瞬間、周りを全く見ずに右方向へ自ら飛んだ。アーラ居た場所には、両手を合わせた灰色の握りこぶしが沈んでおり、地面を大きく穿っていた。前方を見ると、ゴッフェートの死骸の傍にあった草むらの陰から、一つ目が悍ましい笑顔でこちらを見ていた。


「コイツだッ!!戦闘準備!!」


高らかに叫んだ私は、背中から胸へ素早く回した大盾を左腕に滑らせ、先程収めたばかりの鋸大剣をもう一度右手に構える。ロダンも自らが背中に背負っていた、切先が大きな球になっている鉄棒状の鈍器を片手に構え、ドッケラルの初撃を回避したアーラはその身体能力でもう私の後方に控えていた。私の左後ろにロダン、右後ろにアーラといういつもの陣形だ。


最初に襲われたのがアーラだったのは不幸中の幸いだった。おそらく私かロダンであれば、名前を呼ばれたあの瞬間、まず周囲を確認しようとして攻撃を受けた可能性が高い。


だがアーラはロダンの叫び声に瞬時に緊急性を感じ、その場からの回避を最初に選択した。誰にも出来る事では無い。そのおかげで3人とも負傷を負う事無く、無事に目標と対峙出来ている。


そして意識を前方へと向ける。


「いつも通りだ。私が接戦、二人が援護。行くぞ」

「おう」

「おう」


戦闘時特有の端的な会話で意思疎通を図る。

短い会話の最中に大量の魔力を右手に流し込んでいた事で、鋸刃の回転は既に最高速度まで到達している。草むらからゆっくり現れたドッケラルへにじり寄り、開戦の時を待つ。


鋸刃が回転する事で発するギュルルルルという音だけが鳴り響く。その距離7メル…6メル…5メル…4メルに縮まろうとした所で私の後ろから飛んで行ったおそらく毒が塗られたであろう小刀をドッケラルが躱した瞬間、私は大きく踏み込んで袈裟切りを放つ。左肩の辺りの肉を少しだけ削り取られたドッケラルは忌々しい声を発しながら後方へ大きく飛ぶが、その着地点を見計らったかの様にロダンが放った炎塊が、防御する為に咄嗟に前へ出したドッケラルの両腕を焼いた。


「ギュヤアアッッッ!!」


その叫び声を放ち終わる前にドッケラルへ投げられた小袋が、大きな一つ目の前で破裂した。アーラの催涙紛による追撃だ。大きな目を持ったドッケラルには催涙攻撃が非常に有効だ。堪らず目を閉じた今が好機。奴の得意な戦法には持ち込ませない。


全速で距離を詰めた私は大振りを放つ。

ドッケラルの左腕が宙を舞った。

仕留め損ねた。

斬撃が首へ入る瞬間に急にドッケラルが体勢を崩したからだ。


ドッケラルは逃げる様に4本足でもう一度後方へ飛んだ。


「すまん、もう一度だ」

「了解」

「了解」


距離を取られた私は、右手を下ろし、左手に構えた大盾を前に突き出し、防御態勢を整える。早く突進して来い、その時がお前の最後だ。


そう思っていた時だった。


ドッケラルの目の前に再び小袋が投げられ、破裂した。

一瞬だけアーラを見た。

アーラも驚いていた。

彼女では無い。

左後ろを見た。

ロダンでも無い。

誰だ?


そう考えていた時、辺りに舞った粉が向かい風に乗って私の鼻に届いた。


何て事だ。

シシレイソの花粉だ。

エンプシー・リギウスのよいこのための

わくわく魔獣図鑑


              出版:生命生体研究所

              共著:冒険者協会


20、ウードン

   くりっとおめめのこんちゅうがた

   まじゅうだ。からだは50セルメルくらいでも

   りをねりあるいてるよびっくりするとおめめか

   らなみだがでるけどどくえきだからちかよらな

   いでね。


   だい20しゅしていまじゅうだ。

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