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過ぎ行くハッピータイム

 波乱もあったクリスマスケーキタイムが終わり、俺達はいよいよ、今回のクリスマスパーティーの目玉企画であるプレゼント交換を執り行おうとしていた。


「なあ、琴美。そろそろ機嫌を直してくれよ」

「別に怒ってないもん……」


 そうは言いながらも、俺が話し掛けると琴美はぷく~っと頬を膨らませる。

 とりあえずケーキを食べていた時の俺と琴美に関する騒動はお茶を濁す事に成功したけど、その代わりに琴美がむくれてしまうという事態におちいっていた。


「琴美ちゃん、せっかくのプレゼント交換なんだから笑顔笑顔。それにさっきの事は、あとで個人的に涼太君を問い詰めればいいだけだし、ね?」

「……それもそうですね」

「ええっ!?」


 琴美は膨らませた頬に溜めていた空気をふう~っと抜いてそう言うと、チラッと俺の方を見た。

 一難去ってまた一難。どうやら俺は、この問題から簡単に逃れられない運命らしい。


「それじゃあ、張り切ってプレゼント交換を始めよーう! みんな、プレゼントは持ったかな?」

「「「「「「おーう!!」」」」」」


 なぜか突然パーティーを仕切り始めるサクラ。

 いつもながらお祭り騒ぎになるとテンションが高くなる奴だが、誰も進んで仕切り役などやりたがらないから、これはこれでいいとは思う。


「それじゃあ、みんなで円をつくろーう!」


 サクラの呼び掛けに全員が元気に返事をしたあと、自分が持って来たプレゼントを手に持ったみんなが円形に並び、そのまま背を向けた。


「そんじゃあ、音楽を鳴らすぞー」


 そう言って俺は近くに置いていたオーディオの再生スイッチを押す。

 そしてスイッチを押した俺が輪の中へと戻ると、スピーカーから赤鼻のトナカイが流れ始めた。


「交換スタート!」


 サクラの明るい掛け声がかかると、俺達は持っているプレゼントを時計回りに横に居る人へ回し始めた。わざわざみんなで背中を向けてプレゼントを回している理由は、誰がどのプレゼントを持っているのかを視覚的に分からない様にする為だ。

 そしてプレゼントを回す間に流す音楽として赤鼻のトナカイをチョイスしたのにも、もちろん意味はある。プレゼントを回す時間が長くなり過ぎず、それでいて短過ぎない。加えてクリスマスらしさを失わない音楽という事でこれをチョイスした。

 この赤鼻のトナカイ。フルで聞くと2分40秒近くあるんだけど、回している間の緊張感やドキドキ感を味わうにはちょうど良い時間だ。だからこの選曲は、我ながらナイスチョイスではないかと思っている。


「ドキドキするね、由梨ちゃん」

「うん。凄くドキドキするね……」


 俺の右隣に居る明日香が、自分の右隣に居る由梨ちゃんに向かってそう話し掛けていた。

 確かにこれは、俺の思っていた以上にドキドキする。

 誰のプレゼントが来るのか分からない緊張感。そして、琴美のプレゼントが当たらないかな――という俺の願望。そんな色々な思いが入り交じる事で、更なる緊張感とワクワク感を生み出している様に思える。


「――ストーップ!」


 鳴らしていた音楽が終わると同時に、サクラが大きな声でストップをかける。


「それじゃあみんな、お互いに向き合ってからプレゼントの開封をしよーう!」


 その声を聞いたみんなはそのまま円の内側を向き、それぞれに誰がどのプレゼントを持っているのかを見回す。


「あっ! 私のプレゼントは小雪ちゃんに行ったんだね」

「これ、明日香お姉ちゃんのプレゼント? やったー!」


 可愛らしいピンク色のハートが描かれた黄色の包み紙。それに包まれた箱を持った小雪ちゃんは大喜びをしていた。

 小雪ちゃんは明日香とは今日初めて会ったはずなのに、本当に明日香によく懐いている。その様子はまるで、ずっと一緒に暮らしてきた仲良し姉妹みたいだ。


「明日香お姉ちゃん。開けてもいい?」

「うん。いいよ」


 小雪ちゃんは縦10センチほどの長方形の箱の包み紙を丁寧に取り、中からジュエリーケースの様な物を取り出してからその蓋を開いた。


「わー! 可愛い~」


 小雪ちゃんが箱の中から取り出したのは、猫の形をかたどった可愛らしいネックレスだった。


「気に入ってくれたかな?」

「うん! 凄く可愛い! ありがとう、明日香お姉ちゃん」

「良かった。小雪ちゃん、ネックレス付けてあげるね」


 明日香は安心した様な表情を浮かべると、小雪ちゃんが持っていたネックレスを渡してもらってからその背後に回った。


「似合ってる? 明日香お姉ちゃん」

「うん。とっても良く似合ってるよ」

「えへへっ♪」


 小雪ちゃんは可愛らしい笑顔を浮かべながら、本当に嬉しそうにしている。


「さあっ! 次は誰がプレゼントを開けちゃう?」

「それじゃあ、次は私が開けてもいいですか?」

「よーっし! それじゃあ由梨ちゃん、いっちゃおーう!」

「はい!」


 由梨ちゃんは水玉模様の描かれた包装紙のテープを丁寧にペリペリと剥がし、とても綺麗に包装紙を剥いでいく。


「あっ、可愛いー!」


 由梨ちゃんが開けた包みの中には、犬と猫のイラストが描かれたハンカチと犬のヘアピン、猫のヘアピンが入っているのが見えた。


「気に入ってもらえたかな?」

「琴美さんのプレゼントだったんですね。ありがとうございます。凄く可愛いです」

「何をプレゼントにしていいのか迷っちゃったけど、明日香ちゃんか由梨ちゃんのどちらかに当たればいいなと思ってそれを選んだの」

「そうだったんですね。とっても嬉しいです」


 由梨ちゃんは取り出したハンカチを両手で広げ、それを俺達に見せてくれた。そしてその次に見せてくれたヘアピンもとても可愛らしく、琴美のセンスが光っていた。


「あの、琴美さん。一つお願いがあるんですけど、いいでしょうか?」

「ん? 何かな?」

「このヘアピンなんですけど、片方を明日香ちゃんにプレゼントしてもいいですか?」

「えっ!?」

「うん。もちろんいいよ」

「ありがとうございます。それじゃあ、明日香ちゃんには猫さんのヘアピンをプレゼントするね」


 そう言って由梨ちゃんは明日香に猫のヘアピンを差し出した。


「本当にいいの? せっかく由梨ちゃんに当たったプレゼントなのに……」

「うん、いいの。きっと凄く似合うと思うから」

「ありがとう、由梨ちゃん。大切にするね」

「うん♪」


 明日香は申し訳なさそうにしながらも、とても嬉しそうだった。

 それにしても、本当に仲の良い二人だ。明日香と由梨ちゃんがお友達になれた事を、俺は心から良かったと思える。


「由梨。せっかくだから、明日香ちゃんと一緒にヘアピンを付けて写真を撮らないか?」


 そう言うと拓海さんは、ポケットからスッとデジカメを取り出した。


「明日香ちゃん、撮ってもらおうよ」

「うん!」


 二人は手にしたヘアピンを持ってリビングにある鏡の前へ行き、しっかりとヘアピンを付けてからクリスマスツリーの前へ立った。


 すると拓海さんは、待ってました――と言わんばかりにツリーの前に並んだ二人へ向けてそのシャッターを切り始めた。いつもは落ち着いた大人の雰囲気の拓海さんだが、由梨ちゃんの事が絡むと途端にこうなる。

 言ってみればそれは、親馬鹿ならぬ兄馬鹿と言ったところだろうけど、それは拓海さんと同じ様にデジカメのシャッターを切っている俺に言えた言葉ではない。

 それからパパラッチばりに二人の写真を撮りまくったあと、プレゼントの中身披露はつつがなく進み、結果としてプレゼントの受け取りは、明日香のが小雪ちゃんに、琴美のが由梨ちゃんに、サクラのが琴美に、俺のがプリムラちゃんに、拓海さんのがサクラに、小雪ちゃんのが拓海さんに、プリムラちゃんのが明日香にという形で行き渡った。

 こうして交換したプレゼントの中でも特に可愛らしい内容だったのが、小雪ちゃんが急いで用意したプレゼントだ。

 そのプレゼントは子供らしく肩叩き券で、受け取った拓海さんがそれを使って小雪ちゃんに肩を叩いてもらっている姿は、見ていてとても微笑ましかった。

 そしてそんな二人の姿を見ていて、小さな頃の俺も両親にこんな事をしてたな――と、ついそんな事を思い出した。

 こうしてみんなで料理を食べたりプレゼント交換をしたり、テレビを見たりゲームをしたりと楽しい時間を過ごし、クリスマスパーティーはいよいよお開きの時間を迎えようとしていた。

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