初恋くん-再会物語-
初恋を聞かれたら答えられるが、わざわざ思い出して黄昏るなんてことも無いアラサ―生活謳歌中。
成人式を終えると、勢いなのか何なのか、流行のSNS経由で懐かしい人たちからの連絡がきたりする。
私は成人式も行っていないのと、友人が多いわけでもなかったし、クラスの女子のことは色々あって嫌いな部類にまでなっていたので、大人になって「久しぶり!」と本音で懐かしめるような人は少なかった。
私は地元を離れ一人未踏の地で奮闘していたのだが、ふと地元が懐かしくなる時もあり、そんなときに気軽に連絡が取れるのがホームシック予防に役立っていた。
そんな日にどれかしらのSNS経由で連絡が来た初恋くん
卒業以来十数年、酸いも甘いも経験し一周回った私だったので、初恋のような心の動きこそは無かったが嬉しい気持ちはあった、
聞けば初恋くんは東京にいるらしい
“東京にくることがあれば連絡して、ご飯でも行こう”
社交辞令じみた連絡だったが丁度翌月に東京に行く予定があったので
“来月東京に行きます”
と返事をした。さて、どんな返しをしてくるのか…
“何日?”
“19日だよ”
“ちょっと待って、後半はまだ出てない”
“いいよータイミング合えば”
そんな連絡をした、また数日後
“19日空けた”
社交辞令程度の連絡止まりではなかったので意外に思った。
-19日-
暑い日にコンクリート地面の東京はまた暑さが違ったように感じた。
“11:30ハチ公前で”
“はい、また連絡します”
田舎出身者の私たちが、都会の待ち合わせの象徴ハチ公前というスポットで待ち合わせなんて随分と面白く感じた。
十数年前までは田畑に囲まれた田舎道を駆けまわっていたのに、十数年の時が経って都会の真ん中で音楽を聴きながら手首に細めの時計をつけて時々見ては周囲をパッとみる(決してキョロキョロしないように気を使う田舎魂)
東京に着いたのは早かったので行くところもない私は先に向かった。
“ついた”
“あと5分くらいで着く”
“わかった、気をつけて”
5分の間に暑さで剥がされていないか、顔面に施した塗装・装飾を確認し髪を整えた。
“どこ?”
“ハチ公前”
“知ってる”
“どちらかというとハチ公の横”
“それは初めて聞いた”
“そういうことで!”
漫才のようなテンポのやり取りだったが、もうこの辺に来ているのだろう。頑張って探すぞ!と思い周囲を見たときにスマートフォンが鳴った。
「はい?」
「で、どこ?」
「ここー」
暑さに思った以上にやられたのか、ここと言いながら手を挙げた。
「わかったいく、そこにいて」
見つけてくれたらしいが私は見つけられないので悔しいと思いながらも指示に従ってその場にいた、すぐにちょっと言い表せないオーラを纏ったお洒落スーツ男子がきた。
「行こうか」
「OK-」
びっくりする程の再会の呆気なさだった。
これが
・初恋相手・幼少期の思い出・十数年振りの再会・再会場所は大都会・卒業以来会った友人は彼だけ
とタグ付けできるような、映画にもできるような再会‥と思いきやの漫才からの…という展開だ。
しかし、こんなにもあっさりしておきながらつい昨日のことのように感じるのは不思議な気持ちだった。
着いたところは和食割烹で昼間から贅沢尽くしだった。
席には仲居さんがついてくれるような、ドレスコード間違った!と思ったが幸いドレスコードの指定は無かったので救われたような気持ちもあった。
知っている9年と
知らない10数年
知らない期間の方が上回っていたが、思い出は昨日のように出てくるし、自分でも覚えていないことをキーワードだけ話されると事の一部始終を思い出した。
それは初恋くんもそうだったらしい、私が話すことを最初は忘れていてもすぐに思い出したと言っていた。
ここで出てくるのは初恋話
何とも恥ずかしい、まだ昼なのにシャンパンや日本酒の消費量が急に増えだした話題だ。
バレンタインデーのことよりもホワイトデーを覚えていた私と
ホワイトデーのことよりもバレンタインデーを覚えていた初恋くん
なんだか嬉しくて恥ずかしくて過去の初恋物語の続編ができたような感覚になった。
過去の私の話もしてくれたが、そんなことまで覚えているのかと恥ずかしくなったし
逆もそうで、「そんなこと忘れていいよ」と言われるネタまで披露した。
酔いも多少回ってきた頃にコースは終了し、店を出ることになった時も
「外暑いし、少し歩くけどメイク直してこなくても大丈夫?」
と言われたので横にいて恥ずかしくないように丁寧に直して来ようと席を外した。
「よし、大丈夫だろう!」手短ではあるがまつ毛、アイシャドー達がいい感じになったのを確認して出た。
「行こうか」
と言われたので財布を取りだしたら
「もう終わってるよ」
と言われたので、メイクを直している間に会計済みで、聞いても値段も教えない
そういえば、食事中もドリンクメニューも見せてくれなかった。
昔から変わらない出来上がった紳士に次はどうやってお返ししよう…。
離れるのも名残惜しいが「またね」と言い
あるかないかの口約束をして渋谷駅で初恋くんの背中を見送った。
これが再会物語。