ラ・シエルカ〜小さなトレジャーハンターたち〜
暗い遺跡の中。ぼうっと揺らめく松明の灯り。その炎が照らし出す、小さな影。
「はあ、最悪……ストリングスも使えないなんて」
左耳に装着した通信装置、ストリングスはいくら叩いても反応を返さない。こつん、こつんと小さな音が響くだけだ。
……最悪だ。まさか、あんなところに落とし穴があるだなんて。
事の発端は少し前。ある遺跡の内部を仲間たちと探索していた私は、魔物との戦闘中、その攻撃を回避した先にあった落とし穴に落ちて、孤立してしまった。穴は坂道のようになっていて、多分、真下ではなく少し逸れたどこかに落ちたんだと思う。
それも、かなり長い距離を移動してしまったのか、その場から叫んでも声も届かない。私たちが元いたのが遺跡の三階部分。今いるのがどこかは……分からない。
「皆、無事かな……魔物にやられてなきゃいいけど」
落ちてきた穴は塞がってしまって、そこから戻ることはできない。多分、上も同じようになっていると思う。あの三人のことだからそんじょそこらの魔物に負けたりはしないだろうけど、やっぱり心配だ。
落ちた先には道があって、進むことができるようになっていた。もしかしたら上に続く階段があるのかもしれない……と、思って進み出してから、少し経ったのが、今。
「なさけな……リーダーなのに、今更落とし穴なんかに引っかかるとか……」
私たちは、五年前から四人で旅をしている。
リーダーは私、カナン=エニウルフ。一五歳。
副リーダーで私と同い年のニーナ=エニウルフに、
二つ下のレニィ=エニウルフ。
それから、今年一二歳で最年少のシャルテ=エニウルフ。
名前は同じだけど、同じ孤児院出身ってだけで、血は繋がってない。でも、殆ど姉妹みたいなものだ。
で、上に取り残されたであろう三人……ニーナに関してはしっかり者で心配もいらない。シャルテも幼いながらにしっかりしてるから大丈夫だと思う。問題は、怠け者のレニィだ。今頃、足が痛いとか何とか言って、喚き散らしてる頃だろう。私がいたら喝を入れてるんだけど。
ああ、心配だ……リーダーが罠にはまって孤立するなんて、絵本の中だけの話だと思ってたよ……。
とにかく、早く合流しないと。三人が上に向かってるのか下に戻ってるのかは分からないけど、私は上に向かうしか選択肢がない。急がないと。
それから、どのくらい時間が経っただろう。私はいまだ、上に向かう階段の一つも見つけることができていなかった。
それどころか、向かう先全て、行き止まり。目印を付けながら歩いてはいるけれど、もう殆どの道を探索し終えた。階段らしいものは見当たらない。
「いや、そもそも罠なんだから、脱出する道なんて無いとか……」
考えたくはなかったけど、あり得る。態々、罠に抜け道を作るだなんて意味が無い。ここで餓死させるつもりなら、階段なんて絶対に作らない。
でも、それにしてはおかしな点がある。それにしては、痕跡がない。確かに未開の遺跡ではあるけど、一階から上の部分には誰かが探索した跡があった。その過程で誰かしらはこの罠にかかってると思う。あんなに引っかかりやすい場所にあったんだから。
もし、ここから抜け出せないのだとするなら……人骨とか、あってもおかしくないと思う。或いは、あんな間抜けな穴に落ちたのが私だけっていう可能性。考えたくはないけど。
「……いや、私が間抜けなだけかもなぁ」
穴には落ちるし、出口は見つからないし、通信も繋がらないし。なんだか急に不幸に見舞われている。日頃の行いのせいか?
——ぐぎゅるるる
腹の虫が鳴いた。そういえば、朝から何も食べてなかったっけ。
松明を持ったままその場にしゃがみ、ポーチを開いた。中から食料の入った袋を一つ引っ張り出し、封を噛み切る。
粉を練り固めただけの簡素なもの。味は殆どしない。お腹はそこそこ膨れるけど、満足かと言われればそうでもない。
……あー、お肉食べたい。
そのためにも、早くここから出ないと。残ってる道は……あと二つだっけ。どっちも行き止まりなら壁ぶっ壊してでも出てやる。絶対、こんなとこで死んでたまるか。
少しの満腹感を得た私は、再び立ち上がった。よし、行くか。
……わぉ。
「扉……? しかも、おっきいな……」
結論から言うと、二つの道のうち、一つは行き止まりで、もう一つは違った。今までみたいに壁があるわけじゃなく、そこにあったのは大きな扉。その通路だけ他よりも少し広くて大きく、その先に扉があったんだ。
しかも、ただの扉には見えない。装飾は凝っているし、古ぼけた遺跡そもそもの装飾とは違った雰囲気。明らかに『異質』だった。
扉の横には燭台があって、私は松明からそこへ火を灯した。パッ、と周りが明るくなる。
「この先が出口……いや、もしかすると……」
これだけのもの。上の階にはこんなものなかった。ただ出口を守るためだけに置いているとは思えない。私の予想が正しければ、これはもしかして、カモフラージュ……?
つまり……上には、何もない。ここが、私たちの目的地。
「ま、開けてみれば分かるで……しょ!」
考えていても仕方がない。私は扉に両手をかけ、全体重を乗せて押した。大きさに見合うだけの重さで、分かりやすく言うと、とんでもなく重い。女の子一人で開ける重さではない。
それでも、押した。なんの、これしき。これでも大人たちと同じくらいの力があるって自負してるんだ。それに、開けられなきゃどのみち進めない。死ぬ気で押すしかない。
ギッ、ギッと、重々しい音を立てて、扉が少しずつ動いていく。長いこと開かれていなかったのか、その隙間からポロポロと破片が落ちてきて、頭の上に乗る。そんなことを気にもせず、私はただ、顔を真っ赤にして力を込め続けた。
「ふっ、とぁっ……」
年頃の女の子が発していい声じゃない。
「ひ、ら、けぇっ……!」
少しずつ、少しずつ、扉が動く。そして……人一人が通れるくらいの隙間が、できた。
その間から体を潜り込ませ、抜ける。それから、その場にへたり込んだ。
「はぁ……はぁ……お、っも……」
息が切れる。こんなに重いものを動かしたの、初めてかもしれん。いつも使ってる大剣だって……あいや、あれは振り回すから割とキツイ。
少し呼吸を整え、落ち着き、立ち上がって松明の火を頼りに辺りを見渡した。どうやらここは大きな広間のようだ。
「広い……けど、やっぱり出口じゃないか……」
奥の方はまだ暗くて見えない。でも、出口という雰囲気には見えない。となると、やっぱり私の予想通り、ここが目的地……?
考えるより先に行動。広間に向かって一歩踏み出すと、次の瞬間、視界がどんどん明るくなっていく。
部屋にあった無数の燭台。触ってもいないのに、それがひとりでに燃えていく。私の方から、奥へと。部屋全体がたちまち明るくなっていく。
「うわぉ……思ったより、広いな……?」
思わず、声がこぼれた。広間は私が想像していたよりも遥かに大きい。天井も結構高い。これ……多分地下だな。一階部分から、上と下に、何層も広がっているんだ。
じゃあ、やっぱり階上部分はカモフラージュか……? あ、でも、そうなると少し厄介か。
何が厄介かって……こういう遺跡には大抵、『番人』みたいなものがいるから、さ。
鈍ッ
大きな音がした。何か重いものがぶつかったような。それに、地面が大きく揺れた。地震みたいに。
音は、広間の中央から響いて……見れば、そこにはさっきまでなかったはずの大岩があった。
「……あー、そいつはマズイ」
見覚えがある。いや、大体遺跡の番人なんて『こいつ』がメインだ。
振り返ると、扉はいつの間にか閉まっていた。押しても引いても動かない。ダメだ。閉じ込められた。
……ダメか。
諦め、背中から伸びる柄を掴んだ。そして、鞘から引き抜く。その、鈍く輝く大剣を。
でも、相性最悪。あいつらは遺跡に行くと大抵いるものだけど、毎度毎度手こずるんだ。小さなものなら殴れば済むけど、大きくなるとそうもいかない。斬撃が効きづらいもんだからやりづらい。
あいつらは……『ゴーレム』は、ある意味私の天敵だ。
轟音を響かせ、大岩が動き出す。少しずつ変形をしながら、立ち上がって、そこから腕が生え、頭も生えてくる。眼光は緑。肌は黒。いかにも頑丈そうに見える巨大ゴーレムの完成だ。
「やだやだ。あんた倒さないと出られないってわけ? それとも、あんたを倒せばお宝が貰える?」
大剣を構えた。身の丈をも超える大剣だ。長く振るってきたこいつには、もはや重さなど感じない。相棒だ。
「どっちにしても……倒す!」
駆けた。同時に、ゴーレムも動き出した。その巨大な右腕が振り上げられ、私を狙っている。そんなのろい攻撃、当たるか。
相手の大きな体に潜り込むように、その腕を避けた。そしてその足目掛け、大剣を思い切り振るった。
が————切れん!!
「かった!? あんたそれは反則じゃん!」
緑の眼光が私を睨み付けた。咄嗟にバックステップで回避すると、さっきまで私がいた場所をゴーレムの蹴りが襲っていた。
ダメだ。硬すぎる。他のゴーレム相手なら斬ることはできなくても叩き割るくらいならできるのに。このゴーレム……強いぞ!?
ブンッ、ブンッ。続けざまに巨腕が振るわれる。大剣を持ったまま回避することは簡単だけど、いかんせんリーチが長い。振り回されると近付くのも困難だ。
だったら……上だ!
「とっ」
腕が振り切られたタイミングを狙って、それを足場にし、駆け上る。そして頂上で飛び、ゴーレムの頭部目掛けて大剣を振るう。
ガキィィイン
それも、弾かれた。
空中にいた私は、羽虫を叩くようなゴーレムの攻撃を避けることができず……モロに食らって、吹き飛んだ。
「ぅあっ、かッ……」
柱の一つに叩き付けられ、地に落ちる。今のは……痛かった。受け身も取れずに、まともに食らった。
やばいな。どこか、骨が折れていそうな感覚がある。お腹の辺りがズキズキと痛んで止まない。口の中が鉄の味だ。
ちっくしょ。この野郎、やってくれたな。私の武器がハンマーとかなら今すぐ叩き潰してやるのに。
「く、そっ……」
キツイ。軽口を叩くくらいの余裕しか残っていない。剣はまだ振れる。でも無茶な動きはできない。できたとしても、効かないだろう。予想以上に硬すぎて、刃が全く通らない。腹で殴るにしても……効くかどうかは怪しい。
ゴーレムは私を睨んでる。おうおう、そんなに大事なものが奥にあるか。たとえば、『神秘の秘宝の鍵』とか。あったりしないか?
だったら、死ぬ気で倒すしかないけど……冗談抜きで死んでしまいそうだなぁ。
せめて、シャルテの魔法があればな……無い物ねだりは良くないか。
「どーどーどー! うちのかわいいリーダーをいじめるのは、やい、どこのどいつだ!」
……突然、そんな声が聞こえた。幻聴かもしれん。
「ちょっ、ニーナ姉、それちょっと違う……」
「え? こんな感じじゃなかったかしら」
いや、幻聴じゃない。幻聴なはずない。こんな馬鹿みたいなやり取りするの、あの三人以外にいない。でも、一体どこから。
「カナン、こっち!」
私の名前を呼ぶ声がした。それは、ゴーレムの向こう。さっきまでは気付かなかった、そこに扉があったことに。
扉の前に、三人がいた。ふわふわの緑の髪。寝癖のすごい黒髪。まっすぐな黄色い髪。見間違うはずもない。
ニーナに、レニィに、シャルテだ。
「二人とも、まずはカナンと合流するよ!」
ニーナがそう叫ぶと、レニィがバックパックから小さな爆弾を取り出した。いや、爆弾。ダメだ。ここ地下だよ。崩れるって。
私の心配など知らず、レニィはそれをゴーレムに向かって投擲。それがゴーレムにぶつかると……爆発せず、辺りに煙をばらまいた。
白くもくもくとした煙で、ゴーレムは私たち四人を見失う。その影から、三つ、影が飛び出してきた。
そのうちの一つ……黄色い髪の魔法使い、シャルテがいの一番に駆け付けると、私の肩に触れた。
「ごめんね、カナン姉。ここに来るまでの道が中々見つからなくて」
「他にも道、あったんだ?」
「ん。四階から長く険しい道を辿ってきた」
レニィが苦い顔をしている。いや、多分あれはそんなに長くもないし険しくもないな。大体顔で盛ってるかそうでないか分かるし。あれは盛ってる。
それから、シャルテの魔法で、だんだん傷が癒えていく。骨折も治ったみたいで、あの痛みも消えた。
「カナン、大丈夫?」
「ん……お腹空いたかな」
傷が治ると、ニーナが手を差し伸べてきた。その手を取って立ち上がり、そう言うと、ニーナは小さく笑った。
「じゃあ、おたから見つけたら、お肉にしましょ? ちょっと高いやつ」
「賛成。レニィの奢りでね」
「むにっ!?」
横でどうしてそうなったと言わんばかりの顔をするレニィのことは置いておき、今はこいつの始末が先だ。
ゴーレムを覆っていた煙は少しずつ晴れていってる。もう少ししたら完全に消えて無くなるだろう。私一人じゃ無理だけど……四人なら。
やあやあ、ゴーレムくん。さっきは随分とお痛い攻撃をしてくれたじゃあないか。私がどれだけ痛い思いをしたか……。
四人で横一列に並び、それぞれ武器を構えた。
私は、大剣。
ニーナは、二本の短剣。
レニィは、バックパックに詰まった自作の道具。
シャルテは、弓と魔法。
四人なら大丈夫。私たちなら。四人で一つだもん。皆の力が合わされば、ゴーレムなんてお茶の子さいさい。
「『ラ・シエルカ』……いくよ!」
『おー!』
掛け声と共に前衛を務める私とニーナが前へ出た。煙が晴れて自由の身となったゴーレムは、そんな二人目掛けて腕を振り回す。
「『赤色』! 『青色』!」
その後ろから、シャルテが私たちに補助魔法をかけてくれる。攻撃を強く、鋭くしてくれる赤色補助魔法と、肉体を頑強にし、防御力を増してくれる青色補助魔法の二つだ。
よっし、怖いものなんてない。いくぞ。
「ニーナ、右!」
「うん!」
振り下ろされた両の巨腕。私が叫ぶと、ニーナは自身から見て右の腕を外側に向け弾いた。それと同時に、私は左側の腕をいなしながらその懐へと入る。
「さっきまでのお返しじゃおるぁあっ!!」
その足を、思い切り殴り付ける。剣の腹で。斬撃なんて効かないって分かってるからね。シャルテの魔法があれば、腹で殴った方が早い。
赤色補助魔法がかかったその一撃の威力は凄まじく、殴られたゴーレムの右足は大きく後方へと反り返った。人間で言えば曲がってはいけない部分まで到達している。
「レニィ!」
「食らえ、『溶解X』!!」
ニーナの合図と同時に私たちは左右へ撤退、態勢を崩したゴーレムに向けて、レニィが毒々しい色の液体が入った丸瓶を投げ付けた。それは狂うことなくゴーレムに命中すると、砕け、中身をゴーレムへとぶちまけた。
その中身は……対ゴーレム用兵器、『溶解液』。その最新型だ。
液体がかかったゴーレムは、頭から肩にかけてがドロドロと溶け始めている。頑丈で斬ることができないゴーレムでも、こうして溶かしてやれば……。
「っしゃー! ぶった切れろー!」
ニーナと二人でその肩目掛け渾身の斬撃。接合部分が溶け、脆くなったゴーレムの肩はいとも容易く切断され、巨大な腕がごとりと地面に落ちた。
もうここまでくれば、勝ったも同然。
「カナン姉、おへその辺り!」
「了解!」
私の肉体を紫色の光が包む。赤色と青色の複合補助魔法だ。それによって爆発的な力を得た私は、シャルテの魔法で赤くぼんやりと光っているゴーレムの腹に向け、渾身の右ストレートをぶちまけた。
めき、めき。いや、ばき、ばき、だろうか。ゴーレムのその硬い表皮が砕ける音がする。腕がめりめりと埋まっていく。一日に一度しか使えない奥の手。それが紫の補助魔法。でも、そのデメリットに見合うだけの効果があって。
効果時間は短い。一日に一度しか使えない。その代わりに得る爆発的な怪力で、私はゴーレムの腹を打ち抜いた。背中へと貫通したその手の中には、赤いゴーレムの核石が握られていた。
それを引き抜き、砕く。ゴーレムはたちまち、石のカケラになって崩れ去った。
「……ぶっころ!!」
「カナン、おちついて。出てるから。はい、深呼吸」
戦闘が終わるなり、ニーナに背をさすられた。いけないいけない。テンションが上がるとどうにも口が汚くなる。悪い癖だ。
ともあれ。
「番人撃破! ふー!!」
「むにぃ……ゴーレムくらいで喜びすぎ」
そう言うなよ、レニィくん。今回はわりかし本気で死ぬかと思ったから喜んだっていいじゃない。
それに、もしかしたら良いものあるかもしれないし。秘宝の鍵、とかさ。
「ところで、お宝ってどこにあるんだろうね。もう扉はないみたいだけど」
「うーん……」
そういえば。私がきた扉と、ニーナたちがきた扉。他には無いみたい。
と、周囲を見回していると、突然地面が揺れ始めた。何事かと思えば、さっきまでゴーレムがいた辺りの場所の床が動き始めていた。
階段だ。床が開いて、地下へ続く階段が現れたんだ。
「ここだね。行こう、皆」
四人揃って、その階段に足を踏み入れた。
……地下に進むと、そこには小さな部屋が一室、あるだけだった。でも、確かにそこには、私たちが求めていたものが鎮座していた。
祭壇、と呼ぶのがふさわしいと思う。人々が何かを崇めているような絵が彫られた壁画に、部屋の中央には私たちが持っている『一つ目の鍵』と似て非なる輝きを放つ小さな球。
「……鍵だ」
手に入れた者の願いを何でも叶えると言われている神秘の秘宝……『エル・ミステリオ』。そこへ至るために必要とされるのが、『六つの鍵』。六色の光を放つ、キーオーブだ。
そして、そのうちの一つが、ここに眠っていた。
「か、カナン姉……大当たりだよ……ね?」
「大当たりも大当たり。まさか、本当に鍵があるなんてね……」
慎重に、鍵に手を伸ばす。そして手に取ると、一際強く輝き、少しだけ収まった。
「赤の鍵……本物、だよね?」
「共鳴させてみれば分かるんじゃない?」
あ、そっか。そうだ。鍵同士は近づけると共鳴するんだ。
私はポーチから二つの穴が空いた小さなケースを取り出し、そこから黄色い光を放つオーブを取り出した。
二つの球を近づけると、光が一層強くなり……稲妻のようなものが走った。
「おっ……本物っぽい」
「むにっ……」
「やっと、二つ目が見つかったんだ……!」
レニィは顔には出さないけど、かなり喜んでる。シャルテもすごい喜びようだ。二人して手を繋いでぴょんぴょん跳ねまわってる。
ニーナも喜んでるみたいだ。ま、ずっとお宝探しをしてきて、やっと二つ目の鍵が見つかったんだから……当然か。
見つけた鍵を、私は、ニーナの方へと差し出した。これは私たち『ラ・シエルカ』でのルール。鍵は六つ。だから、リーダーである私が二つ、他のメンバーが一つずつ、各自で保管する。最後の一つは、見つけた時には秘宝も現れるだろうから、考えてない。これは、誰かがもし鍵目的で攫われたりした時に、丸々全部奪われるのを防ぐためでもある。
「ニーナ。次はあんたの番」
「うん。だいじに預かるね」
ニーナはそれを受け取ると、自分用のケースに保管した。
ふう……はてさて。これでやっとこさ、この遺跡の探索も終わりか。何だかどっと疲れちゃったね。一人でずっと歩き回ったからか。お腹が空いてるからか。
ああ、多分、お腹が空いてるからだろうなぁ。お肉、食べたいなぁ。
「あ、そういえば、レニィの奢りでお高いお肉食べるんだっけ」
「むにっ!! わたし死んじゃう!! お財布が!」
「はは、冗談よ。でも、今日くらいはお高いお肉食べても許されるでしょ」
なんせ、とんでもないお宝を見つけたんだからね。
私の言葉に反対する人はいなかった。皆、一様に頷く。
さて……じゃあ、パーっといきますか!
……これは、トレジャーハンターである私たち、『ラ・シエルカ』の冒険の、ほんの一ページ。これからも、きっと、『神秘の秘宝』を求めて、私たちの冒険は続くのだろう。
たったひとつの、命よりも大事な『願い』を叶えるために。