「帝都蒸気奇譚」
この世界には、
大きく分けて3種類の生物が存在している。
短命でありながら、丈夫な体と奇抜な物を生み出す知恵を持ち、
時には未来さえも変える力を有する・・「人間」
長き時を生きる生命力と、古より伝わる術を自在に操り、
望めば世界さえも手に入れられる力を有する・・「妖怪」
そして。
どの種族より長く生きながらも、
全てが謎に包まれた存在・・「見エザル者」
異なる姿と性質ながらも、「人間」と「妖怪」両種族の関係は、
概ね良好と言えた。
力を合わせ同じ場所に生き、想い合う事も出来るほどに。
しかし、「見エザル者」がそれに加わる事は無かった。
彼の種族は古より、暗闇や影を好んで潜み、
滅多に姿を現さなかったのだから。
だが、「人間」も「妖怪」も、それで良いと考えていた。
何故ならば、知っていたからだ。
「見エザル者」が、何らかの意思を持ってその存在を現す時。
・・それは、害意と悪意を振り撒く時のみだという事を。
度々齎される其れ等に対し、何時しか人間と妖怪は手を取り合い、
対抗するようになった。
その時より脈々と続く、我等と「見エザル者」の戦い。
現在帝都「トキノワ」が、蒸気という力を得て巨大都市となった今も、
それは密かに続いている。
・・しかし、誰も気が付いてはいなかった。
全てを塗り潰さんとする、害意と悪意。
其れに対抗する、強き意志と力。
この世の全てを変える戦いが、帝都の片隅で始まった事を。
それは、暗き路地裏で。
それは、嘆きの響く廃墟で。
それは、闇に続く地下道で。
本当に、密やかに、始まりを告げた。
・・これより、「帝都蒸気奇譚」の幕開けとなります。