n003;町へ来た
「んんん……?? とりあえず、俺の町に来てくれ」
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それから、しばし歩き通したのち、平原に広がる町についた。ここがガンタウンか。
質素な門から、町の中に入るとき、門番らしき女から、声をかけられた。
「よぉ、バレッタ。女児誘拐かぁ?」
「誘拐という名の保護だな。ロンブローゾ宮殿に一人でいた」
「ふむ。ところで、その子の服は、見慣れないな」
門番は、私の前に来て、腰を下げた。目線が合う。
「キミ、ここらの者じゃないね。歳はいくつ?」
「さぁ…………。思い出した38だ」
「本当は、いくつ?」
「うううむ」
今や38歳では、通らないらしい。
「ロンブローゾ宮殿か……、もしかしてキミは転生者だったり……する?」
「天才者?」
「てんせいしゃ。別な世界から、この世界にきた人のこと。この世界とは全然違うところにいた記憶とか、ない?」
「ああ……、思い当たる。あります、あります」
「まさか」と、ベレッタが口をはさむ。
「ま、もしかしたら、転生者という線も考えておいたほうがいいな」
話が一段落して、町の中に入った。そこで声をかける。
「ベレッタさん? ベレットさん? バレットさん?」
「ベレッタだ。紛らわしいかもしれないが、ベレッタだ。覚えてくれ。女のような名前だと揶揄されるが、俺の名はベレッタだ。覚えてくれ」
「忘れるまでは覚えよう。それでベレッタさん。確かに町まで案内してくださって、ありがとう! ここから先は、付き添い無用ですヨ」
と、私が背を向けて歩き出そうとすると、
「おっと、そうはいかない」
と、ベレッタに腕をつかまれる。
「何かな? もしやベレッタさん婦女暴行?」
「そんな気はさらさらねえ。もう日が暮れる。夜の町は、それはそれで若い女には優しくない。ノロ、お前、金は持っているか?」
「恐喝かい? ところがどっこい、無一文さ」
「もしやと思ったが、そうか。じゃあ、野宿するつもりだったのか?」
「そうなるなぁ~。わびしい」
「ノロはかわいい……べっぴんさんだから、路上で寝てたりなんかすると、襲われるぞ?」
「かわいいって!? 褒めてくれるのかー、うれしいねー」
「冗談を言っているんじゃない。金がないなら、世話になれ。ちょっと来い」
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そしてここは、町のとある一軒家。
「俺の家だ」と、ベレッタ。
「帰ったぞ、母さん」
ベレッタが家に入りながら言うと、奥から、巨漢のオバ様が現れた。
「おかえりベレッタ、今日も無事で何より――アラ? ベレッタ? 子供できたの? ンマーかわいらしいぃ」
「んなワケはない」
「どうも、奥さん、女児誘拐されてきました」
「ベレッタぁ??!」
オバ様はビックリ仰天。
「ノロ、それは、きついジョークだ」
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晩飯時。
私も、ちゃっかり、ご飯を頂いている。
味わいは別として、腹を満たせてありがたし。
「な~んだ、そゆことだったの」
オバ様への誤解も解けたらしい。冗談が通じる相手だと思ったが。
そしてオバ様の提案。
「そんなことだったら、居候しなさいな。大歓迎、大歓迎だわ!」
オバ様はハツラツとした。
「あくまで当分だ。その間に、一人で稼ぐ手段を見つけること」
ベレッタは釘を刺す。
「いいじゃない。ワタシ、娘が欲しかったのヨ」
「…………」
ベレッタのオバ様には、好意的に受け入れられたらしい。
「これからどうも、よろしく、母さん」と、私は言う。
「か、母さん……ってワタシのこと?」
「娘が欲しかったと言うから、こういう感じがいいのかな、と」
「ま、まあ、これからよろしくね、ノロちゃん」
「ほいほい」
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部屋を一室、与えられた。
「ここがノロちゃんの部屋ね」
小ギレイな部屋だった。全面板張りの古風な感じ。ハッキリ言えば古臭い感じで……
「いやはや、本当に住んじゃって、居候しちゃって、良かったんですか?」
「もちろん。じゃあ、あとでお湯持ってくるから」
……? お湯? お茶向けかな。
「寝る前に白湯を一杯クイッと飲むのが習慣ですか、ここでは?」
「ホホホ、面白いことを言うのね、ノロちゃんは。もちろん、身体を拭くためのお湯よ」
そう言って、オバ様は出ていった。
身体を拭くためのお湯よ―― 私は意味を考えた。
風呂やシャワーの代わりなのだろう。身体を洗う、という意味合いだろうと判断した。
ああ、つまり、風呂とか、シャワーが、ない! ということなのではないか? そういうことなんじゃないか?
「ノロちゃん、ドアを開けてもらって良いかしら?」
私はドアを開いた。
オバ様は、大ダライを持ってきた(タライは器のこと)。
大ダライからは、湯気が立ち上っている。また、粗雑な布もセットになっていた。
「使い終わったら、部屋の前に出してね。片付けておくから」
オバ様は立ち去ろうとしつつ、少し戻って、言葉を付け足した。
「――それと、このドアには鍵もチャント付いているから、活用してね」
と、言われたので、オバ様が立ち去った後、ドアの鍵を観察して、ガッチャンガッチャンいじったのち、施錠した。
そののち、私は服を脱いで、湿らせた布で、適当に体を拭いた。
お湯はどうやって用意したのだろう……、マッチでもあるのかもしれない。
言われたとおり、大ダライ一式は、部屋の前に出した。
そのとき、廊下を通るベレッタと視線が合った。
「服を着てくれっ」と、言われた。
私の上半身が裸のままだった。なぜか、さほど寒さを感じない。丈夫な身体を持ったからだ。
「あ、ごめんね」と、言って、ドアを閉じた。
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翌日、日が昇る、晴れ。
私は寝起きが悪い。すこぶる悪い。
その上、ベレッタもオバ様も、眠たいなら寝かせてあげようと配慮なさって、……目が覚めたときにはお昼前だった。
外に出て、ストレッチした。空気がおいしい。排気ガスがない世界だ。そのせいか、心持ち、視界もクリアに感じる。空気中のゴミが少ないのだ、多分。
遠く、遠く、山向こうにいる、人間の顔まで確認できる。視力もだいぶ上がった。
どこかへ出かけていたベレッタが、帰ってきた。
「お、ようやく起きたな」
「おはよーさん。感謝しているよ~。タダで飯を食わせてもらって、タダで住まわせてもらって、タダで優しさを頂いて」
「飯はともかく、優しさはタダじゃなければ意味はないな。金を取る優しさなんて、俺は関わりたくない」
「んぁ~、もっともだ~」
「まだ寝ぼけているようだが、散歩に行かないか? 町の中を案内してやる」
「それはそれは、親切に、ど~も」
二人は、ガンタウンを散策することに。
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■要約
・ガンタウンに着いた。
・ベレッタの家に、居候する。