n002;異世界へ
「私が管理するのは、世界ファンタジア。ノロさんには、ファンタジーゲーム的世界といえば、一発で伝わるでしょうか。……と、言いますか逆です。ファンタジーゲームが、世界ファンタジアの影響を、潜在的に受けて作られたのだと思っております」
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一息ついて、ゴッドマザーが問う。
「それで……、本当に問題ありませんか? その身体で」
「ん? 問題? 健康体ですよ? 今までずっと思うままにならない身体に苦しめられたことと比べれば、天国ですよ」
「ええ、繰り返しになりますが、それは、魂レベルで、ノロさんが異常をきたしていたからですね。魂が歪んでいるので、心身も異常が起きます。けれども、ここモルモット世界の現代医学では、それを治す術は持ち合わせておりません」
「魂が歪むって、何なんでしょうね?」
「考えられるとすれば、異世界に封じ込めるさいに、意図して魂を傷付ける、とかでしょうか」
「はー……、私には分からない次元の話ですね」
「ノロさんの身体は、魂から修復して元に戻して差し上げました。ただ、あまり慣れない作業なので、手抜かりがないか少し心配です。大丈夫でしょうか?」
「大丈夫だと、思いますが。具合は抜群に良いですし。言われてみると、心身がとても馴染んでいるような……そんな感覚もしますし」
「およそ38年、男性の身体でいた記憶も残ったままですが。もし、それが気持ち悪いのであれば、消すことも可能ですが、どういたしましょう?」
「そのままで結構。苦しみぬいた人生は、良い人生じゃなかったけれど、少なくとも後悔する選択をしなかった人生だ。それに、私の心はどうも、少女とオジサンの混ざりモノでいたいらしい。だから、これが、私です。ありのままで」
「…………感服です。分かりました。では、このまま、ワタクシの世界ファンタジアに、おいでください」
「ちょ、ちょっと待ってね!」
「何でしょう? 元の世界に戻りたいですか? あの世界モルモットに」
「戻りたくない。そうではなく、その異世界に行く、という選択肢の他にも、綺麗サッパリ死ぬというか、消滅するというか、そういう選択肢があってもいいんじゃないかと思いまして」
「死なないでください。ワタクシの世界は、ノロさんに気に入ってもらえますから。絶対、気に入りますから!」
「そんなに言うんだったら……うん、分かった、行こう」
「それでは、最終確認になります。これから、ノロさんを異世界に転送します」
「OK」
ゴッドマザーは、私に向けて、祈りはじめた。
段々と、私の意識は遠のいていき、、、眠りに落ちた。
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◆視点変更、三人称:ベレッタ
ここは、世界ファンタジア。森の中。
一人の青年ベレッタが、歩いている。
ベレッタは、森の中にある、朽ちた建物へ入っていった。
その建物内、中央に、真新しい棺桶が置いてある。
「んんん? おっかしいな。こんなん、あったか?」
ベレッタは不審に思い、その棺桶のフタを開けてしまった。
中には、白髪の可憐な少女が横たわり、眩しそうにしていた。
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◆視点変更、一人称:ノロ
徐々に私の意識がハッキリしてゆく。
周囲は闇に包まれている。見えない、何も、見えない。
そのとき、突如として、辺りに日が当たる。
まぶしい・・・・
「女の子? おい、起きれるか?」
男の声が聞こえる。目の前にいる人影が喋っている。
まるで、長い眠りから、ようやく目覚めるような気分だった。
起き上がって、伸びをする。身体をググっと伸ばし、ようやく、視界がクリアになってきた。
素晴らしき視界だった。映像だった。雰囲気だった。
まさに、ゲームかつアニメ的、マンガ的な質感の世界が、広がっていた。
そして、ここは……遺跡だろうか? そういう良い感じの雰囲気だった。
男が一人、険しい顔つきで、コチラを見ている。
防具を装備している。脇には小剣と……リボルバー拳銃だろうか。
そんなものを備えているとは、穏やかではない。
「君、こんなとこで隠れんぼしてるなんて、感心しないな。魔物に襲われたどうする?」
と、男が注意を申し立てる。
「どうも、こんにちは。ココ、どこでしょう?」
「寝ぼけているのか? ロンブローゾ宮殿だぞ、ここは」
ふうむ……。あたり前のことだが、私に地名を言われても、分からない。
「俺はベレッタ。君の名は? どこから来た? 一人か?」
「ああー、さあ……、どこから来たのか……。あ、名前はノロね。この世界で人間に合ったのは初めてさ」
「ん? よし、ノロ、帰る家が分からないようだが、ここに放ってはおけない。食われるのは嫌だろう?」
「食われるよりは、食うほうがいいな」
「俺はガンタウンから来た。そこまでノロを連れて行く、いいな?」
「ガンタウン? 初耳」
「町だ」
「うん…………そうだな、連れて行ってくださいな」
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おや……。
ベレッタと一緒に歩いていると、向こうに、見慣れない生き物がいた。
狼っぽい獣の群れが、みんなで仲良く二足歩行している。
「コボルトの群れか」
と、ベレッタがつぶやく。
コボルトという生物らしい。
可愛らしいじゃないか、と、私は前に出る。
「待て!」と、ベレッタの制止する声で、コボルトが気づき、こちらに向かってくる。どうやら襲う気のようだ。
ベレッタ、銃を構えた。やはりそれはリボルバー拳銃のようだ。
が――
コボルトたちが、私の存在を視認すると、踵を返して、逃げるように去った。
「な、なんだ……!?」
ベレッタは、前・後ろ・横・上、色々な方向を確認して、異常を探した。が、とくにおかしな点もなく、何か別のものが襲ってくる気配もない。
「今のは?」と私が尋ねる。
「分からん。どうなってるんだ」
「いや、今の生き物は?」
「生き物? コボルトを見たのは初めてか?」
「そう、はじめて見た。あれはペットにできないか?」
「ムリだ。魔物だ。言うことを聞かせたいなら、従魔魔法でも使わにゃあ」
「魔法? 魔法っていうのは、魔法なのか?」
「魔法は魔法だ。そんなことも分からない…………と、いうのか?」
「さっぱり、分からない」
「んんん……?? とりあえず、俺の町に来てくれ」
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■要約
・異世界(世界ファンタジア)に来た。(以降、前の世界モルモットでの生涯を「前世」と呼ぶ)
・森のなかにあるロンブローゾ宮殿の、棺の中に、ノロはいた。
・青年ベレッタと会い、ガンタウンという場所まで、連れて行ってもらう。
・コボルト(犬人型魔物)と出会うが、ノロを見て、逃げ出す。