n010;魔物の襲撃!
「掛け持ちですね。掛け持ちけっこう」
。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。
というわけで、住み家が変わることになった。
その報告のため、ベレッタの家に戻って、事の旨を伝えた。
「これからは、魔術師ギルド(の宿舎)に住むことになったから。今まで、お世話になった! ありがとう!」
「なに? 冒険者 兼 魔術師なのか、ノロは?」と、ベレッタ。
「もし、また、帰るところがなくなったら、ここへ来てね」と、ベレッタ母様。
。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。
「魔術師ギルドの宿舎」。以降、面倒なので、単に「宿舎」と呼ぼう、そうしよう。
その宿舎の、あてがわれた部屋で、くつろいでいる。ここが新しい我が自室だ。
ま……とくに、何てことのない、普通の部屋だ。「普通の部屋」という言葉に、想像するものは、人それぞれに多様かと思うが、何も言うことはない。
「さて」
私は部屋を出た。
魔術師ギルドの建物は、腐っても古城。これまた、いい雰囲気なんだわ~。
だから、散歩。散歩が私の趣味だ。
そして、上下左右をキョロキョロ見学しながら、適当に進んでいると、声をかけられた。
「あ……、アンタが、なんでここに?」
やさぐれた風貌の男から、声をかけられた。知らない人だ。
「覚えてねえか? オレだ。ヤマトネだ。冒険者ギルドで顔が合ったろ?」
「いや、覚えてないが。話しかけたってことは、何か要件でも?」
「いや……その」
「そうか」と、私は、また歩む。
「ぞ、ゾンビは!」と、ヤマトネ。
「ゾンビがどうかしたのかい? 出たのかー?」
「ゾンビ……、お前は、戦った、そして倒したっていうが。怖くないのか?」
「……?」
「オレは……もうダメだ」
そう漏らすヤマトネの足は、ガタガタと震えていた。どうしたのだ。
「体調不良か? 貧血か?」
「オレは……冒険者には、なれなかった。間近に来たゾンビに、オレは、腰が抜けて、そのあとは――――」
ヤマトネは急に、着ているものを、はだけた。露出狂か――ではなく、その胸には、焼けただれた跡。
「ゾンビに溶かされた、その名残か」
「……そうだ。幸い、オレは、生きてはいる。だが、もう二度と、戦えないかもしれない。……、身体は治った。だが、心はえぐられたままだ」
「そうか。だが、なぜ私に、その話を? 共感してもらいたかったか」
「違う。オレは、お前がゾンビを難なく殺したと聞いたとき、この恐怖心について、問いたかった。お前は、怖くないのか? と。殺し合いだろう? 痛みだろう? 苦しみだろう? 逃げたくならないのか? オレには、戦える理由が、理解できない」
私は、しばし、考え、言葉を選ぶ。
「私にとっては逆さ。逃げるために、この世界に来たんさ。あいにく、私にとっては、この世界は天国のようなもんでねェ。なんというか……根本的に、見たり感じたりするものが、私とアンタでは、違うのだろうよ」
「……羨ましい限りだ。ただ、オレのオツムは卵焼き程度の出来しかないもんでな、もっとハッキリした言葉で答えて欲しい。アンタが、見ず知らずの者を助けるために、戦う理由は、何だったんだ? 良心か? 善意か? 自分は聖人だと言うのか? それとも偽善者か?」
「考え過ぎさぁ……。ヤマトネだっけ? アンタ、矢が飛んできたら、よけるだろう?」
「……? ああ、よけられればな」
「降りかかる火の粉は払うのさ。相手が攻撃したら、ソイツは私にとっての敵。攻撃したものを、攻撃する。シンプルな理由さ。そんなことはぁ、野生動物だって知っている」
「でも、だが、オレには納得できねえんだ……。どうすりゃいい?」
「納得できないのも当然だ。言葉を交わすだけで心が治るなら、苦労はないさ。それとも、アンタの目の前にいる、年端もいかない子どもに、人生の助言でも、求めているのかい? そりゃ、荷が重い」
「お前は、子どもでは、ないだろう」
ヤマトネは、嫌~な視線で見る。
「…………。私は、散歩の続きをする」
立ち話をやめて、私は自分の趣味に没頭した。
。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。
血相を変えて、ワタタタタッと、慌ただしく駆けるミラッガーが、こちらを見つけて迫りくる。
「ノロさん! どこ行ってたんですか!!」
「どこって、ここに行ってたんだ~」
「ノロさん! 聞きましたか!? いえ! 聞いてませんね! その様子じゃ! ぜぇゼェ……!」
「緊急の用事なら、手短に――」
「魔物の群れが、多数、多数……、ぜぇぜぇ、この町に、ゲホッ、向かってます!!! 来てくダっ……」
ミラッガーは半ばパニックになりながら、私の腕をつかんで、走る、走る。
ミラッガー、足がガタガタになりながらも、走る走る。見るからにスタミナは限界だ。
(いいなぁ、この体)
対して、私は、まったく息が乱れていない。清々しい風を感じる余裕すらある。清々しい健康体。
。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。
連れて行かれた先は、外。町の外を見渡せる、ヤグラ? というのだろうか、高台だ。
「ゼェッ……ゼェェェ……ゲボバハッ、ゴホッゴボッ……、はァァァ、はァァァ」
ミラッガーは肩で息をしている。体力には自信がなさそうだ。
「大丈夫? ではないね?」
「だ……だいじょうぶ、ですともゴバハッ」
ミラッガーは、一方を指差した。町の外……なんだ? 目を凝らす。
「オークだ。オークの群れだ」と、ヤマトネ。
「ヤマトネ!? あ、お久しぶり! いたのね」
「いたのさ。ギルドマスターが喋れないようだから、オレから説明する」と、ヤマトネ。
「ああ、手短に。もう敵さん、迫ってるからね」
「そう、あの迫りくるオーク……、豚の顔をした魔物のことだ。あれを、町にたどり着く前に、できるだけ、減らす。そのためには、オレたち魔術師の、魔法による遠隔攻撃が必要だ」
「分かった。さっさとやろう。しゃべっているヒマがない。……ん? ヤマトネ、アンタ、魔法撃てるのか? 魔術師だったのか~」
「………………」
「いや、いいや。チャチャッと攻撃態勢をとろう」
。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。
◆視点変更:三人称
ここは町の入口。門番が祈る。
「頼むぞ……」
誰に頼んでいるのか。
町中。
建物の扉は全て閉まっている。
人々は、なるべく大人数で身を寄せ合っているらしい。
それが合理的なのかは、分からないが。
町の外。町の周囲。
遠くに見えるオークの群れを見据えながら、冒険者たちが、臨戦態勢を整えていた。
「オイ……、今回はちょっと多くないか? 多いぞ、多いぞ……やれるか?」
「やるしかない。やらねば、皆、くたばる」
心配の色が広がっていた。
そして、ヤグラの上のノロたち。
ミラッガーの調子も戻ってきたようだ。と思ったら、
「はっ、これは……ままままままさか ままままままぞく マズズズズズイゲホッ。 ノロさん、あのオークたちは頼みます。やっつけたら、西門の方に、駆けつけてください!! マ ズ ク です!」
そう言って、ミラッガーはヤグラから飛び降りた。危ない。
「なに? モズク? 西門ってどっち!?」
と尋ねる私の声は、もう聞こえていない。魔法を使ったのか、ミラッガーは、ふんわり着地して、さっそうと、どこかへ行った。
町の各所。
これと同時期に、ベレッタ、ブドリ、ドルメン、ウグイスたちも、急いで西門に向かっていた。
ヤマトネは、ヤグラの隅っこで、縮こまっている。顔は青ざめている。
多分、オークに襲われる前から、オークに襲われる夢を見ているのだろう。
「ヨシ」
はるか遠くのオークの群れは、いい具合にまとまってきた。
私は、またしても指先に、小豆大の光球を生み出す。それしか遠距離 攻撃魔法を知らないからだ。これでダメなら、あとは投石するしか……
指先で、狙いを定めながら、さらに、エネルギーを加えていって……、今度の光球はビー玉サイズになった。
「弾け散れぇ」
光球を射出した。まーっすぐ、オークの群れにまで飛んでいき、見事、群れのど真ん中に着弾。
「ほっ――!?」
ズドタダドタラダダダガガガゴゴゴゴゴ……
爆破した。その爆風と地震で、私とヤマトネは、ヤグラから放り出された。
「まああああああーー」
おまけに、爆破時の閃光と、爆風による土埃で、視界が効かない、地面が見えない。
スチャッ。
それでも、なんとかカンで無事着地。
「ほほっ……うぎゃらッ」
私の上にヤマトネが着地したらしい。おかげさまで、ヤマトネも軽症だ。
ドサッ。
降ってきたのは、オークの成れの果て、すなわち死骸の一部だ。
「ほとんど、死んだろう」
それを見て、あのオークの群れは、もう壊滅と予想して、言われたとおり、西門に向かうことにした。
「おい! 起きてくれーっ、ヤマトネ! 西門を案内するんだ!」
私は、上に乗っかったヤマトネを、ふんじばるように背負い、駆け出した。
〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓
■要約
・ヤマトネも魔術師ギルドにいた。戦意喪失していた。
・町ガンタウンが、オークという魔物の群れに襲われた。
・ノロが、オークの群れは、壊滅させた。西門へ向かう。




