n001;現実から逃れる
私は、楽な世界に生きたかった。
虚弱体質な私は、生まれたときから原因不明の病の数々に、心身疲れ果てた。
だが、それでも、40手前まで、生きた。もう38歳だ。もう良いだろう――
そんなことを考えながら、ふらりと、家を出た。
車を走らせた。行くアテはない。
ただ、遠くへ、遠くへ、……今とは違う遠くへ行きたかった。
。。。。。。。。。。。
どれほど移動しただろうか。
気づけば私は、高い山の道を、ぐるぐる走っていた。
時は、夕暮れ時。日差しが眩しい。そして、やや眠く、まどろむ。
「ぬっ……!」
大きくカーブする中、こちら目がけて、トラックが突っ込んでくる。
そのトラックは、運転席に座る私を、狙うかのような進路だった。
路端に転がる私の身体。色々と変形してしまった。血だらけだ。
運転席から、投げ出されたらしい。
身体は動かないし、痛みをはじめとした感覚は、とうに失っていた。
視界には、トラックが映っている。果たして、相手さんは大丈夫だったろうか。
(……?)
トラックの側面に印刷された文字が目に留まった。
”異世界トラック”
そう――書かれていた。
私は最近、読み漁っていた異世界転生モノの物語を思い出していた。
あれは、そうだ。よくよく主人公は、トラックに轢かれ死んでいた。
このトラックに印刷された「異世界トラック」という言葉は、まるで、それを皮肉っているような……と、考えすぎなことをしていた。
トラックから、似つかわしくない人が、降りてきた。
(女神様……か?)
女神のコスプレのような、と思わせる女性だった。とても、トラック運送会社のドライバーとは思えない、外見のギャップだった。
白いレースのカーテンを、衣服にしたようなものを、まとっている。のみならず、体形から顔つきから、まるでマネキンのごとく、非現実なプロポーションだった。
その女神風の女が、私を持ち上げた。――なぜ、軽々持ち上げられるのだ?
そして、トラックの荷台の中へ、運ばれた。
リアドア(荷台後部の扉)は閉められた。
トラックの中には、女神モドキと、死にかけの私だけだ。
それから、トラックは動き出した。どこへ向かうのか――
朦朧とする意識の中、女神モドキさんが、私に向けて、祈りを捧げているのが見えた。
段々と現実感は、なくなってゆき、とても眠くなってゆく。そして寝た。
。。。。。。。。。。。。。。
目が覚めた・・・!
私は、生き返ったかのように、意識を取り戻した。
(ここは…………あいかわらずトラックの中か)
辺りを見回して、そこに、女神モドキさんを確認する。
「どうも、ノロさん、お身体の具合はいかがでしょう?」
「あーどうも、お初にお目にかかり……、どちら様で?」
そう答える私の声は、異様に高音だった。
(あれ? 自分はこんな声だったか……? そういえば、最近あまり喋っていないからなぁ。それだけでなく、金属製のトラックの中だから、反響音のせいか)
「はじめまして。ワタクシは、ゴッドマザーと申します」
「ゴッドマザーという名前で? とすると外人さんで?」
「と、言いますか――、ハッキリ申し上げますと、こことは違う世界の『神』をやらせていただいております」
「神? え~と……、つまり教祖さんということで?」
「信じられないのもムリはありませんが、神、と申しました。ただ、この世界ではなく、ある異世界の神です」
「は、はぁ…………」
「まずは、ワタクシの神通力とでも申しましょうか、そんな不思議能力を使って、ノロさんの身体と精神を、元の状態に復元しました」
「ええっと……、ああ、そういえば交通事故に遭って、全身血だらけになった記憶があるのですが。ああ! 貴方が治療してくれたんですか? であれば、治療費を誰が払うかの問題が――」
「いえ、いえ! そうではなくてですね……! ノロさんは、この世界に来たときから、魂は歪み、精神と肉体は不適合を起こしていたのです」
「んーと…………、おっしゃっていることが、よくわかりませんが」
「ご自身の、今の身体を見れば、即、ご理解されるはずなのですが……。なぜ変化に気づかないのでしょう?」
私は、自分の手足を見た。
「どこも痛くありません。こ、これは、いったい……? 傷一つありません。今の医学は、ここまで進歩しているのですか!? ……いや、そんなはずはありません。それならば、私はこんなに苦しむことはなかったです」
相手さん(ゴッドマザー)は、首を傾げて、さらに質問する。
「ノロさん。お聞きしますが、貴方の年齢性別を、思い出してもらって、よろしいでしょうか?」
「え? まだ、ボケてませんよ。…………、歳は38……でしたか? 多分。で、確か男性です」
「それでは、もう一度、お身体をお確認ください」
「んーと…………? 身体が縮んでいるような……。はい、元気です。そういえば、体の具合が、異様に健康です。首こりと肩こりが、綺麗サッパリなくなってます。身体が、軽いです」
「……今のノロさんは、歳は10前後の女性、少女です。もちろん、気づいておりますよね?」
「ん……アレ。私のチンチン、どこへ行ったか知りませんか?」
「現実を受け入れてください」
「え、いや、受け入れてますよ、受け入れてますよ。ただ……え、本当に?」
「本当です」
「その……、なぜ、事故の治療に、性転換手術まで必要だったのですか? 若返り手術は大変にありがたいのですが――え、えェ? ありゃ、ここまでの若返りテクノロジー、どうやったんですか!!?? とても興味があります。是非、教えてください!! これは、これは、本当に凄いことですよ」
「話は戻りますが、ワタクシは異世界の神、ゴッドマザーです。それはウソでも何でもありません。この世界のテクノロジーでは、どうにもならないことも、ワタクシには、可能なのです」
「……………………信じましょう。この、バカみたいなハイ・テクノロジーは、そうでも理由づけなきゃ、ありえない」
「ご理解いただけて幸いです」
。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。
「ワタクシの調べによると、ノロさんは異世界に生きたいと熱望していますね?」
「違う!」
「おや?」
「異世界に生きたいんじゃない。楽な世界に生きたいんだ! そこには雲泥の差がある。厳しい世界じゃない、ハードモードの世界じゃない、ベリーベリーイージーな世界に生きたいんだ~!」
「OKです。大丈夫、望みどおりにしてあげます」
「………………え、叶えてくれるの。本当ですかっ!」
「それがワタクシの目的です」
「んん……、怪しくはないですか? 私に良い思いをさせて、貴方に得はありますか?」
「ノロさんだけではありません。ここ、世界モルモットをはじめてとして、苦しんでいる異世界の生物を、今よりマシな世界に逐一移動させているのです」
「ほほ……? 世界モルモット?」
「この世界は、俗にモルモットと呼ばれております。ここの神様が今では生物を実験動物のように扱っているからです」
「え……そうなの? というより、この世界にも神様、本当にいたの? 本当?」
「ここの神は、もう数千年も姿を現しておりませんので…… 昔は凄かったんですよ、ここの神は。とくに、自然法則のバランス調整が絶妙でした。そのために、ほとんど自動化できているらしいです。が、一方、争いを高みの見物するのが趣味という……、良くない傾向がありまして」
「そんな世界は、早く、おさらばしたいな。ゴッドマザー、貴方の世界は、どんな感じです?」
「私が管理するのは、世界ファンタジア。ノロさんには、ファンタジーゲーム的世界といえば、一発で伝わるでしょうか。……と、言いますか逆です。ファンタジーゲームが、世界ファンタジアの影響を、潜在的に受けて作られたのだと思っております」
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■要約
・事故死したかもしれない。
・世界ファンタジアの女神ゴッドマザーと話し込む。
・ノロは本来の姿に修復される。
・この世界から、異世界へ行くことに。
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今まで書いてきた(そしてボツになった)異世界転生モノを下地に、冒険物語を作ってゆきます。
当作者は遅筆のため、のんびりゆっくりな、更新スピードです。現在9話目を執筆中...




