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恋人はオネェさん

作者: えりー
掲載日:2017/09/20

井上七海には憧れている先輩がいる。

いつも、人に囲まれた楽しそうに笑っている先輩。

(気のせいだろうか、少し無理をしているようにも見える)

七海は何故かそう思っていた。

今は遠くから盗み見ているがいずれ告白するつもりでいた。

それなのにある日突然、下駄箱に手紙が入っていた。

手紙の主は拓真だった。

拓真の手紙には明日の放課後校舎裏に来て欲しいという内容が書かれていた。

七海は信じられなくて、驚いた。

そして嬉しくもあった。

翌日ドキドキしながら彼の待つ校舎裏へ向かった。

校舎裏には滅多に人が来ない。

「やっぱり・・・告白かな?」

(そうだと良いな)

そう思うといてもたっても居られなくなった。

少し足早になってしまう。

校舎裏に行くと拓真が既に来ていた。

「あの・・・拓真先輩」

「ああ、良かった振られたかと思った」

「え?」

「前から可愛いなと思っていたので付き合ってください」

(やっぱり告白だー!!)

「はい!私も以前から拓真先輩の事好きでした。

拓真は七海に手を差し出した。

「これから宜しく」

「こちらこそよろしくお願いします」

「七海ちゃんって呼んでいい?」

「俺の事は拓真で良いから」

「はい」

こうして2人は付き合うことになった。

拓真はいつも優しかった。


「七海ちゃんって身長何cm?」

「154cmです」

「可愛いね」

「俺は176cmもあるから・・・」

何故か先輩は落ち込んだ。

「いいじゃないですか!男の人は身長高い方が良いですよ」

「普通の男の人の場合はね」

「?」

(拓真は普通の男の人じゃないって事?)

「付き合ってもう1ヶ月経ったよね」

「はい」

「そろそろ先に進んでも良いと思うんだ。もし嫌ならその場で振ってくれて構わないから」

(そろそろ先にって・・・まさか・・・)

「ちょうど今日うちに人がいないんだ」

少し不安そうに拓真は言った。

「・・・い、行きます」

七海は顔を真っ赤にしてそう答えた。

(今日、一線を越えちゃうの!?)

七海はこっそりと自分のブラを確認した。

(うん。上下ちゃんとセットのものを身につけている!)

そして、拓真の家に着いた。

「遠慮しないで上がって」

「はい、お邪魔します」

階段を登り二階へ行くとシンプルな部屋に通された。

「ここが俺の部屋」

「・・・き、綺麗にしているんですね」

「そうでもないよ。いつもはもっと散らかっているよ」

「準備してくるから少し待っていてくれないか?」

「はい」

(準備!?)

拓真は一体何の準備をしているのだろうか。

気になったが大人しく待つことにした。

暫くすると、凄い美人のお姉さんが部屋に飲み物を持ってきてくれた。

ロングヘアで薄く化粧をしていて女の自分ですら見惚れてしまう。

(先輩のお姉さんかな)

「初めまして。私、拓真さんとお付き合いさせて頂いている井上七海といいます」

「この姿で会うのは初めてだから、初めましてで会っているわね」

声は少しハスキーボイスだった。

「え?どこかでお会いしましたっけ?」

(こんな美人一度見たら絶対に忘れない)

「私よ、拓真よ」

「えぇ!?・・・信じられません。からかってますか?」

「しょうがないわねぇ」

そう言って拓真はウィッグをとった。

すると本当に拓真だった。

「え・・・どういう事ですか?」

「私は家では女装しているの」

「どうして?」

「女装が好きだからよ。・・・気持ち悪い?」

また拓真は不安そうにしている。

(ある意味一線を越えてしまった・・・)

「・・・」

七海は不思議と嫌悪感を抱かなかった。

むしろ女装が似合いすぎていて違和感がなかった。

「わ、私は女装趣味でも拓真が好き!」

「七海ちゃん・・・」

拓真はほっとしたように七海の名を呼び、七海を抱きしめた。

「私、本当は男の人にしか惹かれないのに何故か七海ちゃんを好きになったの」

「え?ゲイなんですか?」

「そうよ」

きっぱり告げられ七海は驚いた。

「どうして私を好きになったんですか?」

「七海ちゃんいつも影から私の事見ていたでしょう?」

「・・・!」

(バレてた!!)

「それで気になっちゃって。気がついたら可愛いなと思いだして、気がついたら好きになっていたのよ」

(ゲイじゃない!拓真はバイだ)

「それで七海ちゃんこの姿の私も受け入れてくれる?」

「も、もちろんです!こんな事で私の気持ちは変わりません」

そっと拓真の背に手を回した。

拓真の心臓はドキドキしていた。

カミングアウトするのにはさぞ勇気がいったことだろう。

それなのに私にその秘密を教えてくれた。

拓真の勇気のある行動に心を打たれた。

「拓真はその姿で外に出た事あるんですか?」

「無いわ」

「どうして?」

「だって怖いもの」

拓真でも怖いことってあるんだ。

「じゃぁ、今週の土曜日に女装してデートしませんか?」

「本気なの!?七海ちゃん?」

「はい。せっかくそんなに綺麗なのにもったいないです」

そして週末女装でデートすることになった。

拓真とデートの待ち合わせは駅にした。

駅の改札口で待ち合わせをしていたが拓真が来ない。

携帯も繋がらない。

ふとざわついている場所に視線を向けるとそこには女装した拓真がたくさんの男性に声をかけられていた。

(拓真・・・ナンパされている)

拓真は必死に断り続けていた。

今日の拓真の恰好OL風の服装だった。

パステルカラーが良く似合っていた。

それに比べ、自分は何て貧相なんだろうとも思った。

しかしこればかりは仕方ない。

いきなり大人っぽくなんてなれないし、似合わない服を着るより似合う服を着た方が良い。

今日の七海の服はフリルが少しついている甘めの服だった。

背が低いので大人っぽい服が似合わないのだ。

(ナンパしている人たち諦め悪いなぁ)

そう思い七海は拓真の元へ行った。

「もう!迷惑しているじゃない。ナンパなんてやめなよ」

「七海ちゃん・・・!」

「うるせぇ、おチビちゃんには用はないんだよ」

七海はドンっと突き飛ばされた。

「きゃっ!」

「・・・大人しくしていれば調子に乗って・・・」

拓真はそう言うと七海を突き飛ばした男の胸ぐらを掴み睨んだ。

「私、先約があるの。邪魔しないでくださいね」

そう言い拓真は笑顔で男を離した。

拓真を囲んでいた男たちは散り散りに去って行った。

「七海ちゃん大丈夫だった!?」

「怪我はないですよ。すこしよろけただけです」

「良かったわぁ・・・。急に飛び出してくるんだもの」

「だって拓真が困っていると思ったから」

「ありがとう」

そう言うと七海の頬にキスをした。

七海は真っ赤になりキスされた方の頬を押さえた。

拓真は間近で見ても綺麗だった。

やっぱり本物の女性より綺麗だ。

「ねぇ、その恰好の時の呼び名を決めませんか?」

「呼び名?」

「はい、その恰好で拓真は・・・似合いません」

「じゃあ、まことって呼んで?」

「はい。わかりました」

七海は改めてまことを見た。

(これで男の人なんて信じられない)

「まこと、どこか行きたい場所ってある?」

「言っても引かない?」

「大丈夫ですよ」

「可愛い下着が欲しいの。でも店には入りずらくって・・・」

そっと耳打ちされ一瞬ときめいてしまった。

また顔を真っ赤にしていると心配そうにまことが覗き込んできた。

「どうしたの?顔が真っ赤よ?」

「な、何でもないんです!下着屋に行きましょう!」

まことの手を取り、七海は歩き始めた。

何の躊躇いもなく繋がれた手がまことにとっては嬉しかった。

まことは七海の手を握り返した。

七海は少し緊張しているのか手に汗をかいていた。

さっき本当は怖いのに助けに来てくれたことがうかがえた。

そんな七海だからきっと好きになったのだろう。

本当は男の人の方が好きなはずなのに何故七海を好きになってしまったのか、考えても分からないことだった。

下着屋に着くとまことは目を輝かせていた。

「わぁ、可愛い!!」

「まこと、サイズは分かりますか?」

「うん。自分で測ってきたから」

そう言うと数着のブラを躊躇いなく買い物かごへ入れていった。

七海はぽかーんっとその様子を眺めていた。

「七海ちゃんは買わないの?」

「わ、私はいいです」

「じゃぁ、お礼に一つ買ってあげる」

「え!?」

「店員さんこの子のサイズ測ってください」

まことは店員を呼び七海のサイズを図った。

そして七海に似合いそうなブラとショーツを選び始めた。

「これにしよう」

「えぇ!?」

どうやら、まことは本当に買う気らしい。

レジにすぐに行き、会計を済ませた。

七海の分だけラッピングしてもらっているようだった。

「はい、七海ちゃん」

そう言いブラとショーツのセットを渡された。

「あ、ありがとうございます」

七海はラッピングされた下着を受け取った。

それから2人で昼食を取り、お茶をして家路についた。

「今日は楽しかったです」

「私もよ。大好きよ七海ちゃん」

今度は唇にキスをされた。

周囲の人達から注目を浴びている。

レズだ・・・という声が聞こえたがあえて気にしないふりをした。

だってまことは男の人だもの。

オネェってだけで。

恋人同士らしくてこういう別れ方も悪くないと思った。

「それじゃあ、次会う時は拓真ですね」

「ええ。それじゃ、学校でね」

月曜日。七海が学校へ行くと校門のところで拓真が立っていた。

「拓真、早く教室行かないと予鈴が鳴りますよ」

「いや、ちょっとまずいことになっていて入りにくい」

「?」

「掲示板見て来てみて」

「掲示板ですか?」

掲示板にはまことの写真が張ってあり情報望むっと書かれていた。

写真はいつとられたものかは分からないがどう見てもまことの写真だった。

「掲示板を見てきました。化粧していてよかったですね」

「そうじゃない!もしバレたら俺の学園生活が終わってしまう・・・」

「もういっそカミングアウトできればいいのに・・・」

その言葉を聞き拓真は青ざめた。

「それは絶対駄目だ・・・迫害される」

「考えすぎですよ。案外受け入れてもらえるかもしれませんよ?」

「・・・昔、姉のスカートをはいて外に出た事があるんだが、その日から酷いいじめにあったんだ」

「そうなんですか!?すみません。軽く考えていました」

「いいよ。七海は何も知らなかったんだから」

「・・・」

何故か突き放されたような気分になった。

重たい沈黙が落ちる。

「・・・ここでこうしていても仕方ないか・・・」

「拓真、行きましょう」

「そうだな」

拓真は掲示板を見ないようにし、靴箱のところまで七海に手を引かれながら行った。

「ほら、バレなかったじゃないですか」

「ああ。ありがとう、七海」

「?」

(何故お礼を言われているのだろうか・・・?)

「1人だと昔のトラウマを思い出してなかなか学校に入れなかったんだ」

「そうだったんですか」

「七海がいてくれて本当に助かったよ」

そう言い、七海の手を強く握りしめた。

拓真は七海が思っている以上にトラウマを抱えているようだった。

「教室には1人で入れそうですか?」

「何とかね」

「すみません、私が女装デートさせてしまったせいで・・・」

「七海のせいじゃないよ。気にしないで」

そう言うと3年の教室のある3階へ登って行った。

(拓真・・・大丈夫かな?)

急に拓真の事が心配になった。

しかし、こればかりは本人の問題なので手出しできない。

七海は初めは驚いたが特に偏見を持たなかった。

むしろずっと女装でいて欲しいくらいだ。

七海はまことといる方が気楽でいい。

友人のいない七海にはまことといる方も友人が出来たみたいで嬉しかった。

恋人と親友が同一人物なのは誰にも内緒だが。

拓真が無理して笑っているように見えたのはきっと本当の自分を出せないからなのだ。

だからといって本当の自分を出すわけにはいかないだろう。

女装好きでゲイで・・・何てことが知れたら皆、距離を置くだろう。

だから、拓真の秘密を知っている自分は拓真にとって特別な存在なのだろうと思った。

そう思うと七海は少し嬉しくなった。

何としても掲示板に写真を張った人物から拓真を守りたいと思うようになっていた。

拓真にとって学校は箱庭のように感じられた。

皆、本当の自分を知らないくせに仲良くしたがる。

「本当の俺を知れば皆俺から離れていくだろうな・・・」

拓真は階段を登りながら自嘲気味に笑った。

教室に入ると皆が集まってくる。

「おはよう、拓真!」

「おはよ。拓真君」

「おはよう、皆」

拓真は勉強もでき運動もできる。

陽気な性格なので友人も多い。

「拓真君、今朝の掲示板見た?」

「・・・いや、見てないな」

「もったいない!すっごい美人だったわね」

「俺も見た。綺麗だったよな・・・あんな彼女が欲しい」

その話題をふられ、ドキリとした。

拓真は何気に話題を逸らした。

「それよりもうすぐ授業が始まるぞ」

「やべぇ・・・!俺宿題忘れた」

「俺もだ」

「今日は小テストがあるらしいぞ」

「「げー・・・」」

一同声を揃えて不満を漏らした。

そうしているうちに先生が教室に入ってきた。

拓真はほっとした。

授業が始まり、終わりに近づいてきたとき拓真は先生に言った。

「先生、気分が悪いから保健室行ってもいいですか?」

「ああ、大丈夫か?保健委員に付き添ってもらうか?」

「いえ、1人で行けます」

「そうか、気をつけてな」

「はい」

そう言い拓真は教室を後にした。

そして掲示板の前までやって来た。

掲示板には自分の女装写真がまだ張られていた。

拓真はその写真を取り、ポケットに入れた。

(一体誰がこんな事を・・・)

拓真はポケットに入れた写真を無意識のうちに握りつぶしていた。

昼休みになり屋上で七海と昼食の約束をしていた拓真は屋上に向かった。

今日は七海の手作りのお弁当だ。

「今日は何かな・・・」

そう思いながら階段を上がっていくと七海の姿が見えた。

七海は数人の女子に囲まれていて、何か言われていた。

女子たちは七海を突き飛ばし、屋上から去ろうとした。

そこに鉢合わせしてしまった拓真は言った。

「お前ら七海に何をしていたんだ?」

「べ、別に何も・・・」

彼女たちはしどろもどろになりながら階段を駆け下りていった。

尻もちをついた七海に拓真は手を差し伸べた。

「大丈夫?何があった?」

「私が拓真と付き合っていることが許せないんだって」

「今までにもこういうことがあったのか?」

「・・・嫌がらせは毎日だよ」

その言葉を聞いて拓真は驚いた。

「どうして話してくれなかったんだ?」

「・・・拓真に迷惑がかかるかもしれなかったから」

「俺たち付き合っているんだぞ!?相談くらいしてくれてもいいだろう!」

「・・・ありがとうございます」

「でも、相談できない気持ちも分かる・・・」

「え?」

「俺も同じような時があって誰にも相談できなかったからな」

悲しげな顔で拓真はそう話した。

その顔を見ていた七海は胸が痛んだ。

「この話はここまでにしましょう。お弁当食べる時間が無くなってしまうから」

「そうだな」

そう言い、2人は昼食を食べ始めた。

「今日も七海の弁当は美味いな」

「ありがとうございます。たくさん食べてくださいね」

2人の間にようやく穏やかな空気が流れ始めた。

暫く外でデートをすることを控えることにした拓真と七海は拓真の家でデートすることにした。

拓真は色々な服を持っていた。

サイズも様々できっと幼い頃から女装をしてきたのだろうと思った。

まるでコレクションでも見せるかのように嬉しそうに洋服を見せてくれた。

拓真は1人暮らしで両親は海外に赴任中らしい。

家には2人きり。

七海は拓真と2人きりだと落ち着かないのでまことに変装してもらうことにした。

「ねぇ、拓真。まことになってくれませんか?」

「どうして?」

「男の人の部屋で2人きりって緊張するから」

そう言うとクスリと笑われた。

「分かった。着替えてくる」

「ありがとう」

「その代り、この服を着て欲しい」

そう言って差し出された服は白のフリフリのレースがいっぱいついたゴスロリ系の服だった。

「えぇ!!?」

「じゃぁ、楽しみにしているから」

そう言って拓真は脱衣所の方へ向かった。

(どうしよう、きっとこんな服似合わない)

でも、拓真の願いだ。

聞き入れたい。

そう思い勇気を出してその服に袖を通した。

その服は七海にぴったりなサイズだった。

姿見で全身を見てみると・・・意外と似合っていた。

(でも、恥ずかしい)

その時ノックの音が聞こえた。

「七海ちゃん着替え終わった?」

「はい」

カチャっとドアが開き、まことが入ってきた。

「・・・どうでしょうか?」

「きゃぁ!可愛いわ!!写メ撮っていい!?」

「やめてください!!」

真っ赤になりながら断った。

(ただでさえ恥ずかしいのにこんな格好もし何かの手違いで人に見られたりしたら恥ずかしい!)

「え~・・・せっかく可愛いのにぃ」

「駄目なものはダメです!」

今日のまことの服装はゴスロリ系だった。

2人で並ぶと恥ずかしさが半減される。

きっとその為にまことは自分の服もゴスロリ系にしてくれたのだろう。

「あの、前から気になってたことなんですけど・・・」

「なぁに?」

「私達、付き合って1ヶ月は過ぎていますよね?」

「ええ」

「その・・・私に欲情したりできないんですか?やっぱり男の人の方が良いんですか?」

キスもまだの2人だった。

「欲情?いつもしてるけど?」

「へ?」

「怖がらせたくなくて手が出せなかったの」

「そうなんですか」

「そうねぇ、スキンシップ不足かもしれないわねぇ」

そう言うとまことはベッドに腰かけ自分の膝の上に七海を乗せた。

七海は驚いてジタバタした。

「暴れちゃ駄目よぅ。危ないでしょ」

そう窘められ七海はちょこんと身を硬くしてまことの膝の上に大人しく座った。

ふとまことと目が合った。

まことの綺麗な顔が近づいてきた。

次の瞬間唇にまことの唇が触れた。

初めは触れるだけのキスだったのに徐々に激しいキスに変わっていった。

舌と舌が絡まり、思い切り舌を吸われた。

「んんぅ!はぁ、ん」

ようやく唇が離れるとまことは嬉しそうにしていた。

「七海ちゃんって本当に可愛いわぁ」

息も絶え絶えな七海にそんな事を言ってくる。

「どうして、いきなりキスなんて・・・」

「いきなりじゃないわよ」

「?」

「いつも七海ちゃんの事考えながらしてるんだから」

「え?何を?」

「七海ちゃんには刺激が強すぎるから言わない」

そう言い妖しげな笑みを浮かべた。

七海とまことは1つしか歳は変わらない。

しかし経験の差は大きく違う。

さっきのキスも手馴れていたしきっと経験が豊富なんだろう。

それはそうか。

(拓真は学校で人気者だもの)

私以外の人とももちろん付き合った事があるだろう。

そう思うと胸がもやもやしてきた。

「・・・」

「どうしたの?難しい顔をして。せっかく可愛い服着ているんだから笑って?」

そう言われ微笑まれてしまった。

「結局、あの掲示板の犯人は誰だったんでしょうか?」

「さぁ?私には見当がつかないわ」

2人はお茶を飲みながら話し始めた。

「暫くは女装して外に出ない方がいいのかしら?」

「逆に犯人を刺激して捕まえてみませんか?」

「犯人を?」

「はい」

「そうよねぇ、ずっとお部屋デートっていうのもつまらないものね」

「そうですよね!」

「明日は日曜日ですしまた駅で待ち合わせしませんか」

七海は提案をした。

「でも七海ちゃんに危険が及ばないかしら」

「大丈夫ですよ。私、護身術とかやっていますから強いですよ?」

「そんなに小さな体で!?」

「だからですよ。小さい頃、誘拐されそうになった事があってそれから習い始めたんです」

「それなら心強いわね」

「はい」

こうして明日は女装でデートすることになった。

(犯人を何としても捕まえたい!)

そう意気込む七海にまことはまたキスをしてきた。

「何で、またキスなんて・・・」

真っ赤になりながら言うとまことはただ微笑むだけだった。

その笑みがあまりにも美しくて七海はそれ以上何も言えなくなった。


日曜日、待ち合わせの駅に今回も先に着いてしまった。

七海は駅の柱に寄りかかりまことを待っていた。

まことはまたたくさんの注目を受けながらやって来た。

「少し遅れてしまってごめんなさい」

「またナンパされていたんですか」

「ええ。困ったものだわ」

そこに2人組の男性が現れた。

「ちょうどそっちも2人なら、俺たちと一緒に遊ばない?」

はぁ、っとまことは短くため息をついた。

「七海ちゃんごめんね」

「へ?」

まことにいきなりキスをされた。

「私達、男には興味ないの。ごめんなさいね」

それを見ていた2人組はポカーンっとしていた。

2人組はそれ以上何も言ってこなかった。

七海とまことは急いでその場を後にした。

七海は人前でキスされて真っ赤になっていた。

「ごめんねぇ、あんまりしつこかったから」

「・・・」

「七海ちゃん?」

七海は涙目になっていた。

「あぁ、泣かないで!!本当にごめんなさい」

「大丈夫です、ちょっとびっくりしただけですから」

七海はそう答えた。

しかし、まことは狼狽えている。

「ちょっと飲み物買ってくるから待っててね」

まことは居たたまれなくなった。

(人前でキスされるのは困るけどあの場合なら仕方ないよね)

そう自分に言い聞かせた。

しつこくナンパされるくらいまことは魅力的だ。

まことがタピオカ入りの飲み物を買って戻ってきた。

「お帰り、まこと。変わったことはなかった?」

まことは飲み物を七海に渡すと小声で言った。

「さっきから視線を感じるの」

「え!?もしかして犯人!?」

「多分。シャッター音も聞こえたし、また盗撮されているみたい」

「えぇ!?簡単に引っかかりましたね」

「そうね」

「これからは危険かもしれないから単独行動は控えましょう」

「はい」

そう答え、七海は頷いた。

「危険なのはまことの方じゃないんですか?」

「私は男だから大丈夫よ」

「ああ、そうだった。あんまり綺麗だから女性と思い込んでいました」

「学校ではちゃんと男でしょ」

「はい、うまく溶け込んでいますね」

そう言うとまことは少し寂しそうな表情になった。

「皆、私の趣味を知らないから仲良くできるのよ」

「私は例外ですか?」

「そうね、七海ちゃんなら受け入れてくれるような気がして」

「そう言えば全然、抵抗感も嫌悪感もありませんでした」

「ふふふ。ありがとう。その言葉で私がどれだけ救われているか知らないでしょう?」

「?」

七海は小首を傾げた。

「いいの、こっちの話だから」

「まこと、後ろから誰かがつけてきています」

「どうします?迎え撃ちますか?」

「こら、女の子が物騒なこと言わないの!」

人気のない公園へと2人はやって来た。

もちろん犯人を捕まえるためだ。

2人は一斉に振り返り犯人を追いかけ始めた。

犯人の後姿は小太りの学生っぽかった。

七海はどこかで見た事があるが思い出せない。

七海はまことを追い抜き、犯人の襟首をつかんだ。

犯人は後ろに倒れ込んだ。

犯人の正体はー・・・七海と同じクラスで写真部所属の男子だった。

「どうして、まことの写真を撮るの!?渡辺君?」

やっと追いついたまことは七海の新しい一面を見た。

這って逃げようとする渡辺の手の甲を足で踏みつけて、デジタルカメラを回収した。

「もう、まことの事放っておいてくれないかな」

七海は低い声音でそう言った。

すると気の弱い渡辺は頷いた。

「でも何でこんな事をしたの?」

「そこに、いる女性に一目惚れしたから・・・写真と情報が欲しかったんだ」

やっぱりそう言う事か。

渡辺はまことに惚れていたのだ。

大体予想はしていたが、面と向かって言われると対応に困る。

七海が困っていると、追いついたまことが言った。

「掲示板に写真を張ったのも貴方ね?ああいうことされるととても迷惑なの」

凄みのある笑顔だった。

「それに私にはもう恋人がいるから貴方の気持ちは受け取れないわ」

「・・・」

「デジカメ返せよ」

「嫌よ。データを全て今ここで消したら返してあげるわ」

「言う通りにすればクラスの人や先生にストーカー行為をしていた事黙っていてあげる」

そう言うと慌てて全てのデータを消去し始めた。

カメラに何も残っていないことを確認すると七海は襟首から手を離した。

すると渡辺はカメラを七海から取り返し走り去って行った。

「七海ちゃん・・・惚れ直したわ」

「暴力的で嫌いにならなかったですか?」

「全然!!かっこよかったわ」

うっとりしながらそう言った。

その表情は恍惚としていた。


翌日、渡辺は学校を休んだ。

その事を拓真に告げると拓真は言った。

「そりゃ、自分がしていた事を考えると学校に来づらいだろう」

「そうですよね」

「でもまさか自分が拓真に一目惚れしたなんて思っていないでしょうね」

「ははは、そうだな」

「私はどっちの拓真も好きです」

「最高の誉め言葉だな」

「拓真を好きになったのはいつも無理しているように見えて放っておけないなと思ったのがきっかけだったの」

「顔に出ていたか?」

「うーん・・・そう言う雰囲気があったというか・・・」

「そう言えばまだ他の女子に嫌がらせされているのか?」

「いいえ。返り討ちにしておいたからもう嫌がらせはされていないですよ」

「そ、そうか」

拓真は七海の意外な面も好きになっていた。

しかし七海は小さい体で逞しい。

普通はいじめにあったら彼氏に泣きついてくるものじゃないのだろうか・・・。

自分の出番が全くなかったことに少しがっかりした。

だが、拓真から見ると七海は何をしていても可愛い。

ちまちま動くかと思えばそうではなかった。

物凄いスピードで動く。

小動物を思わせる外見とは裏腹に獰猛な生き物のようにみえるときもある。

そんな七海に拓真はメロメロになっていた。

でも、ちゃんと女の子らしいところもある。

七海の手作り弁当は美味いし、七海はよく気が利く。

拓真の事も全て受け入れてくれている。

キスするとき真っ赤になって照れる姿も愛らしい。

それ以上の事をしたら七海はどうするのだろうか?

投げ飛ばされたりされそうだ。

それは急がなくても大丈夫。

自分たちは学生で時間はいくらでもある。

焦る必要はない。

これからゆっくり時間をかけて付き合っていきたいと拓真は思った。

七海は不安になればすぐに言ってくるだろうから、その時に抱けばいい。

今はまだこの関係を楽しみたいと思う拓真だった。

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