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屋上オブセッション   作者: 藤崎莉子
莉子の回想
9/13

再会 その二

「でも、それなら私はどうすればいいんですか? あなたのようにあのビルから飛び降りろとでも?」

「さあ。あれは単に運が良かっただけですからね。自分でも生きているのが不思議なくらいです。それに、同じ手が二度通用するとも思えない。僕は今、頭痛の方はすっかり良くなって、飛び降りた時も酒に酔っていたから事故として処理されましたけど、あなたの場合は……」

 暫くの間、沈黙が続きました。三分ほど経った時、白澤さんはおもむろに口を開きました。

「……それで、いつなんですか。あなたが死んでしまうのは」

「成人式です。一月九日」

「最悪だ。本当に申し訳ない。で、式には出るんですか?」

「まあ、出たいですけど――」

「出るべきです。それまでに僕がなんとかできたらいいんですけど……とにかく、今あなたに憑いている『何か』は、おそらく乗り移った相手を死に引きずり込もうとするはずです。僕の場合は、占い師のおかげでその時が来る前に自分から飛び降りてしまったんですが、その『何か』は僕が死んだと思ったのかもしれません。あれは、乗っ取った相手の身体が死んだと判断すれば、剥がれ落ちるみたいです。だから、九日までに何かしら手を打てば、何とかなる可能性はあります」

「手を打つと言われても……」

 一体何をすればいいのか、まるで思いつきませんでした。


 そこから私たちは場所をファミレスに移してあれこれ考えましたが、最後まで良い案が出ることはなく、結局連絡先を交換して家に帰ることになりました。

 帰り道、私は色々と考えを巡らせました。過去に自分がしでかしたこと、悦子のこと、そしてこれから先の事。十二歳の時、私は自分が死んでもいいと本気で考えていました。しかしあの日の放課後、学校の屋上で悦子の存在を知り、自分を排除する必要がなくなりました。

 彼女と会って話をするまでは、生きていなければと思ったのです。そして半年後、私は悦子と同じクラスになり、彼女は私の存在を否定しませんでした。まさか今でも友達でいられるなんて、当時は思ってもみませんでした。しかしそれが、もうすぐ崩れようとしているわけです。非現実的な死によって。

 誰よりも死ぬことに怯え、独りでも、二人でもどうすることもできないとわかった瞬間、絶望感に襲われました。私は泣きながら家に帰りました。

 家に帰っても、私はろくに家族と目を合わせることができませんでした。父、母、妹、特別仲が良かったわけでもないのですが、どうしてもまともに顔を合わせる気にはなれませんでした。特に高校生の妹とは喧嘩ばかりで、最近では口を利くのもめんどくさいと思い始めていたくらいです。

「こんな時間までどこに行ってたの?」

 夕飯の支度をしながら、母が私に声を掛けました。

「と、友達と会ってた」

 私はそれだけ言うと二階の自分の部屋に駆け上がりました。部屋の中は綺麗に整理整頓されていて、妙な寂しさを覚えました。自分がもしこの世から消えたとしたら、母はこの部屋をそのまま残しておくのか、はたまた物置にしてしまうのか、そんなことをぼんやり考えていると、不意にまた涙がせり上がってきました。そしてほぼ同時に頭痛もしだしたので、私は気を紛らわそうと悦子に電話を掛けました。

 悦子はまだ東京にいるようで、成人式には出る予定でしたが、今作っている作品を切りのいいところまで作り上げてから帰るとのことでした。

 その成人式の日が、悦子と会う最後の日になるに違いない。私は電話をしながらぼんやりとそう思い、また絶望しました。

 ――その日まで、あと六日。

 階段の下から、母が私を呼ぶ声がしていました。


次回、『莉子の回想』が完結します。

二章目では、大変短いですが『悦子の日記』を載せる予定です。

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