悦子の手記 その一
【一月十五日(日)】
莉子のお見舞いに行ってきた。最近ばたばたしていて全く日記が書けていなかった。こんな時だからこそ、書いておかなくては。
一月十日、莉子が交通事故にあった。私が抱いていた違和感や不吉な予感と関係があったのだろうか?
事故の前日、直前になって成人式には出ないという連絡があった。私は、何とかして事情を聞き出そうとしたが、彼女は一向に口を割らなかった。その時は、かつての同級生と再会するのが嫌なのではないかと思ったが、実際はどうなのかわからない。ただ、何かがおかしかった。
病院で事故のことも尋ねてみたが、本人は何も覚えていないと言う。しかしその日を境に、私の莉子に対する違和感や不吉な予感は完全に消えてしまった。まるで、何か悪いものが剥がれ落ちたかのように。
幸い怪我の回復は順調で、特別な治療も必要なさそうだ。
なんだか凄く疲れた。今日はもう寝よう。
【一月十六日(月)】
平凡な一日だった。いつも通り起床、いつも通り登校。何もかもいつも通り。何か一つ変わった点を挙げるとしたら、登校中に上野公園で怪しい占い師にまとわりつかれている女の子を助けたということくらい。営業妨害だっただろうか。でも、なんだか放っておいたら、絶対に良くない気がした。
【一月十七日(火)】
今日は特に書くことがない。なので記憶の整理をしようと思う。
莉子が事故に遭う数日前、私はとある廃ビルの屋上で彼女と会っていた。この日から彼女が事故に遭うまで、私達は顔を合わせていない。私は東京から木更津に帰る時、電車の中で莉子に電話を掛けたのだが、彼女が電話に出ることはなかった。この時、また不吉な予感がしたことを覚えている。
駅に着いて、気まぐれに周辺を歩いていると、一羽の鳶が私の頭上をすーっと飛び去った。目で追ってみると、少し離れた建物の上を旋回し始めた。
私の頭の中に、ある記憶が甦った。確か莉子は、こっそり鳶に餌付けをしていたはずだ。過去に、野生動物だからほどほどにするようにと注意した記憶がある。あの時彼女は「時期が来たらやめる」と言って肩を竦めたのだ。そういえばあの言葉はどういう意味だったのだろう?
とにかく、私はその鳶を追った。そして見事に莉子の居場所を突き止めたのだ。
彼女は廃ビルの屋上からこちらを見下ろしていた。その時、妙な既視感を覚えた。単なるデジャヴというものだろうか? それとも、私は過去に同じような状況に遭遇しているのだろうか? 思い出せないが、なんとなく私は莉子にそこから降りてもらいたかった。
彼女がらせん階段を下って私のところまで来ると、その既視感は消えた。しかし、彼女にまとわりつく違和感は、私の中に残ったままだった。
あの既視感と違和感……。何か繋がりがあるような気がする。何だろうか?




