プロローグ 『世界最後の日』
――その日もいつもと代わり映えのない朝だった。
都心のワンルームマンション。低血圧な青年は朝が苦手だった。それでも仕事をしなければいけない人間社会に生まれた呪縛――もとい責任を果たすべく、鳴り止まない目覚まし時計をせめてもの仇と叩き黙らせる。眠気を飛ばすため朝日を部屋へ導こうとカーテンを開ける。
――当たり前のように訪れ、当たり前のように過ぎ去る一日のはずだった。
砂漠で生きる少年は起きてすぐ水瓶を取りにいく。井戸から水を汲むためだ。毎朝憂鬱な作業だが、生きるにはやるしかない。そういえば今日は露店が来る日か。思い出し歩みが軽くなる。頼み込めば本一冊くらい買えるかもしれない。そんなことを考えながら扉を開けた。
――世界で唯一誰にも平等で、だからこそつまらなくて、退屈と切って捨てていた日常。
テントで目覚めた冒険家は妙な地響きに目を覚ました。ここは北極、まさか直下の氷が割れたか? ゾッとするがありえないことじゃない。逃げ遅れればあっという間に氷の隙間に落ちてしまう。最低限の荷物を抱え、慌てて飛び出した。
――太陽が昇り、沈む。その間に少しずつ進んできた歴史。これからも続く営み。
ドのつく田舎で猟師は目を覚ます。真っ先に思い浮かんだのは、最近になってやっと家族になれた養子の少年だ。実の娘でないことに苦笑してしまう。妻に聞くと朝早くにライ麦パンを食べて出かけたらしい。最近娘と仲が良すぎること以外、息子が欲しかった猟師にとって、元気なことは喜ばしい。四肢に活力がみなぎる。狩猟道具を持ち自分の家族を養うため家を出た。
――でもその常識は見事に打ち砕かれることになる。
地下鉄の通路で寝ていたホームレスが妙なざわめきに目を覚ます。まだ始発前なのか、ラッシュ時は人であふれる通路も閑散としている。こういう時決まって来るのが自分を追い出そうとする不動産管理会社の職員の巡回なのだが、どうも違う気がした。フラフラとした足取りで地上へ続く階段を上る。
――人が築いてきた歴史は、一日で潰されるものなのだと、思い知らされることになる。
外を見た瞬間、巨大な獣と目が合った。
同時に、奴らを中心に荒れ狂う暴風・火炎・雷光が、自分たちの日常を徹底的に破壊する光景を目の当たりにした。中には物以外も含まれている。見知らぬ他人、よく目にする知人、家族が、『者』から『物』へと変わり動かなくなっていく。
誰かの悲鳴があがった。
獣の咆哮が重なった。
災害の破壊音がかき消した。
それは地獄の三重奏。世界が最後に奏でる鎮魂曲のように、いつまでも響き続ける。
それは後に大粛清――『星の大粛清』と呼ばれた、未曾有の大災害。
同時多発的に発生した災害を呼ぶ獣との、長きに渡る戦いの序章。
土地を失い、人を失い、それ以上の行方不明者を出しながら、人類が『一時的な避難』として高層要塞都市――バビロンに引き込むことを余儀なくする原因となる。
そうして、その『一時的』がいまも続く、絶望的な戦争の狼煙だった。
ローファンタジーというカテゴリーでいいのかわかりませんが、そのつもりで新作投稿してみます!
とりあえず日刊予定で頑張ります♪
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