『PKとスイカとUFO』 くろん
「くぅー、PK戦にまでもつれ込んじゃったなぁ」
女子サッカーの練習試合。練習試合なのに延長戦あるし、PKまであるなんておかしいけど、試合だから勝ちたい気持ちは変わらない。
「……で、ゆーちゃんはなにしてるの?」
あたしの視線の先にはゆーちゃんがスイカをボールの置く位置に置いていた。
「え? PKだからボールを置いたの」
はぁ?
「蹴るのはスイカじゃなくて、ボールでしょ。どっから持ってきたのそのスイカ。返してきなさい」
ゆーちゃんは不満そうな顔をした。
「えー。みんなでスイカ割りしようよー、楽しいよー」
ここは砂浜じゃない。
「今はサッカーの試合中でしょ! スイカ割りしないし!」
「あ、そっか。試合中だった。てへっ」
殴っていいかな? 殴らないけど。
「わかったなら、そのスイカを戻して、ボールを置いて。一人目はゆーちゃんでいいから」
「ほーい」
ゆーちゃんはスイカを持って、観客席のほうへ歩いて行った。
「おじさん、スイカとそのビーチボール交換してー」
えっ!? おじさん、なんでここにビーチボール持ってきてるの!? この近くに砂浜はないよ!? いや、なんでビーチボールを持って来ようとしてるの!?
「ゆーちゃん、ビーチボールは使わないよ!」
「え? みんなでビーチバレーしようよー」
「だから、これからPK戦なの! いい加減怒るよ! はやくこっちきて準備してっ!」
「はーい」
勝負を決めるPK戦。練習試合だけど、とても緊張する。ここで外すと本番の試合でも引きずってしまいそう……。とても緊張するなぁ……。
「最初はゆーちゃんだよっ、行ってきて」
「ほいほーい」
ゆーちゃんがPKを蹴る場所まで歩いていく。
「うん? ゆーちゃん、なにを手に持ってるの?」
ゆーちゃんが手にサッカーボールではないものを持っている。
「これ? スイカだよ? 見てわかんないのー? ばかだなぁ」
「ばかなのはゆーちゃんだよっ! 蹴るのサッカーボールだよ! あとスイカしつこい!」
「えー、スイカで蹴れば絶対入るのにー」
「スイカは蹴るものじゃない! 蹴るのはサッカーボール! はやくスイカを片付けてボールを蹴って!」
ボールをセットしたゆーちゃん。審判がホイッスルを吹く。
……ごくりっ。ゆーちゃんは助走をつけて、蹴るモーションに入った。
「あっ」
ゆーちゃんが蹴ったボールはクロスバーをおおきく超えていった……。
「おー、これはホームランだぁ」
「少しぐらいは悔しがってよ!」
「PKは運だから落ち着いて落ち着いて」
「うう……」
こいつに腹パンでもしてやろうか……。
相手の一人目の選手はこっちと同じように外してくれた。ふぅ、よかった。こっちの二人目は私。しっかり決めなきゃ。
「しーちゃん、手を出して」
ゆーちゃんが私の手をつかんで手のひらに何かを押し付けてきた。
「これはなに?」
開くと黒い小さなものがある。
「スイカの種」
「おりゃあ!」
私は押し付けられたスイカの種をゆーちゃんに投げつけた。
「ゴミを私に押し付けるなー!」
「あたしはゴミ箱じゃないよ~」
というか、さっきのスイカを食べたのか……。
「行ってくるから邪魔だけはしないでね?」
「ほーい」
フリじゃないからね。
ボールの前まできた。このボールを蹴って、ゴールに入れるだけの簡単な動作……。この簡単な動作が難しい……。
「あっ、しーちゃん、あそこにUFOがっ!」
ったっく……。
「だから、邪魔しないでって言ってるでしょ!」
ちゃんと集中しなきゃ。
「だから、しーちゃん上見て上っ!」
「あーもう、うるさいって!」
しっかりとボールを見る。
「ボールをゴールに入れるだけ……ボールをゴールに入れるだけ……」
なんか後ろが騒がしいけど、しっかりゴールに入れなきゃ……。
そしてあたしはゴールを見た。
「え……なんだあれ……」
ゴールの上にはUFOがいた……。
「しーちゃん逃げて!」
とりあえず、走って逃げなきゃ。
「UFOがいるならいるって言いなさいよぉー!」
「言ったのに、聞いてくれないんだもんー!」
私たちが逃げ回っている間にUFOがどこかへ行ってしまい、どこかの山奥で遭難したのは別のお話。