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蜘蛛の糸

作者: 阿久田川

何故だ、俺は豊かな人生を歩んできたのに…。今、俺は天国から剥ぎ落とされようとしている。必死になって雲につかまっているが、足にかけられた白い糸が俺を尋常じゃない力で引っ張っている。俺が一体何をしたというのか。俺が76歳で癌で死んだ時は葬式に沢山の人が来てくれた。みんな俺の死を悲しんで涙を流してくれた。生きてる間の行いもよく、俺は天国に行く事が出来た。これで安心して成仏されると思ったらこのざまだ。色々思い出そうとするが他人から恨まれるような事なんて一切していないだろう。平凡に生きてきただけだ。頼む、神様、助けてくれ…。

「うわぁ、蜘蛛だ。」俺は虫が大の苦手だ。特に蝶や蛾なんてこの世から消え去ればいいと思っている。そんな俺が風呂に入ろうとした時、壁に蜘蛛がいるのに気がついた。小さな蜘蛛だった。人によっては何も気にせず殺してしまうだろう。だが俺には蜘蛛を安易に殺す事が出来なかった。蜘蛛には神が宿っている。俺が幼い時におばあちゃんが教えてくれた。本当かどうかはわからない。そもそも神様自体本当にいるのかどうかはわからない。そんな考えで蜘蛛を殺せずにいた。気にせずに風呂に入ればいいだけだ。風呂に入ったものの、俺の目はずっと蜘蛛を追っていた。ずっと壁に張り付き、動き回っている。気持ち悪い。こんなの気にせず風呂に入ってゆっくりできる方がおかしいだろう。すると蜘蛛は不意に動きを止めた。5分くらい経っただろうか。蜘蛛は未だに動く気配がない。死んだか。確かにさっき動いていた時も死ぬ前に苦しくて動いている、そんな動き方だったような気もする。流石に死んだ蜘蛛はシャワーで流してもバチなんかは当たらないだろう。俺はシャワーを手にして少量の水をかけた。すると蜘蛛は不意に動き始めた。俺はもう死んでいるものだと思っていたからびっくりしてシャワーの勢いを強めて蜘蛛を流してしまった。蜘蛛は暴れながら流されていった。全く不運な死だ。ただ蜘蛛は壁に張り付いていただけである。悪意など微塵もない。ただ人生を全うしていただけであろう。俺は寂しさを感じながら体を洗い始めた…。

思い出した、あの時俺は蜘蛛を殺した。なんの罪もない蜘蛛を殺した。あの時蜘蛛を助けてあげれば静かな最期を迎えられた。まさか死んでから後悔するとは思ってもいなかった。蜘蛛には本当に申し訳ないと思っている。だがもう限界だ。雲から落とされそうだ。そんな時、足にかけられた蜘蛛の糸が切れた。いや、切られた。天国いる仲間が助けてくれた。これでようやく本当の意味で悔いなく人生を送れる。神は最期まで人生を楽しませてくれた。

蜘蛛の糸を初めて読んだ時、ただただ衝撃を受けた事を覚えています。散々な人生を歩んできた悪人がただ一回蜘蛛の命を助けてあげた事で神から救いの手を差し伸べられたが、結局蜘蛛の糸は切られてしまうというシンプルな話の中に奥の深いものを感じました。それから虫が嫌いな私も蜘蛛だけはなかなか殺せずにいます。

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