表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

作者: 葉月牡丹

ボクは不眠症でとても苦しんでいる。

いくつかの病院をまわってみたが、どうも身体に合わないらしく、殆どが眠れない薬だった。

これでは効かない薬が増えていく一方で、お金が消えていく一方だ。

ボクは頭をかかえて悩み、今日も眠れない。


ある日、ボクの不眠症のことを知った祖母が、彼女のかかりつけの医師を紹介してくれた。

また効かない薬が増えるのではと暗い気持ちになりながらも、その医師のところへ行くことにした。


医師のもとへ行くと、こちらからは何も口にしていないのに、不眠症ですねと優しい声で言われる。目の下のクマがいつもひどいから、それで当てられたのだろう。

書類ではなく、ボクの顔だけを見てくれる医師は初めてだった。


「採血をさせてください」


一通りの問診を終えると、医師はそう口にする。

何か悪い病気なのでしょうかと俯いて聞くと、そうではないと優しい声で言われた。

ボクは安心して顔をあげる。


「明日また来てください」


今日は薬が出ないらしい。

何か特別な薬でないと、この不眠症は治らないのだろうか。

他の病院で治らなかったのだ。きっとそうなのだろうと思い、次の日に薬を取りにいった。


もらってきたカプセル状の薬を飲むと、不思議とよく眠ることができた。

やっと自分に合った薬が見つかったのだと、とても晴れ晴れとした気持ちになりながら、毎晩その薬を飲んで眠りについた。

これでやっと仕事に集中できる。そんなことも考えながら。


ついうっかりと、日の当たる場所に薬をひとつ置いたまま、忘れて仕事に来てしまった。高温になるところでは保存しないようにと、あれほどあの優しい声で注意されていたのに。

早々と仕事を片付けて家へ帰る。


悪いことに、置いていた薬は溶けてしまっていた。

中に入っていたものは液体だったようで、赤黒いものが広がっていた。

溶けてしまった薬を片付けながら、そのにおいに、何となく覚えがあるような気がする。

これは何のにおいだっただろう。


ボクはこの薬が何なのか分かってしまったようだ。分からない方が良かったと思いつつ、また薬をもらいにあの医師のもとへ行く。


「採血をさせてください」


一通りの問診を終えると、優しい声で医師は言う。

ボクは腕を差し出すほか無かった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ